Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

田島貴男ソロ・ライブひとりソウルショウ2/9感想

曲目
1.女を捜せ
2.FREE RIDE(新曲)
3.ローラーブレイド・レース
4.大車輪
5.ミッドナイト・シャッフル
6.春のラブバラード
7.築地オーライ
8.ディア・ベイビー 
(休憩)
9.ジェンダー
10.ひとりぼっちのアイツ
11.SEXとSURFIN'とBIKEとR&R(新曲)
12.Bird
13.アダルトオンリー
14.或る逃避行
15.ブロンコ
16.ボラーレ

(アンコール)
17.プライマル
18.好運なツアー(新曲)
19.ムーンストーン
20.R&R
21.夜をぶっとばせ

渋谷クラブクアトロ2DAYS。
今回はオリジナル・ラヴではなく、田島貴男ソロ・ライブということでかなり特殊なライヴになりそうという予想を胸に自分が参加したのは二日目「ポニーキャニオンDAYS」
ライヴ後いつもは、あの曲やって欲しかった!みたいな感想も多いが、これまでの通常とのライヴと差があり過ぎて、この日はほとんどそれが無かった。
ループマシンやコンピュータを駆使したライヴ演奏は、ひとりなのに多重コーラスもその場で入れたりしているのを見ていて単純に面白かった。
が、本編がいかに面白かったかという最も重要な部分は他の方に任せて(笑)、それ以外の部分について語ることにする。
なお、今回のライヴの総括は、本人の日記(「ひとりソウルショウ」あとがきとこれから)が全てであるような気がする。
以下は、蛇足というより蛇の足の指の爪くらいの内容だな。

ソウルパワーとソウルショウ

田島貴男は、のっけから「ひとりひとりのソウルショウ」と言っていた。
「ひとりソウルショウ」は、田島貴男一人によるソウルショウという意味ではなく、観客も含め、「ひとりひとりの」ソウルショウなのだ。*1
が、「ソウルショウ」以上の頻度で、田島は「ソウルパワー」と最初から最後まで言い続けていた。勿論、これはツアータイトルに絡めた意図もあろうが、それ以外に具体的な作品がある。それが、映画『ソウル・パワー』

モハメド・アリジョージ・フォアマンの“キンシャサの奇跡”*2で有名なキンシャサで行われた“ブラック・ウッドストック”とも呼ばれる世界最強の音楽祭「ザイール'74」を追ったドキュメンタリー映画。映画タイトルは、劇中に登場するジェームス・ブラウンの曲名から取っているようだ。田島貴男も日記で触れている。(というか、それで知った)

映画「ソウル・パワー」の試写会に行ってきた。
JBよりもかっこ良くダンスをする歌手は、
今後人類には現れないのではないか。
普通じゃない、めちゃくちゃにすごい音楽だ。
他の出演ミュージシャンも抜群にかっこいい。
20世紀の究極の音楽だな。
音楽をやる人はみんな見るべきじゃないかな。

ソウル・パワーと連呼した田島貴男は、時代の転換点となった伝説的な音楽祭を扱った映画に、今回のライヴを重ねたのかもしれない。
いつもより、「ムーンストーン」の「ぼくらのつぎのスタートの未来のカンバスはなにもまだ描かれていない」という歌詞が、そして、「ジェンダー」の「出逢いと別れがおれを変える/なにも変わらなければ生きてなにかを知ることになんの価値がある」という歌詞が胸に響いたのも、そのためだろうか。
(補足)ツイッターで指摘を受けたが、他にも、この日の選曲は、一人で新しいことにチャレンジしていく決意を歌った歌が多い。「築地オーライ」の「旅立つ日が来たのさ たったひとりで」や、「ひとりぼっちのアイツ」の「もうすぐ次の街へ出て行ってなんでも一人でやらなきゃって」等。
こういった決意を新曲「スターター」で歌っていたのが2008年のオリジナル・ラヴ。新曲では敢えて、踊りまくれと歌うのが最新型のオリジナル・ラヴなのだろう。少し心に余裕ができたのかも。(笑)


余談だが、ソウル・パワーの試写会の翌日2010年6月2日の田島貴男の日記、ソロモン・バークのライヴでの感想の中で「ソウルショウ」という言葉が登場しているのも面白い。どちらも今回のツアーの方向性を決める上で重要な体験だったに違いないし、良い作品には何故か連続して出会うことが多いという自分の経験則とも一致しているなあ。

先日友人に誘われて日比谷野音で行われたブルースフェスティバルの、
ソロモン・バークのライブに行って来た。
(略)
彼はもう高齢のはずだけど、とくに歌の衰えは感じられなかった。
無理なく楽しめて、踊れて、泣けて、気もち良く盛り上がる、
まさにソウルショウといった素晴らしいライブだった。
ゴスペルの影響が感じられるMCもノリがあって最高!
ライブの途中ダレる時間は一度もなかった。

新曲たち

2日目に演奏された4曲の中で最も沸いたのが、「セックスとサーフィンとバイクとロックンロール(仮題)」。
演奏終了後、照れ隠しもあるのだろうが、田島が「馬鹿な歌詞でしょ」と呟いていたのが印象的だが、踊りまくれという内容の歌だった。
田島貴男が“あとがき”で最もやりたかったと語った「オリジナル・ラヴがライブでやってきた、ちょっとクレイジーなバカ騒ぎ、お祭りのような部分」が一番体現できた時間だったように思う。ここ数年、ライヴ中に発表された新曲の中では異常な盛り上がり方で、個人的には、2日目で一番気持ちが盛り上がった。
演奏前に「テレビ番組ソウルトレインのドン・コーネリアスが後ろに立っていると思ってください!」とMCで説明していたが、非常に「ソウルショウ」寄りな曲だと思うし、ここ数年の楽曲の中で一番踊れる曲であること間違いない楽曲だ。


