Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

共感されない物語でいてほしい~図野象『おわりのそこみえ』

おわりのそこみえ作者:図野 象河出書房新社Amazon ポップな表紙デザインとは対照的に不吉なタイトル。 よく見ると、フォントまで不吉さを増幅している。 で、タイトルが『おわりのそこみえ』 そこみえ? 底が見えたのか?見えているのか? いずれにしても、…

関心を持たざるを得なくなるドキュメンタリー映画~『ビヨンド・ユートピア 脱北』

映画を観に行くシチュエーションというのは自分には2パターンあって、見る映画が完全に決まっている場合と、映画を観に行く日と時間だけ決まっている場合がある。 映画が決まっていない後者の場合でも、常に観たいストックはたくさん貯めているので、あまり…

ミステリ要素の配合が巧い短編集~古矢永塔子『ずっとそこにいるつもり?』

ずっとそこにいるつもり? (集英社文芸単行本)作者:古矢永塔子集英社Amazon 5編から成る短編集で、共通するのは、作中で伏せられていたことが、○○だと思っていたら実は××だった、という一種の叙述トリック。 ただ、どれも日常生活の中での人間関係を扱ってお…

「誰か」とは誰か?~宮部みゆき『誰か Somebody』

誰か―Somebody (文春文庫)作者:みゆき, 宮部文藝春秋Amazon 菜穂子と結婚する条件として、義父であり財界の要人である今多コンツェルン会長の今多嘉親の命で、コンツェルンの広報室に勤めることになった杉村三郎。その義父の運転手だった梶田信夫が、暴走す…

2つのパープルと苦手意識~映画『カラーパープル』×大河ドラマ『光る君へ』

『カラーパープル』は公開初日に観たのだが、鑑賞前に、映画.comでの感想を流し見して「誰にも共感できなかった」と書いている人がいるのを目にした。黒人差別という、構造的にはわかりやすいはずの問題を扱っていて「共感できない」ということがあるのだろ…

ノンフィクション、エンタメ、文学の境界~齊藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』×川上未映子『黄色い家』

齊藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』、川上未映子『黄色い家』という全くジャンルの異なる2冊の本を短い期間に連続して読んだ。 異なる、と書いたが、共通点もある。 『母という~』はタイトル通り、母が娘を拘束して、そこから逃げ出せないような「監禁」…

社会派ミステリで描く安楽死問題~中山七里『ドクター・デスの遺産』

ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人 「刑事犬養隼人」シリーズ (角川文庫)作者:中山 七里KADOKAWAAmazon先日久しぶりに会った2歳下の弟が、最近よく読んでいるということで中山七里を薦めてくれて、興味のある安楽死問題を扱った小説があるということで手に…

尋常じゃない「聡実くん」祭り~綾野剛・齋藤潤主演『カラオケ行こ!』

チラシを見たときから「これは、漫画そのままでは?」と思っていた。未読だったが、原作漫画の存在は知っており、和山やま作品も『夢中さ、きみに。』を読んだことがある。チラシの2人は漫画の2人にイメージ的にぴったりじゃないか。 実は初めて原作漫画を読…

植物状態の母との25年~朝比奈秋『植物少女』

植物少女作者:朝比奈 秋朝日新聞出版Amazon 「図書館で借りて読んだ」と書くと申し訳ない気がしてあえて書かないが、買って読む本より借りて読む本が多い。 予約貸し出しの場合、ほとんどの場合は、何故この本を予約したのかを思い出せない頃になって本が手…

「死にたい」という人を死なせてあげていいのか?~児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』

安楽死が合法の国で起こっていること (ちくま新書)作者:児玉真美筑摩書房Amazon昨年、興味はあったのに見逃した映画のひとつに『PLAN75』がある。 少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本で、満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>が国会で可決・施…

