Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

阿部和重『グランド・フィナーレ』(文藝春秋3月号)★★★

あらすじについては、まず、後でも引用するNHKニュース7の畠山智之アナウンサーの言葉を借りていうとこんなところだ。

特殊な性的趣味を妻に知られて離婚され、失意のうちに田舎に戻った男性が、ひょうんなことから頼まれた女子児童への演技指導を通じて、現実とのつながりを取り戻していく様子を描いた作品です

全体として非常に読みやすかった。しかし、とてもわかりにくい。
村上龍は推したそうだが、自身が選評で語っている通り「肝心な部分が書かれていない中途半端な小説」の言葉が全てだと思う。ラストを書かなかったり、曖昧にしたりする小説は何冊も読んだことがあるが、ここまで書かないものは読んだことが無かったのでショック。
文学賞メッタ切り!」の豊崎由美は、テレビブロスの連載*1で以下のように語る。

芝居が終わった後、何が起きるのか。それが”グランド・フィナーレ”なのに、その内容については明かさない。つまり、読者に解釈を任せるリドル・ストーリーの体裁をとっているわけです。

その後、豊崎は、テレビ報道で「現実とのつながりを取り戻していく様子を描いた作品です」と説明されていたことに対して、「それは違う」と言い切っている。つまり、「グランド・フィナーレ」は「最悪の結末」と解釈すべきだ、と。
僕もそう思う。そう思うのだが、そう思う根拠は「そうでないと、このタイトルの意味がない」と思うの一点に尽きる。文章中のさまざまなな流れは、ハッピーエンドに向かっているのに、最後のジンジャーマン(音声学習機能付きのぬいぐるみ)の台詞から、嫌な雰囲気が漂ってくるのは、やっぱりタイトルなんだろうなあ。
ただ、そこを評価しなかった場合、以下のような石原慎太郎の指摘も非常に納得出来るものだし、文章としては下手ではないが、賛否両論の作品というのはよくわかる。

  • 少女たちの自殺マニュアルへのアクセスという素材にしても都合のいいトピックスのコラージュの印象を出ない。
  • 複数の選考委員の間で、多少の瑕瑾はあっても、この作者には、もうそろそろこの将を与えても良いのではないかという声があったが、そうした発想はこの伝統ある文学賞の本質を損なうものではないかと危惧している。

ただ、はてなダイアリーキーワードの説明を見ると、連作小説(長編「シンセミア」の舞台であった山形県東根市神町を舞台とする作品群のひとつ)ということなので、それらと合わせて読むと面白いのかもしれない。

と、ここまで書いて自分の感想に戻ると、結局、「グランド・フィナーレ」に向かってしまう主人公に全く共感出来ないだけでなく、そういった少女偏愛性癖者という人目を引きやすいテーマを扱ったにしては、このテーマに対する作者の主張が全く見えてこないので、ちょっと作品単体としての評価は低い。ただ、文体は読みやすく、長編を読んでみたい。

*1:ところで、この豊崎由美の連載によると、村上龍は最後まで阿部和重の受賞に反対して「ロリコンはこんなもんじゃない」と20分も演説したことになっていますが、文藝春秋掲載の選評とは雰囲気が違うなあ。

「初」はてなダイアリーキーワードの編集

はてなダイアリー市民は、キーワードの編集が可能なわけですが、今回初めて権利を行使してみました。「グランド・フィナーレ」のキーワード説明が、以下の作成ガイドラインの部分からすると、あまりそぐわない内容だと思い、一文だけ削除しました。

(最終チェック)キーワードを登録する前に最後の確認。各点について確認してください。

  • キーワードの説明文は極力普遍的な内容で、誰が閲覧しても違和感無く理解ができることが求められています(罪が無く機知に富んだ駄洒落は歓迎)。大丈夫ですか?(なお説明文のないキーワードの登録も認められています)
  • キーワードははてなの共有財産であり、他のユーザーからの編集を受ける可能性があることを考慮に入れていますか?(あまりに個人の見解に走っていませんか?)
  • 他人に不快感を与えるようなもの、特定個人・組織を誹謗中傷する内容のもの、他人のプライバシーを侵害するもの、他人の著作権を侵害するもの、いわゆるアダルトなものは登録できません。大丈夫ですか?