Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

オリジナル・ラブ11/5発売『FREE SOUL』、11/19発売『Light Mellow』について

Light Mellow オリジナル・ラブ

Light Mellow オリジナル・ラブ

コンピ収録曲の比較

アルバム 曲名 FREE SOUL Light Mellow 備考
LOVE! LOVE! & LOVE! 夜をぶっとばせ 1-5 - 夏ツアー演奏曲
  DEEP FRENCH KISS 1-8 - 夏ツアー演奏曲
  LOVE VISTA 1-13 -  
  ORANGE MECHANIC SUICIDE 1-14 -  
  GIANT LOVE 2-4 -  
結晶 月の裏で会いましょう (ALBUM VERSION) 1-3 - 夏ツアー演奏曲
  ヴィーナス (Album Edit Version) 1-9 - 夏ツアー演奏曲
  スキャンダル 2-3 - 夏ツアー演奏曲
  フレンズ 2-5 - 夏ツアー演奏曲
EYES サンシャイン・ロマンス (New Version) 1-4 - 夏ツアー演奏曲
  DEEPER 1-11 -  
  LET’S GO! 2-2 - 夏ツアー演奏曲
  いつか見上げた空に 2-15 -  
風の歌を聴け The Rover 1-1 - 夏ツアー演奏曲
  フィエス 1-6 -  
  朝日のあたる道 (ALBUM MIX) 1-7 - 夏ツアー演奏曲
  二つの手のように 2-7 -  
Rainbow Race ブロンコ 2-1 -  
  夢を見る人 1-12 3  
  流星都市 1-10 9  
Desire Words of Love 2-8 8 夏ツアー演奏曲
  青空のむこうから 2-9 -  
  ブラック・コーヒー 2-14 -  
  プライマル (Album Mix) 2-13 - 夏ツアー演奏曲
  プライマル(Single Version) - 11 夏ツアー演奏曲
ELEVEN GRAFFITI アイリス 2-12 16  
L 水の音楽 2-11 -
  羽毛とピストル 2-10 -  
  羽毛とピストル(XL Version) - 5  
ビッグクランチ ショウマン - 6  
ムーンストーン 守護天使 - 7  
  夜行性 - 14  
踊る太陽 恋の彗星 - 1 夏ツアー演奏曲
  美貌の罠 - 13  
街男 街女 沈黙の薔薇 (Single Version) - 2  
キングスロード 青い鳥 - 10  
東京飛行 カフカの城 - 15  
その他 接吻 kiss 1-2 - 夏ツアー演奏曲
  微笑みについて 2-6 -  
  あまく危険な香り - 4  
  ソウルタトゥー - 12  


収録曲を眺めると、当然、ベスト盤などでの定番曲以外に目が行きます。
今回、特にLightmellowは発売元がポニーキャニオンということもあり、律儀なポニーキャニオン縛りになっていて、故に、これまでベスト盤で入っていない曲が多いです。
オリジナルアルバム・シングル*1以外で初となる収録曲は以下。

  • GIANT LOVE (FREESOUL)
  • ブラック・コーヒー (FREESOUL)
  • アイリス (FREESOUL、Light Mellow)
  • ショウマン (Light Mellow)
  • 守護天使 (Light Mellow)
  • 美貌の罠 (Light Mellow)
  • 沈黙の薔薇 (Light Mellow)
  • 青い鳥 (Light Mellow)
  • カフカの城 (Light Mellow)
  • あまく危険な香り (Light Mellow)
  • ソウルタトゥー (Light Mellow)


2枚のアルバムが重複して選んでいるのが「アイリス」であるところがいいですね。シングル以外ではポニーキャニオン時代の代表曲と言っても過言ではありません。(過言でしょうか?笑)
また、「ショウマン」、「青い鳥」、「カフカの城」、「沈黙の薔薇」、「あまく危険な香り」という納得感の高い選曲も嬉しいです。これを見ると、改めてポニーキャニオンのベスト盤である『ボラーレ!ザ・ベスト・セレクションズ・オブ・オリジナル・ラヴ』で、これらの曲が入っていないのか不思議でなりません。*2
「美貌の罠」と「ソウルタトゥー」のセットは、好きな人が多いのは知っていますが、自分はあまり思い入れがなく、聴いてこなかったので、これを機会に聴いてみようと思います。
東芝EMI時代の楽曲から初収録として、FREESOULの方に「GIANT LOVE」が入っているのは嬉しいです。この曲が大好きな自分にとっては、今回、一番のサプライズです。
なお、いつもの定番曲ではありませんが、これまで別アルバムに収録されたことのある曲は以下です。超名盤である『Summer Love』の3曲はいいですね。(同コンピ収録の「スクランブル」があるともっと良かったです)

