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宝石から保健室まで〜野本陽代『ハッブル望遠鏡の宇宙遺産』

カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産 (岩波新書)

カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産 (岩波新書)

先日、NASAが公開した土星のパノラマ写真(土星探査機カッシーニが7月に撮影)には驚きました。というより、ポカーンとしてしまいました。
以下がその写真です。もはや自然物の写真には見えません。

これも含めて、宇宙の写真には大きな魅力があり、かつて田島貴男が興奮しながら語っていたことが思い出されます。

NASAのホームページや、
宇宙の最新情報をわかりやすく載せている
日本語のインターネットのページがあって、
家に帰ってからのなごみの時間として、
つい毎日見てしまうんですよ。
頭んなかの休憩ってかんじかな。
夜の何分かだけ、オレの頭が行く場所。
あまりにも地球から離れすぎた映像を
見たりするのって、おもしろいんだよ。

特に(上のページで田島が述べているように)ハッブル望遠鏡の映像の数々は、自分が普段それほど宇宙関係の映像を見る機会がないからかもしれませんが、まさにアートのレベルになっており、上野の科学博物館ではなく、美術館の方で「ハッブル美術館展」が開かれてもおかしくないような映像ばかりです。
その意味で、今回読んだ『ハッブル望遠鏡の宇宙遺産』は、カラー写真満載で文庫本サイズでも軽くトリップ出来る素晴らしい本です。
以下、本に紹介されている膨大な写真の中で、特にビビビと来た写真をジャンル別に分けて紹介します。
写真は、いずれもハッブル本家のHP(http://hubblesite.org/)から持ってきたものですが、より深くトリップしたい人は本家HP行くのが手っ取り早いです。

宝石系

まずは、一番イメージしやすい、宝石系。夜空に浮かぶ星々を宝石に喩えるのは定番すぎて陳腐のような感じもしますが、ハッブルの写真を見ていると、改めてその喩えは確かに正しいと思ってしまいます。
順に、うさぎ座の惑星状星雲IC418、いっかくじゅう座V838、じょうぎ座のアリ星雲。


そういえば宝石といえば宝石箱。これはパッケージが黒なので、宇宙に光る星をどうしても思い出させますが、実際にはバニラアイスがベースなので、宇宙な感じは箱を開けるまでですね。(食べたことがあるかどうかは思い出せませんが笑)

食べ物系

星座は神話がベースになっているために食べ物は少ないですが、科学者たちは見つけた星を喩えるときに、食べ物を思い出す人も多いようです。
こちらはゴメツエッグ星雲(はくちょう座)、(ゴメス)のハンバーガー(いて座)、目玉焼き銀河(渦巻銀河NGC7742)です。

宇宙アート系

宝石系や食べ物系とは違い、これが何で宇宙の写真?という、まさにアートな宇宙の表情。あまりに美しすぎて何か騙されているのではないかと疑ってしまいます。
順に、バブル星雲(カシオペア座)、コーン星雲(いっかくじゅう座)、らせん星雲。

保健室のポスター系

忘れてはいけないのがこちらです。例えば、宇宙の写真が微生物の顕微鏡写真と似てくるということはあり得るだろうなあ、という感じはしていました。実際、二つを並べられても、自分には違いは分からないだろうと思います。しかし、小学校の保健室前に貼ってあるポスター(例えば、正常な人の肺/喫煙者の肺)の写真を想像させる写真が出てくるのは、シンプルな驚きがありました。渦巻銀河にカテゴライズされるものは、何故かそのようなものが多いです。
順に、渦巻銀河M51(りょうけん座)、ブラックアイとも呼ばれる渦巻銀河M64(かみのけ座)、渦巻銀河NGC253。

ハッブル望遠鏡の歴史とこれから

さて、この本の後半では、そんなハッブル宇宙望遠鏡の歴史について取り上げられています。
ハッブルは、そもそも1970年代後半にNASAが打ち出した大規模観測計画(Great Observatories)の中核をなすものだったといいます。この計画は、ガンマ線X線、可視光(紫外線の一部、赤外線の一部を含む)、赤外線、それぞれの波長をカバーする大きな観測衛星を4機打ち上げる計画で、1977年に一部に予算がついてから、長い時間をかけて4機が打ち上げられました。

このうちハッブルは、打ち上げ直後に主鏡に問題があり、ピンボケ写真しか撮れないことがわかり世界を失望させましたが、1993年にスペースシャトルによるサービスミッションが行われ、4人の宇宙飛行士の船外活動によって、無事にその機能を復活し、パワーアップして甦ります。この部分の流れは他の本でも取り上げられていましたが、Wikipediaを読んでも十分面白い内容です。

