Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

桐山のアタマをかち割ってやってほしいのです!〜羽海野チカ『3月のライオン』(3)

3月のライオン 3 (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン 3 (ヤングアニマルコミックス)

このマンガの主人公・桐山零はうじうじしていて好きになれない。
いや、よく考えてみるとダメダメで考え方が後ろ向きの主人公は嫌いではないはずで、桐山零を好きになれないのは、むしろ、ダメな境遇を詩的に表現して、歌のように自分語りをしてしまう部分。また、家族の問題という重いものを背負った設定が嫌いなのかもしれない。あと、こんなにうじうじしているのに、三姉妹から好かれるなどのモテぶりが鼻につくのかもしれない(笑)
実際、独白に始まり、独白に終わる22話なんて、三姉妹との年越しの話があるから多少は息がつけるが、連載誌で読んでいたら、かなり鬱憤が溜まっていただろう。
最後のページのひとりごとを読んでも「けっ」しか出ないよ、もー。ここまで自己憐憫がひどいと、二階堂が兄者こと島田八段にお願いしたように「桐山のアタマをかち割ってやってほしい」と思ってしまう。

自分のひとりぼっちに気をとられ
誰かのひとりぼっちに気づけないでいた
まぬけな僕に 除夜の鐘はしんしんとふりつもり
大きな河みたいにゆっくりと 新しい年がやって来ようとしていた


とはいえ、この巻では、一人称も含めて一話まるまるスミスさんをフィーチャーした26話のような回もあり、島田、後藤などのA級棋士も含め、桐山以外の活躍が段々目立つようになってきている。
零が、島田八段に対して「A級棋士つかまえてサブキャラ扱い」と、自らの思い上がりを反省したように、そういった一人一人の棋士を、まさに駒として見るのではなく、それぞれが抱えた人生を丁寧に描いていくのがこの漫画のいいところ。その意味ではボクシング漫画に似ているかもしれない。
スミスさんの回のように、そのキャラクターの生活を辿る見せ方もあれば、獅子王戦の挑戦者に決定した島田八段に対して東北の雑誌記者が話しかける台詞*1で、そのキャラクターが背負うものを見せるやり方もある。わずかなコマ数でも、キャラクターの人間的魅力や背景にあるものを伝える力がある漫画だと思う。
そんな中、二階堂との関係も含めて、3巻は島田八段が一番盛り上がる巻だった。宗谷名人と同期というから、イメージとしては羽生世代のA級棋士という感じなのだろうか。


なお、二階堂は、この巻では島田の弟弟子としての出番が多く、完全に小動物のように描かれるので、初読時は、2巻までの豪快な二階堂と同一人物と分からなかったことを思い出した。
『聖の青春』を読んでも、対局以外での棋士仲間との切磋琢磨はプロ棋士の成長にとってとても重要なことのようだ。
ラストは零が研究会への参加を申し出るところで終わるが、次巻以降での、そういった対局以外での世界の広がりが楽しみだ。

一人ではどーにもならん事でもさ
誰かと一緒にがんばればクリアできる問題ってけっこうあるんだ
そうやって力をかりたら
次は相手が困ってる時
お前が力をかしてやればいい
世界ってそうやってまわってるんだ

林田先生の言葉が沁みる巻でした。

先崎学のライオン将棋コラム

今回のコラムは以下の通りでした。

  1. 偉くて強い!将棋連盟のトップ・会長職
  2. 師弟制度が将棋界をガッチリ支えてます!
  3. 究極の粘り!入玉って一体なあに?

このうち、指定制度については、米長邦雄内弟子(住み込みの弟子)として入門した頃の思い出を語っているのがいいですね。
同時期に内弟子だった林葉直子が中1、先崎八段は小4だった、しかも師匠が米長邦雄だったというんだから、色々と面白い話がありそう。
今では内弟子というのは無いそうですが、『聖の青春』でも師弟の強い絆が描かれていました。

*1:(「アンタ地元の後援会のじーさんばーさんの期待しょってるんだから」「そうそう、ウチの子ども将棋クラブの講師兼ヒーローでもあるんだから」→子どもに期待されているっていうのはポイントが高いなあ…。