Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

直木賞受賞作の続編がこれでいいのか?〜奥田英朗『町長選挙』

町長選挙 (文春文庫)

町長選挙 (文春文庫)

直近の読書傾向や感想から次の本を選ぶことが自分にはよくある。
たとえば、難しめな本のあとは簡単に読める本、小説が連続しすぎたあとはそれ以外、暗い本を読んだあとは明るい本を読む。『町長選挙』は、まさにそうやって選んだ本。
全体的に暗く、グロテスクな内容の乙一『暗黒童話』を読んだあと、極端に明るい小説として、シリーズ前2作を読んで信頼しきっている奥田英朗のこの本を手に取った。さまざまな立場の人の悩みを、トンデモ神経科医・伊良部が対処したり対処しなかったりする連作短編集の第三弾。伊良部なら、もやもやした感じを吹き飛ばしてくれるはず!


さて、結論から書くと、これは頂けない。前2作と比べて明らかに質が落ちてしまった。単なるドタバタコメディで、深みも何もない。これが直木賞受賞作の続編だとはとても思えない。
前作までとの大きな違いで今回の一番の特徴は実在の人物が登場すること。(表題作「町長選挙」を除く)

貧富の差があれ一般人が出ていた前2作とは大きく異なる。これは、実はシリーズの面白さの根幹にかかわる改変だと思う。
つまり、伊良部シリーズの面白さは、クライアントの極端な悩みに読者が次第に共感していき、「この人の悩み、少し分かる。自分にも似ている部分があるかも・・・」と気持ちを寄せる部分と、伊良部のハチャメチャキャラが黄金比率で配合され、最終的に「何故かホロリとくる話」「読んでいる自分の悩みも吹き飛ぶ話」が成り立つマジックにあった。
しかし、今回、芸能人という飛び道具に出ていることと合わせて、「カリスマ稼業」以外の3作では政治的なテーマが入り込んでいることが、読者の共感を呼びにくくしており、結果としてマジックは成立せず、話も全く収束していないという結果になっていると思う。「他人事」をベースとするテレビメディアの芸能人を扱った物語や政治の話は、深刻な悩みであっても「裏話」的な興味視線で見てしまう。結果的に、登場人物の悩みにシンパシーを感じる「共感スイッチ」が入らなくなるのだと思う。
伊良部もいつも通りではあったものの、前作ほどの活躍を見せることはなく、『イン・ザ・プール』から『空中ブランコ』への、あの盛り上がりを返してほしいと叫びたくなるような残念な一冊だった。
これを一冊目に読んでいたなら、シリーズの他の作品を読みたいとは思わなかっただろう。
いや、本当に残念だ。

補足

漫画化されており、さらに昨年ドラマ化していたとは知らなかった。

神経科医Dr.イラブ (1) (ヤングチャンピオンコミックス)

神経科医Dr.イラブ (1) (ヤングチャンピオンコミックス)

直木賞作家・奥田英朗による『精神科医・伊良部シリーズ』の連続ドラマ化で、精神科医・伊良部一郎が彼の元を訪れる患者たちに破天荒な診察を施し、心の病を解放させていく姿を描く一話完結形式となっている。徳重聡は本作が連続ドラマ初主演となる。また伊良部が着用する白衣のデザインを、徳重が所属する石原プロモーションの先輩・舘ひろしが手がけた。『伊良部シリーズ』はこれまで何度か映像化されているが、現在発売済みの3つの単行本全てを原作として使用するのは、フジテレビで放送されたアニメ『空中ブランコ』に続き2例目となる。

ドラマ主演が何故に徳重聡なのかは不明。白衣のデザインを舘ひろしというのも意味がよく分からない。主題歌は、AKB48からの派生ユニット「Not yet」だったということも含めて全体的に意味がよく分からない。