サービスミッションはその後も、1997年、1999年、2002年と行なわれます。2004年の時点では、2006年に最後のサービス・ミッションを終えたあと、2011年に打ち上げ予定の後継機ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡にバトンタッチをする予定でした。
しかし、2003年のコロンビア号の事故を受けたアメリカの新宇宙政策が2004年に決まり、このときに「スペース・シャトルを使ったハッブルへのサービス・ミッションは行わない」ことが発表になりました。宇宙飛行士の安全性を考えてというのが主な理由です。
5度目のサービス・ミッションでの修理が行われなければ、ハッブルは延命できないため、ロボットを使ったミッションを行なう可能性も含めて検討されている、というのが、本の刊行された2004年時点での状況でした。
しかし、調べてみると、最後のサービス・ミッションは行われたようです。

  • 2006年10月31日:方針を転換し、5度目のサービスミッションを行い、2013年まで利用を続けるための修理を行うことがNASAより発表された。
  • 2007年1月23日:ACSが再度故障。同年2月19日になって一部機能の復旧に成功したものの、主要機能の復旧は絶望的である。WFPC2などの旧型機器は動作し続けているため、機能は劣るものの代用が可能。
  • 2009年5月11日:最後のサービスミッション (SM4) (STS-125)。WFPC2をWFC3(Wide Field Camera 3)へ交換、故障したACSとSTISの修理、COS(Cosmic Origins Spectrograph)の設置、ジャイロとバッテリーの交換など大幅な修理を行う。ハッブルは「今までで最高の性能」(NASA)になり、少なくとも2014年まで寿命が延びる。ミッションは無事完了し、4ヶ月間のテスト期間を経て活動を再開する。


このときに用いられたスペースシャトルが2011年に最後に打ち上げられたアトランティス号になるということで、スペースシャトルはもう飛ばないんだという事実に改めて驚きました。
さて、後継機であるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、といえば、現在は2018年に打ち上げ予定とのこと。Wikipediaで見ると、周回軌道ではなく、特殊な位置(ラグランジュ点)に漂わせるということで、それだけで次世代機な感じがして、ドキドキします(笑)。

JWSTの運用は、ESANASAが共同で行う計画である。打ち上げ後JWSTは、太陽 - 地球のラグランジュ点の1つ(L2)に置かれることになっている。JWSTは、ハッブル宇宙望遠鏡(以下「HST」と記す)のように地球の周回軌道を飛行するのではなく、地球からみて太陽とは反対側150万kmの位置の空間に漂わせるように飛行する。
観測のためには、機体を極低温に冷却し、太陽や地球の光なども避ける必要がある。そのため、JWSTは折畳まれた遮光板を搭載し、遮光板によってJWSTの機体に到達する不要な光が遮蔽される。L2点においては、地球と太陽が望遠鏡の視界の中で常に同じ相対的位置を占めるため、頻繁に位置修正しなくとも遮光板を確実に機能させることができる。
HSTは地表から約600kmという比較的低い軌道上を飛行している。このため、光学機器にトラブルが発生してもスペースシャトルで現地へ行って修理することが可能であった。これに対し、JWSTは地球から150万kmもの遠距離に置かれるため、万が一トラブルが発生してもHSTのように修理人員を派遣することは事実上不可能とみられている。


そんなジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡ですが、先日のアメリカの政府機関の一時閉鎖の問題の煽りをもろに受けたということでニュースになっていました。

米国では議会内での対立による財政混乱問題により政府機関の一時的な閉鎖・活動停止が起こったが、これによって科学技術や研究開発に対し大きな損害が出ているという(The guardian、Voice of America、本家/.)。 たとえば、NASAハッブル望遠鏡の後継機の開発を行っているTom Greene氏は、後継機のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は開発スケジュールがタイトで合ったにもかかわらず大きな遅れが出たと述べている。その損害額は1日あたりの100万ドルにおよび、開発で計画されていたテストのいくつかをキャンセルする可能性があるという。これにより、同望遠鏡はトラブルを抱える可能性があると指摘している。


宇宙開発にはどうしても多額の費用が必要となるため、これからも先進国による宇宙開発には幾多ものトラブルが立ちはだかるのだとは思いますが、だからこそ、「はやぶさ」なんかも含めて、こういったプロジェクトの歴史を辿るだけでも、ものすごく面白いですね。
Wikipediaを辿って大興奮しながら一連の流れを読みましたが、ハッブル宇宙望遠鏡をめぐる最近までの流れについては、また本で読みたい。そう思いました。