次に良かったのが、オープニング「女を捜せ」の直後に披露された「Free Ride」。このあと、「ローラーブレイド・レース」「大車輪」「ミッドナイト・シャッフル」と繋がるのだが、一連の流れにスッと入る感じの音楽。(ジャンル名等疎くて説明できません。申し訳ない。)これまで、やや歌詞の内容重視で作られてきたような新曲群と比べると、ライヴ受けしやすい曲だと思った。
なお、“Free Ride”というタイトルと呼応するような“振り〜回されずに”という歌詞が綺麗だった。(ダジャレ好きとして見逃せない部分)


そして、最近ではおなじみの2曲「春のラヴ・バラード」「好運なツアー」。前者は「小さな恋の歌」だとか「小さなラヴバラード」とかいろいろタイトルが変わって、最新版は「春のラヴ・バラード」となっているようだ。バンド演奏だった前回ツアーとは異なり、かなりシンプルな演奏だったのが功を奏したのか、この曲は、分かりやすいポップソングに聴こえた。「好運なツアー」は、前回はツアータイトルだったこともあり、かなり印象が良かったはずだが、今回は、ちょっと(悪い意味で)フォークっぽく聴こえた。アルバムに入るときには、だいぶアレンジが施されるのだろうから、またCDで確認したい。

観客として時代の転換点に立ち会う覚悟

田島貴男は「ひとりソウルショウ」を“すべての大道芸人達に捧げる僕なりのオマージュ”と語っているが、何故大道芸人なのか。
それは、第一義的には、やっていることが大道芸的であることだからである。diaryにもそう書いてある。
しかし、それ以上に、大道芸にはステージが無い=観客と同じ立ち位置という意味が大きいと思う。いや、ツアーの個人的印象から、そうこじつけたい。
これまでのバンド演奏のツアーでは、基本的に「聴く」(演者)〜「聴かせる」(観客)関係が土台としてある。普通の弾き語りでも、それは同じで、この関係がさらに強化されたものになる。
端的に言えば「ひとりソウルショウ」は、「聴く」〜「聴かせる」関係を捨て、「楽しむ」(演者)〜「楽しむ」(観客)関係、つまり演者と観客がほぼ同じ立ち位置に立つツアーを目指していたように思う。実際に、今回のステージは、おそらく田島貴男が実際に曲作りを行う状況と似た環境だったこともあり、楽曲が生み出された当初の音楽の楽しさ、よりプリミティブな楽しさに満ちていたように思う。その意味では、ライヴの中で曲を製作してしまうという奥田民生の「ひとりカンタビレ」のような雰囲気を醸し出していたのではないかと想像する。


田島貴男のあとがきから再度引用する。

僕がやりたかったのはオリジナル・ラヴがライブでやってきた、
ちょっとクレイジーなバカ騒ぎ、お祭りのような部分を、
「ひとり」でできないか、
自分ならではの歌をそこで歌えないだろうか、
みんなで踊って歌えるような弾き語りができないか、ということだった。
普通の弾き語りとは違ったものなのかもしれなかった。

振り返ると、これまで以上に、田島貴男は、観客に歌うことを要求し、踊ることを要求していた。
そう思えば、そこで十分馬鹿になり切れなかった自分は時代の転換点に立ち会う覚悟が不十分だったなあと反省した。

その他備忘録

  • ソロライヴだったこともあり譜面台は一曲目から大活躍。もにょもにょは全く無かったように思う。
  • 「今日はハーモニカ(ブルースハープ)でしか話しません」というMCが序盤にあった。そんなことは無かったが、やはりMCは少なかった。所属問題等について言及は無し。
  • 「女を捜せ」のあとだったか、「今日は、途中に休憩入ります。落語みたいに」というMCがあった。実際、途中休憩は5,6分取った。
  • 休憩後の第二部から、“特別ゲスト”コンピュータが活躍。
  • ムーンストーンは、わざとなのか、最初のループマシンのリズムどりを間違えたのか、今まで聴いた中では最速だった。
  • アルバム制作は佳境に入っているとのこと。発売時期等については不明。
  • ツアーグッズは青いオリジナル・ラヴ20周年のTシャツ。好運なツアーTシャツも売っていた。個人的には、タオルをメインで売ってほしい。Tシャツは家で邪魔者になる可能性が高いので。
  • 紙ジャケが結構美しいレッドカーテンのアルバムは買った。が、まだあまり聴いてません。レッドカーテンのポスターも売っていた。
  • 今回のライヴと、これからの田島貴男の音楽活動に与える影響大なミュージシャン七尾旅人のアルバムは未聴。聴いておきたい。

過去日記(参考)

→最近、田島貴男が、これまで以上に音楽を落語に喩えることが多いような気がするので。

→2009年7月ツアーの感想。新曲「セックスとサーフィンとバイクとロックンロール(仮題)」は、メッセージ性が希薄で肩の力が抜けているという意味で、やはり『東京飛行』には欠けていた部分だと思う。

→所属問題について、ひとりソウルショウで、田島貴男からアナウンスがあるという予想をしていましたが、見事に外れました。

→スーパー老婆心

*1:ソウル小学校を見つけたら“本当のソウルショウ”としてリンクしようと思っていたが、見つからなかった。というかハングル読めないと見つけられない。笑

*2:キンシャサの奇跡は沢木耕太郎『一瞬の夏』でも扱われますよね。確か。