前澤友作の世界平和の語り方~『僕が宇宙に行った理由』

映画を見るときにネタバレを避けるためレビューは読まないが、映画.comやFilmarksで、どの程度の人が観て、★5つを満点として何点くらいついているのか?というのはどうしても気にしてしまう。 本作『僕が宇宙に行った理由』は、『プペル』のように「信者」的…

2023年下半期の振り返り(映画、本、音楽、そのほか)

もう年が明けてしまったが、昨年同様、年間の振り返りを行おう。 pocari.hatenablog.com pocari.hatenablog.com 映画(下半期ベスト、年間ベスト) 映画については上半期のまとめを7月に行っていた。pocari.hatenablog.com下半期に見たのは以下の12作品。 7…

役所広司演じる「平山さん」の禅と欺瞞~ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』

年末の帰省の際、名古屋駅周辺で時間を使う必要があり、上映時間スケジュールが、予定とぴったり合う、この映画を観に行った。自分の中ではディズニーのアニメ映画『ウィッシュ』が最有力候補だったが、一緒に観に行く息子に断られてこちらに。ヴィム・ヴェ…

戦争ではなく現代日本の問題として〜『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

2023最後の映画鑑賞は『ゲゲゲの謎』。 あまりに評判が良い上に、 2回見た知人からも繰り返しオススメされたので行ってきた。 前評判の高さがハードルを上げた部分もあったが、 全体を通して見ると過剰に興奮するような場所はなく、 何となく聞いていたもの…

差別・偏見とトットちゃん~佐々涼子『ボーダー 移民と難民』×映画『窓ぎわのトットちゃん』

佐々涼子『ボーダー 移民と難民』 ボーダー 移民と難民(集英社インターナショナル)作者:佐々涼子集英社Amazon佐々涼子さんの本は、昨年5月に『エンドオブライフ』を読んで非常に考えさせられたが、最新刊『夜明けを待つ』のあとがきで、佐々さんの現在の状…

イスラエルは何故ガザ虐殺で正当性を主張できるのか?~ダニー・ネフセタイ『国のために死ぬのはすばらしい?』

ここ最近は、イスラエル・パレスチナ関連のニュースが「酷い」。 停戦終了後、戦闘、というより、イスラエルによる一方的な攻撃の舞台はガザ地区北部から南部に移り、これまでの累計死者数は1万7千人を超えるという。ウクライナの戦争でもそういう側面はあっ…

湘南は晴れているか(湘南国際マラソンレビュー)(その2)

あらすじ(昨年までの湘南国際マラソンの成績) 前回書いた(1)は以下。 pocari.hatenablog.com さて、2022年に書いた(1)から1年間時間が空いてしまったが、あらすじは以下の通り。 湘南国際マラソンは、初参加での2015年のサブ4達成から2018年のサブ3.5…

先の読めない超展開ミステリ!でもこれでいいの?~染井為人『悪い夏』

悪い夏 (角川文庫)作者:染井 為人KADOKAWAAmazon 26歳の守は生活保護受給者のもとを回るケースワーカー。同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースの女性に肉体関係を迫っていると知った守は、真相を確かめようと女性の家を訪ねる。しかし、その出会…

世界は変わる、変えられる〜ドキュメンタリー映画『燃えあがる女性記者たち』

ドキュメンタリー映画ではあるが、キャラクターが立っており、その特殊な状況から、メイン登場人物たちが、最後まで無事でいられるのか、ハラハラしながら観た。 映画で特にスポットが当たるのは、新聞社「カバル・ラハリヤ」のミーラ、スニータ、シャームカ…

原作小説の「アンチ多様性」要素は映画でどう表現されたか~岸善幸監督『正欲』

原作小説を読み返して 正欲(新潮文庫)作者:朝井リョウ新潮社Amazon今回は、映画公開に備えて原作小説を読み返してみると大きな発見があった。 前回読んだときの感想は、その後、ビブリオバトルで発表することも考慮して、後半部のストーリーを避けるような…

