Yondaful Days!

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あさのあつこが「魔性の一冊」と絶賛する青春文学の金字塔〜森絵都『DIVE!!』

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

高さ10メートルの飛込み台から時速60キロでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う飛込み競技。その一瞬に魅了された少年たちの通う弱小ダイビングクラブ存続の条件は、なんとオリンピック出場だった! 女コーチのやり方に戸惑い反発しながらも、今、平凡な少年たちのすべてをかけた、青春の熱い戦いが始まる――。大人たちのおしつけを越えて、自分らしくあるために、飛べ!

文庫版は大抵、巻末に解説があるから好きだ。
今回は上下巻それぞれに解説があり、今回の二人もそうだが当然のことながら作品の内容を褒めることが多い。
しかし、通常の解説と比較して「異常」とすら言えるほどの圧倒的な絶賛の嵐を送っているのが、上巻のあさのあつこ
わざわざ解説にタイトルが付けられており、そのタイトルも凄い。

翔ぶ! DIVE!! 魔性の一冊によせて   あさのあつこ

「魔性の一冊」などという威力のある褒め言葉を使えるのは、作家ならではなんだろうか。このタイトルだけで読んでみたいと思わせる空気を纏わせる。
書き出しから3ページくらいは延々と、DIVE!!ではなく、森絵都への称賛の言葉が並ぶ。

森絵都という作家がいる。
(略)
得体が知れない。だから、心が騒ぐ。
森絵都の生み出す物には、魔性の匂いがする。その匂いに捉えられてしまったのは、わたしだけなのだろうか。わたしだけ?まさか?
美しく力の漲る文章、巧みな構成、卓越した人物造形、軽やかに「今」を切り取る手腕・・・巧く、美しく、爽やかな一冊・・・森絵都の作品について回る評を目にすると、わたしはばたばたと無様に手を振りたくなる。
ちがう、ちがう、この人は、そんな生易しい書き手ではない。もっと恐ろしい、底知れぬ人なのだと、叫びたくなるのだ。

ほとんど人では無いものを目の前にしているような書き方で、あさのあつこにとって森絵都がどれほど恐れ多い作家なのかというのがよく分かる。
そして、中でも『DIVE!!』は、特別な作品であるようで、冒頭の一文は、この解説の中で、わざわざ4度も引用される。

少年はその一瞬を待っていた。
この一文で『DIVE!!』は始まる。沖津飛沫という一人の少年がまさに、空に飛ぶ、その瞬間の場面から幕を開くのだ。

少年はその一瞬を待っていた。
ここではまだ名も明かされぬ少年は、一瞬を捉え、飛ぶ。断崖から海へとまっすぐに落ちていく。最初の1ページ、読み始めて僅か数秒。目の前に、鮮やかに、あまりに鮮やかに飛び込みの場面が広がった。わたしは唖然とする。

少年はその一瞬を待っていた。
最初の、本当に書き出しの一文から心を捉えられ、奪われ、否応なくのめり込んでしまう。これは技巧の力だけでできることではなく、技巧の力が研ぎ澄まされていなければできないことだ。

少年はその一瞬を待っていた。
記憶から剥がれない、焼き付き心を騒がせる。とんでもない作品であり作家だとつくづく思う。

とにかく、上巻の解説は、興奮冷めやらない、只事では無い感じが伝わってきて、最近読んだ中ではベストな解説だった。


さて、下巻の解説は佐藤多佳子。実はノーマークだった作家さんで、代表作である『一瞬の風になれ』(第28回(2007年) 吉川英治文学新人賞受賞、第4回(2007年) 本屋大賞受賞)の内容紹介にはこうある。

あさのあつこの『バッテリー』、森絵都の『DIVE!』と並び称される、極上の青春スポーツ小説。
主人公である新二の周りには、2人の天才がいる。サッカー選手の兄・健一と、短距離走者の親友・連だ。新二は兄への複雑な想いからサッカーを諦めるが、連の美しい走りに導かれ、スプリンターの道を歩むことになる。夢は、ひとつ。どこまでも速くなること。信じ合える仲間、強力なライバル、気になる異性。神奈川県の高校陸上部を舞台に、新二の新たな挑戦が始まった――。

つまり、青春スポーツ小説3作の作家がここに勢揃いしているという点でなかなか面白い本編−解説の組み合わせになっている。
佐藤多佳子は、あさのあつこよりに比べれば抑えた口調でこの小説を絶賛し、引き込まれる冒頭の文章に加えて、構成についても取り上げている。

『DIVE!!』は、際立った個性と才能を持つ3人の少年たちが、独特に深い友情とライバル関係の中で、それぞれの技を磨き上げて、オリンピック代表を目指して対決する物語だ。単行本は4巻あり、1巻が知季、2巻が飛沫、3巻が要一のストーリー。4巻は、オリンピック代表権をかけた試合が、登場人物9人の視点から多角的に描かれる。文庫は1、2巻が上巻、3、4巻が下巻の2冊になる。
なんと巧みな構成だろう。パーフェクトだ・・・と思ってしまう。ストーリーのうまさも抜群で、3巻までのラストには、必ず、次の巻の盛り上がりや波瀾を予想させるエピソードがクライマックスシーンとして出てくる。いわゆる「引き」だ。

構成の巧みさは納得で、特に、4巻の場面になって、メインキャラクター以外の登場人物たちの内なる思いに触れることもできて良かった。ただ、構成の妙を存分に味わうためには、4巻構成の単行本の方が良かったかもしれない。
そして、佐藤多佳子が作品の魅力の最大のポイントとして上げているのはキャラクター。

『DIVE!!』を好きな理由は、本当にたくさんある。ダイビングのシーンが、リアルで魅力的なこと。簡潔で的確でユーモラスな切れ味のいい文章。特に会話がいい。少年たちの会話がポップで楽しくて、時に切なくて最高!先が知りたくてたまらなくなるストーリー展開。色々ありすぎるのだが、やはり一番大きいのは、キャラクターの魅力だろう。
主人公格の三人の少年、脇を固めるコーチ陣、親兄弟、GF、友人、後輩、皆、素晴らしい。皆が、この物語の中で、かけがえのない“自分”として生き生きと動いている。誰一人として、ただの“役割”として終わっている人物がいない。これは、すごいことだ。だからこそ、九人の視点で語られる五輪代表決定の試合が生きてくる。

また、これに加えて主人公格3人の性格と、飛び込みの得意技とがそっくり対応していることも挙げられているが、これには本当に納得。やはりスポーツ小説なので、必殺技があった方が気分が盛り上がる。


そして、二人の解説では特に触れられていなかったが、ラストの引き際が美しいことも大事なポイントだと思う。全体的な構成と合わせて、これ以上ないほどのまとまりを見せている。
第四部は五輪代表決定の試合で、多分ほとんどの人が、どのような結果に終われば物語的に美しいか頭を悩ませながら読むことになるのだが、簡単には予想できない、しかし終わってみれば、納得性の高いラストで、とても満足できた。


ということで、青春文学の金字塔という惹き文句は伊達じゃない。素晴らしい読書体験でした。
レビューは少し辛いものが多い気がしますが、「コンクリート・ドラゴン」を実際に見てみるためにも、映画を少し見てみたい。

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過去日記

⇒結局、まだ読破していない。ここで挙げられている『一瞬の風になれ』と合わせて読んでおこう。