  • フレンズ、DEEPER、二つの手のように→『Summer Love』
  • 青空のむこうから→シングル『ファッションアピール』
  • フィエスタ→『ひとりソウルショウ』『Overblow Tour 2012 Live』
  • 水の音楽、羽毛とピストル→『XL』
  • 流星都市→『変身』

FREESOULについて

Freesoulというコンピは、世間がまだ渋谷系を追いかけていた時代、そしてCDが驚くほど売れた時代に特に人気のあったコンピで、自分も大学生から社会人にかけてはちょこちょこ聴いていました。*3
今年は発売開始から20周年ということで、オリジナル・ラブのコンピもその一環となります。
今年春に書かれた以下の記事(ダカーポ)にもその辺りのことに触れられています。

1994年春、4枚のコンピレイションCDがリリースされました。そのシリーズの名は“フリー・ソウル”。選曲・監修は、レコードガイド「Suburbia Suite」でそれまでにもソフト・ロックやサントラ、ブラジル音楽などの名盤に光を当てた橋本徹。そしてそのコンピレイションは、その後の人々のリスニング・スタイルや音楽に対するパースペクティヴを鮮やかに、決定的に(劇的に)塗り替えたのです――。やや大仰な書き出しになってしまいましたが、フリー・ソウルを青春時代にリアルタイムで体験した僕のような人間にとっては、そう表現したくなるくらいのインパクトがありました。それから20年。フリー・ソウルは、また新しい季節を迎えようとしています。
http://dacapo.magazineworld.jp/music/145918/


この記事にも書かれているように、アニバーサリーイヤーに取り上げられる日本人ミュージシャンでは、4月にキリンジ、7月にクレイジーケンバンドと来て、今回、二組よりも古参ミュージシャンとして、満を持してオリジナル・ラブの登場というわけです。

ところで、ジャケットが最高にかっこいい『フリー・ソウルキリンジ』ですが、発売に合わせた日本コロムビアのお祭り感のあるHP(http://columbia.jp/kirinji/)がいいです。担当の人のはしゃぎっぷりが伝わってきます。

  • 橋本徹本人の推薦文                       ←こういう企画はあるべき!
  • 試聴用のトレイラー映像(youtube)               ←かっこいい!
  • キリンジ×渋谷カフェ・アプレミディ」期間限定コラボ      ←ありかも!
  • 全31曲の各曲のライナー ノーツ募集               ←素晴らしい企画!
  • キリンジ×FREE SOUL楽曲タイトル入りTシャツ」プレゼント ←やりすぎ笑


実質的には、「ファン目線」のベストアルバム的な要素も入っているLightuMellowを出すポニーキャニオンももっとはしゃいで欲しいですね。


FREESOULについて2

FREESOULのライナーノーツとして、橋本徹さん本人による文章がサイトに挙がっています。
併せてアップされている、紙ジャケ『風の歌を聴け』(2007)のライナーノーツの文章は初めて読みましたが、熱量の高い文章で、橋本徹さんのオリジナル・ラブへの想いが伝わってきました。特に1966年前後に生まれた“ジャスタジ世代”(田島貴男と同い年)の人たちの胸を打つこと間違いないので未読の人は是非。
今回のライナーノーツも各曲紹介(ここは橋本徹の文章ではない)の前の序文にあたるところで、その熱い想いがぶちまけられています。出だしはこんな感じです。

