Yondaful Days!

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将棋マイブームに火をつけた一冊〜米長邦雄『われ敗れたり』

われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る

われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る

「電王戦」というものがある。
プロ棋士vsコンピュータが将棋で対戦する内容で、今年の3/23からはその第二回目が開かれるのだが、自分はこれが楽しみで仕方ない。
自分は、この本を読んで初めて第一回電王戦の激闘について知った素人で将棋も全く詳しくない。にもかかわらず、電王戦の場合、「将棋」以上に、人間VSコンピュータという勝負の歴史がすこぶる面白く惹きつけられ、関連書籍を何冊かまとめて読んだ。
あまりに魅力に満ち満ちていることから、とにかく、多くの人が関心を持つべきイベントであるという気持ちを強く持つに至った。
そこで、何回かに渡って関連本を紹介しながら、自分が興味を持っているポイントを整理していきたいと思う。

本日3月1日は「将棋界の一番長い日」と呼ばれる第71期A級順位戦最終局が行われ、羽生善治三冠が名人への挑戦権を獲得したとか、橋本崇載八段が降級とかのニュースを聞き、A級など上位の人の名前も少しずつ分かるようになり自分の中では大ブームの兆しが…。とにかく近年の流れを含め、絶賛勉強中!何かお気づきのことがありましたらコメント下さい!

電王戦については、とにかく予告編PVを見てください。
自分は、これを見て、BGMを含めてあまりにかっこいいので、マッシヴ・アタック聴いてようとか変な方向に派生したりもしています。


なお、特設ページでは、参戦する棋士やソフト開発者、そして米長邦雄前会長や羽生三冠のインタビューも見ることができます!(予告編PVもコメント付きで見た方が面白いかも)


さて、今回紹介する『われ敗れたり』を書いたのは、表紙にも写真が写っている米長邦雄永世棋聖(以下、米長会長←言いやすいので)。
素人の自分でも名前を知っていたほどの棋士だが、2003年に現役を引退し、2005年から将棋連盟の会長となっていた。
そんな米長会長が2012年1月14日に行われたコンピュータ将棋ソフトのボンクラーズとの戦いを振り返った記録がこの本。
しかし、対局直後の2012年2月にこの本を出したあと、米長会長は12月に前立腺癌で亡くなっている。


コンピュータ将棋と棋士の戦いの歴史は、それほど古くなく、盛り上がってきたのは近年になってから。
というのも昔は弱かった。10数年前は、大相撲巡業で横綱が少年相撲の相手をするという程度の座興でしかなかった。
それが、将棋ソフトの研究が進んだこととハード的な能力の向上があり、2005年頃からいい勝負ができるようになり、非公式の場ではぽつぽつとプロ棋士といい勝負をするような話が聞かれるようになった。


そこで2005年に対局禁止令を出したのが当時将棋連盟会長になったばかりの米長邦雄氏。プロ棋士は公式の場でのコンピュータとの対戦を禁止されることになる。その後、様々な事情があり以下の2戦が開催され、あから2010は、女流棋士トップに勝ってしまう!

  • 2007年 渡辺竜王 VS ボナンザ(人間の勝利)
  • 2010年 清水市代女流王将(当時)VS あから2010(コンピュータの勝利)


さらに上のトッププロとの勝負を望むコンピュータ将棋に対して、満を持して登場したのが米長会長本人。
禁止令を出しておいて自分が望むというのはかなりの目立ちたがりなのだと思うが、そこら辺のことは、この満面の笑みを浮かべたダブルピースの写真を見ると分かる気がする。


しかし、目立ちたがり屋だったとしても、引退して8年を経て、また病気も抱えながら、このような対局に自ら手を上げるところが凄い。
(なお、ニコニコ動画の会見の様子では、負けたら引退します。と発言して、総ツッコミが入っていた…)


本の中では、現役を離れて長いこともあり、対戦に向けてかなりの準備をした様子が描かれている。
家のパソコンにインストールした対戦相手となる「ボンクラーズ」と言うソフトに「ぼんちゃん」と名付けて毎日対戦した様子や、対戦当日の環境への細かい配慮(正座か椅子か、コンピュータ側の駒を動かすのは誰か)も含めて入念な準備をしていく。渡辺竜王と対決したボナンザ(ボンクラーズの親のようなもの)の開発者からアドバイスを受けるなど、この年齢で、若造の話を聞く耳を持っているあたりも凄い。
そして、当日、一手目に指したのは角道も飛車道も空けない「6二玉」。奇をてらったこの一手について説明することが、この本が書かれた理由のひとつでもあり、本編のクライマックスでもある。
もう一つの読みどころは、対局直前に奥さんに言われた「あなたは勝てません」の理由。そこで指摘された全盛期に比べて欠けているものは、全く想像もしないもので、そこにも米長会長の人間的魅力が溢れていたように思う。


途中まで押し気味に進めていただけに、米長会長はこの敗戦にはかなり悔いが残るようで、第二回電王戦で「許されるのならば」ボンクラーズと再戦したい、というような話も書いている。が、結局、第二回電王戦の対戦カード発表後まもなく、12月に前立腺がんで亡くなってしまった。
しかし、好運にも命をつないでいる人たちは、この対局の続きを見ることができる。第二回電王戦は現役プロ棋士5人対5種のコンピュータ将棋ソフトの団体戦。世界コンピュータ将棋選手権第5位までがコンピュータ側の代表に選ばれる中、ボンクラーズ改めPuellaαも世界2位として参戦する。
電王戦予告編PVにも、米長会長の姿が何度も登場し、既にいない人だとはとても信じられないが、この本を読んだ自分としては、米長会長のためにも、人間vsコンピュータの戦いを見届けなくては、という気になっている。