Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

夏目漱石『それから』★★*1

今年は古典を頑張って読もうと思っていること、田島貴男が、インタビューで、『街男街女』の中の「赤い街の入り口」のヒントになったと語っていたことから、手に取った本。漱石は読みやすいのではないかという予想のもと読み始めたが、随分と読みにくく、えらく時間がかかった。読み始めてから2週間ほど経った、東京に向かう行きの新幹線で、ようやく読み終えることが出来た。
あらすじはこんな感じ。

  • 主人公の長井代助は、かつて互いに恋い慕い、今では友人の妻となった三千代への想いが日を追うごとに増すばかり。一大決心をして代助はついに行動に出る。

これだけ読むと、読めそうな話。しかし、この物語の最大の特徴は、長井代助の持つ、全く共感出来ないキャラクターだ。
相当な資産を持つ実業家の次男で、30歳であるが、職には就かず、月に一度は父と事業を継ぐ兄夫婦の住む実家に行き、受け取った金で生活する。しかし困窮するわけでなく、気軽に車(人力車、今の感覚でいうとタクシー?)を利用し、都内の家には手伝いと書生を住まわせる。(このような人間を「高等遊民」といったらしい)
僕もちょうど30歳だが、知り合いにこんな奴*1がいたら、殴ってやりたい。どんなにすごい哲学を持っていても、自分で財を築いたわけでないくせに悠々自適な生活をし、やたらと弁は立ち、「食うための職業は、誠実にゃ出来にくい」(P90)などと屁理屈を言って働こうとしない、そんな人に大恋愛を説かれても、彼の理論を聞くよりも先に「まず働け」と言ってしまうだろう。
そう、この本が読みにくいのは、「好感を持てない」主人公の独白的描写が延々と続くからだ。花村萬月の作品には、ナルシシズムのきつい独白的な描写が多いが、主人公に共感出来る部分が多いだけに、苦にならない。『それから』の長井代助は、本当に嫌いなタイプだ。しかし、芥川龍之介の言によれば「人々の中には、(長井代助の性格に)惚れ込んだどころか、自ら代助を気取った人も、少なくなかったと思う」(解説P298)ということらしい。性格に惚れ込む云々以前に「まず働けよ」と言いたくなるので、全くそんな気になれない。
漱石の作品の中でも上位に位置する作品のようだが、僕にとっては、主人公長井代助への苛立ちばかりが残る最悪の印象しか残らない。これを手始めに古典を読み進めようと思っていた一冊目だったので、足下をすくわれた気分。
ちなみに、オリジナル・ラヴ「赤い街の入り口」の歌詞の内容は、ラスト近くになって初めて主体的な行動を取り始める代助の姿勢と重なるのだが、代助が嫌いなだけに、全くこの曲の価値を高めることにはつながらなかった。

*1:例えば、三千代が、夫の失職のために生活資金に困るのを見るに見かねて、「三千代に渡すための」金を実家にもらいにいくが、「何だそれ?」だ。顔を洗って出直せ。