父親が果たすべき役割は?~河合香織『母は死ねない』

母は死ねない (単行本)作者:河合 香織筑摩書房Amazon 河合香織さんは「この人の書く本はきっと自分にプラスになる」と信頼を置いている作家だ。 その信頼は、感性や能力的な部分だけでなく、人格的な部分にも及ぶ。「この人は誠実な人で、選んだテーマに安易…

怖い!楽しい!カッコいい!VFX技術ってすごい!山崎貴監督『ゴジラ-1.0』

劇場公開初日に観てきました! 怖い!楽しい!カッコいい! 何度も乗りたくなるジェットコースター的な映像美に満ちた作品でした!ただ、不満点もありましたので、良かった点(ゴジラプラス)、悪かった点(ゴジラマイナス)とに分けて感想を書いてみました…

「あしなが」の活動に携わる2つの団体について知るためブックレットを読んでみた

大学生時代に所属していた運動部の行事の一環として、年に一回、街頭で「あしなが」の募金活動を手伝っていた。これが理由で、今も駅前などで募金を見かけると、あしなが学生募金には、絶対に協力する(と言っても少額)というマイルールを自分に課している…

「なかったこと」にはできない思い~石井裕也監督『愛にイナズマ』

終わってみれば王道の枠内だったが、内容を知らずに「高評価のコメディドラマ」だと思って観に行ったので、どう転がるのか分からないうちに一気にエンディングへ。 皆が嘘を抱えて生きている。 嫌なことは忘れ、世間の常識に自分を合わせて暮らしている。 そ…

理性の錨(いかり)で共感にあらがえ~永井陽右『共感という病』

共感という病作者:永井陽右かんき出版Amazonこんな本だ!>「永井陽右が、共感についての持論をまとめあげて、最終章で、ラスボス内田樹と対決したら、合気道の技に絡めとられて、何だかよくわからないうちに負けてしまった話。」 「ニュース23」に、ハンサ…

騙されないための読書~井出智香恵『毒の恋-7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」』

毒の恋 7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」作者:井出智香恵双葉社Amazon かつて「レディコミの女王」と呼ばれた漫画家のSNSに届いた、ハリウッドスターからのメッセージ。 当初はウソだと思い、相手にもしなかったが、ある日、ビデオ通話をするこ…

世界の終わりはきっとこんな感じ2~エルヴェ・ル・テリエ 『異常(アノマリー)』

異常【アノマリー】作者:エルヴェ ル テリエ早川書房Amazon一週間くらい前に、奇妙な津波があった。通常は、地震発生⇒津波注意報⇒津波発生という流れになるはずが、地震発生の形跡がなく、いきなり津波が観測されて、それをもとに注意報が出される事態となっ…

「道徳」的な映画だろうと思って観たら今年ベスト~森達也監督『福田村事件』

『福田村事件』は、公開初日に観に行こうかとも思っていた映画。 しかし、少しずつ行く機会を逃し、また、アトロクの映画評も聴いてしまったおかげで何となく観た気にもなったことに逆に不安を感じ、無理矢理予約を入れた。 結果として、今年ベスト1級の作品…

シンプル・イズ・ベスト~チョン・ミョンソプ『記憶書店 殺人者を待つ空間』

記憶書店 殺人者を待つ空間作者:Chung Myung Seob講談社Amazon韓国ミステリは、以前、キム・ヨンハ『殺人者の記憶法』を読んでおり、かなり良い印象を持っている。『殺人者の記憶法』は、いわゆる、「絶海の孤島」「雪山の山荘」的なミステリ…

社会派ミステリの「失敗」~あさのあつこ『彼女が知らない隣人たち』

彼女が知らない隣人たち (角川書店単行本)作者:あさの あつこKADOKAWAAmazon最近読んで最もガッカリした小説。 端的に言うと、「社会問題を他人事ではなく、自分事として捉えてほしいという主旨で書かれたにもかかわらず、それが失敗した小説」に思えた。現…