オリジナル・ラヴについては、何とも言葉にしがたい。いや、言葉にならない魅力こそ、オリジナル・ラヴなのだろう。2007年に紙ジャケットでリマスター復刻された『風の歌を聴け』のライナーを担当したときは、感情をふりしぼって書いた。人生で最も好きになった日本のアーティストと言ってもいいかもしれない。
それでも一言でその魅力を表すとしたら、タフな音楽だけが持つ輝き、ということに尽きるような気もする。だから聴くと胸がスキッとするのだろう。無条件に心が晴れてゆくような感覚を覚える。強靭で、しなやかにしなる音楽。フィリップ・マーロウが言ったように、「男はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」のだ。


選曲について文章から拾うと、このコンピは「何十年か後のリスナーにも聴かれることを想定して」選曲されているそうです。ただし、以下の文章を見ると、ディスク1は本人にとって「思い入れの強い選曲」で、ディスク2の一部は、「次点だったけど、ライヴでの印象が良かったから選曲した曲」ということみたいです。

ディスク1は目を瞑っていてもできてしまったに違いない。ディスク2のセレクトは、今年の夏の初めに観た、90年代の人気作を積極的に歌ったライヴの影響が、少しあるかもしれない。

ということで、「ライヴの影響」というのは何なのか、少し気になって調べてみました。
「今年の夏の初めに観た、90年代の人気作を積極的に歌ったライヴ」は、おそらくツアー「真夏の夜のオリジナル・ラブ」のことのように思うので、収録曲リストのうち、ツアー演奏曲を備考欄に書き加えてみました。すると、ライヴの影響を受けた選曲というのは、どうも「フレンズ」「スキャンダル」「Words of Love」ということみたいです。確かに自分にとっても、これらは、あのライブでの印象が強い曲でした。


なお、この序文の締め(各曲解説の前)が本当に素晴らしいです。

ひとつだけエピソードを加えるなら、2011年3月のこと。音楽や文化に携わる者の多くが、震災を前に無力感に苛まれていただろうあの頃、僕でさえ音楽を聴くような気持ちになれなかったとき、夜の首都高速をタクシーで走っていて、不意に「流星都市」の歌いだしのフレーズをつぶやいてしまった。節電で普段より穏やかな夜景に、「smile 夜の広がりに散って和らいでゆく この気持ち」という歌詞も、どうしようもなく沁みた。音楽は人の心を救うことができる、と再び音楽の力を信じようと思えた一場面だった。あれから3年以上がすぎて、僕個人はようやく、「もう少しだけドライヴしよう 流れ星を一晩中くぐり抜けて」と前を向いて歌えるようになった。


いつの日も想いは 輝き続ける
いつの日も空に 君の歌が響く

音楽というものが、それを聴く人たちの心を強く動かし、生きる支え、そして明日への活力となる、そういった力を持つということを確認し、そして、自分がそういった音楽に触れることのできる喜びを改めて噛みしめました。

FREE SOUL 感想1:「ブラックコーヒー」が選ばれている理由

CDを聴くまでは、なぜブラックコーヒー?と思っていましたが、実際に流れで聞いてみて納得です。
最後に「ブラックコーヒー」〜「いつか見上げた空に」を置くことによって生まれるエンディング感。
長い映画を観終わったときのような、余韻を含みながら明るく広がっていくイメージで、2枚組という大長編のオリジナル・ラブのベストアルバムの最後を飾る一曲として「いつか見上げた空に」が選ばれているだけでも、このコンピの選曲の確からしさを感じます。
そして、映画のエンドロールのようなこの曲の良さを120%出すために「ブラックコーヒー」が存在しているのだと思います。「アイリス」「プライマル」は、良い曲ですが、切実さで息が詰まるような流れから、鉄条網をくぐって逃げる「あの娘」の歌を置くことで、気持ちが一旦リセットされる気がします。
浮いてしまうのではないか?とも思っていましたが、少し浮いていることによって巧くメリハリがつけられているのです。


「いつか見上げた空に」は、やはり本職は流石と思わせるライナーノーツの曲紹介も素晴らしいです。

ラストを飾るのは、ピアノに導かれてスタートする、爽快なドライヴィング・チューン。カブリオレの幌を全開にして街を抜け出しどこかへ行きたくなる。初夏の夕暮れどきの空が、主人公のサウダージを誘うというストーリーにもグッとくる。田島貴男という人物の中には、いつも少年のようなイノセンスやロマンティシズムがあり、それが彼の音楽を説得力あるものにしているのだろうということを感じさせられる一曲。見知らぬ新たな景色を追い求める田島の音楽的好奇心は、現在もこれからも、素晴らしい音楽となって僕たちの心を揺さぶるとともに、愛と勇気と優しさという人間らしい感情を与え続けてくれるに違いない。


