Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

都市が見た夢のかたち〜鬼頭莫宏『殻都市の夢』

殻都市の夢 (F×comics)

殻都市の夢 (F×comics)

都市の上に都市を重ねる形で成長を続ける殻都市。
都市が“無秩序に拡大”するスプロール現象が平面的ではなく立体的に生じた世界の物語とでもいえるだろうか。SF漫画ではあるが、科学技術の進歩が著しいわけではなく、未来というよりは、平行世界にあって21世紀と同時代の物語と言えるだろう。
長編ではないので、世界観については基本設定のみで多くの説明は無いが、毎回生じる特徴的な事件の背後には、しっかりとした殻都市という世界が存在する。すっきりとした絵柄や少ないコマ割りのせいだけでなく、極力台詞と説明を排した構成のため、ページは本当に白く、それも背景に時折うつる殻都市のごちゃごちゃ感を際立たせており、面白い。
全7話で完結した物語だが、自分が好きだったのは「ほれ薬を求めたために、本当の自分の気持ちに疑いをもってしまった少年の話」かな。感情の動きを、表情やカットで表現するのがとても巧く、短編映画を見ているような気になった。


『ぼくらの』を読み始めた頃は、あまり感じなかったが、この一冊を読んで、巧い漫画家だとつくづく感じた。勿論、優秀な編集者がいるのかもしれないが、自らのポテンシャルを自覚して高いレベルで引き出すのが巧い漫画家だと思う。短編集なんかも読んでみたい。