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コンピュータ側の「稽古」を知る〜コンピュータ将棋協会監修『人間に勝つコンピュータ将棋の作り方』

人間に勝つコンピュータ将棋の作り方

人間に勝つコンピュータ将棋の作り方

3/23から行われるプロ棋士VSコンピュータ将棋の世紀の決戦、第二回電王戦は、米長永世棋聖vsボンクラーズで行われた第一回とは異なり、5対5の団体戦になっている。
プロ棋士に対するコンピュータ側は、世界コンピュータ将棋選手権の上位5位までで、その1位に輝いたのが、予告編PVでも異様な迫力を誇るGPS将棋。
現在、そのGPS将棋を倒したら100万円というイベントが行われている。

人類vs最強将棋ソフト 第2回将棋電王戦開催記念イベント ニコニコ本社でGPS将棋に挑戦!勝ったら賞金100万円!!
■開催日 :2/24(日)、3/2(土)、3/3(日)、3/9(土)、3/10(日)
■開催時間:11時〜18時
■開催場所:ニコニコ本社原宿2F 特設ブース
■参加資格:プロ棋士女流棋士奨励会員でないこと
■対局相手:対局相手/GPS将棋(PC1台で駆動)


1手30秒というコンピュータ側に有利にも思えるルールの中で、意外にも既に3名が100万円を獲得している。*1

将棋ソフト「GPS将棋」との対局イベントが2月24日から毎週土日にニコニコ本社(原宿)で開かれている。勝てば100万円という太っ腹なこの企画。相手は「世界最強」といわれる将棋ソフトだけに、人間側の勝利は難しいかと思われていたが、ついに100万円をゲットする猛者が現れた。それも3人も!

本番では670台をつなぐこのソフトの真の力は、1台では引き出せないのかもしれないが、だとしたら将棋ソフトの強さというのは結局何なのだろうとも考えてしまう。
そもそも、近年コンピュータ将棋が力をつけてきた理由と、その強さの源泉は何なのか?
そのようなコンピュータ将棋の歴史を知るのにふさわしく、また、非常に内容が濃い本が、今回紹介する『人間に勝つコンピュータ将棋の作り方』


ソフト開発者をはじめ、多数の関係者による文章が寄せられているが、大枠を知るには1章、7章、10章、そして副題にもなっている「あから2010」と清水市代女流王将(当時)の戦いについて記した11章がわかりやすい。Bonanzaについては、改めて他の本でも触れるが、コンピュータ将棋の世界も近年の急成長の要因として、Bonanzaというソフトの登場と、それが「オープンソース」であったことによる恩恵が大きいようだ。
また、「あから2010」が負けたら責任をとって坊主になると宣言していた松原仁教授(はこだて未来大学)のプロローグとエピローグがなかなか読ませる。「名人に勝つXデイのあとで」と題されたエピローグでは「オセロの悲劇」を引き合いに出しながら人間対コンピュータの対戦の悲観的な将来について語られている。
オセロの場合、オセロのチャンピオン(日本人)とコンピュータとの対戦が実現しないまま時が過ぎ、やっと対戦することになった1997年の試合で人間がコンピュータに6戦全敗してしまった。つまり、人間のチャンピオンとコンピュータの戦いにはタイミングが大事なのだ。チェスの場合は1997年に世界チャンピオンがコンピュータに敗れて(1勝2敗3分け)、これもニュースになったが、前年には人間側が勝っており、適切なタイミングだったという。将棋においては、今回やっとA級棋士との対戦が実現したが、一刻も早くタイトル保有者との戦いを行うべきとする意見だ。


この本のいいところは、色々なソフトの開発者やコンピュータ将棋が進化してきた環境について知ることができること。
今回の電王戦で登場するソフトで言うと、冒頭で挙げた「GPS将棋」と「習蘇」について、それぞれ一章割かれて開発者がその成長について語っている。
コンピュータ将棋が弱いとされる序盤・中盤の評価を重視し、大局観を実現しようとする習蘇、東京大学の研究の一貫ということもあり、他のコンピュータ将棋と切磋琢磨しながら成長していこうとするGPS将棋。評価関数や探索方法について熱く語られすぎて理解の範疇を超えるところが多くなりながらも、それぞれの思いが伝わってくる。なお、ここで筆を取られている習蘇の開発者の竹内章さんは、ニコニコ動画のコメントでも「吉田栄作〜」という文字が飛ぶなど、なかなかハンサムな方だ。


また、BonanzaGPS将棋などのオープンソースのプログラムの存在と合わせて、コンピュータ将棋同士が、日々ぶつかり稽古をするFloodgate(インターネット上のコンピュータ将棋の対局場)の話について詳しく知ることができたのも良かった。
そしてそのような個性溢れる4つのプログラムが合議制(多数決)によって指し手を決める「あから2010」の誕生、そして女流王将への勝利。*2少年漫画のような展開がそこにはある。


また、本の中でそこまで詳しく触れられているわけではないが、はじめから時間切れによる勝利を狙うプログラム「稲庭将棋」の存在も面白い。歩を一切前に出さない(!)というあり得ない戦法にもかかわらず、2010年の大会ではかなりいい線までいったという。そういったまさに「裏技」的な部分があるのもコンピュータ将棋の面白いところ。米長永世棋聖の「6二玉」も含め、何かと飛び道具があるのも素人的には興味を引く。これもまさに少年漫画のようだ。(下の方の記事で、稲庭戦法の具体的な動きがアニメで見られる。かなり笑ってしまう…)


3/23から始まる電王戦では、それらのコンピュータ将棋の「ぶつかり稽古」と切磋琢磨の成果を、夢にまで見たプロ棋士相手の対局として見ることができるというのは、まさに「胸熱」な展開だ。
Bonanzaと戦った渡辺竜王は、短期間に人間ではあり得ないほどの成長を遂げていることに驚いたという。今回の100万円イベントは、GPS将棋の最後の調整も兼ねているのだろうから、負けてむしろ弱点を克服し、しかも670台つなぐ本番のGPS将棋は相当強くなっているのだろう。対戦するA級棋士三浦弘行八段の勝利を祈っています。

*1:ただ、いくつかの記事を読むと、問題は何度かフリーズしたという話。本番ではフリーズによる時間切れなど無いことを望む。

*2:この部分は別の本で…