田島貴男の褒め言葉として「オシャレ」という言葉が使われるとき、それは田島貴男の本質からかなりずれる評価のように思います。
長くオリジナル・ラブの音楽を聴いてきた自分からしてみると、ここで彼を評価する言葉として「少年」という言葉が選ばれているのは、とても納得できます。「ブラックコーヒー」〜「いつか見上げた空に」の流れは、田島貴男の「少年」性がよく現れていて、とても「わかっている」選曲だと思いました。

Light Mellowについて

Freesoulと異なり、Light Mellowについても金澤寿和さんにしても、今回のCDが出るまで知りませんでしたが調べてみると、色々と面白いです。何が面白いかは、実際に、Light Mellowのコンピを見るとよくわかると思います。
例えば、Light Mellowの会社別編集版のポニーキャニオン編のCD(2014.4発売)の選曲はこんな感じ。

1. COAST-LINE/ 高橋拓也 ※初CD化
2. Shinin' You Shinin' Day / CHAR ※Single Version
3. Bless You, Girls! / 南波志帆
4. 夢を見る人 / ORIGINAL LOVE
5. Day Dreamin' / 広谷順子
6. 恋人たちの夜(Lover's Evening)/ 沢 チエ ※初CD化
7. オンリー・ミュージック / 大宮京子&オレンジ
8. Angela / 尾崎亜美
9. COCKTAIL NIGHT/ PARACHUTE
10. 偽りのDJ / ダディ竹千代&東京おとぼけCATS
11. SILLY CRUSH / 松原正樹
12. Somewhere in TOKYO / 古内東子
13. Sea Side Story / 伊勢正三
14. 自由になって / Selfish
15. Lonely Feelin' / 小島恵理 ※初CD化
16. 真夜中のドア ~Stay With Me~ / 松原みき
17. 一途な星 / JILL-Decoy association
18. ともに元気 / ザ・ラストショウ

Light Mellow ~ Dream

Light Mellow ~ Dream


結構知らない(笑)。
自分が無知のせいもあるが、オリジナル・ラブ以外は、南波志帆尾崎亜美古内東子、CHARくらいしか聴いたことが無く、伊勢正三は名前を知っている程度で、それ以外は全く知りません。
しかも、南波志帆松原みきだと、まるで時代が違います。
この主旨について、2004年刊行の『Light Mellow 和モノ669』(2013年に出た増補版が『Light Mellow 和モノSpecial』)の序文から引用してみます。

AOR、ニューソウル、ボサノヴァソウル・ジャズなど、70年代を中心としたヴィンテージサウンドへの気球が高まっている昨今。ロンドンのクラブ・シーンで沸き起こったレアグルーヴ・ムーブメントは、90年代の日本でフリーソウルとして花開き、DJ文化やカフェ・ブームの一翼を担った。そのポイントは、DJたちが自分のフィーリングにマッチする音を厳選し、ノージャンルの新しいリスニング・スタイルを提示した点にある。これによって旧態依然のジャンル区分がスッパリ分断され、グルーヴやメロウネスをキーワードにしたハイブリッドな感性が育てられた。若い世代にとっては、古い音も最新の音も初めて接するという意味では同等。ヒットしたかどうかも関係がない。自分のスウィート・スポットをグリグリ刺激してくれれば、それでいいのだ。
そうした曲を70年代以降の和製ポップスから抽出したのが本書である。


このあとに引用する文章にも出てくるように、「ライトメロウ」という言葉自体は99年生まれで、「フリーソウル」のムーブメントを受けて出てきたもの。エヴァーグリーンの名曲を、有名無名、新旧に関わりなく広く集めたものということのようです。特に、「和モノ」については、70年代以降の邦楽を扱うときに重要視されることの多いナイアガラ系の作品が軽めに扱われるというところが特徴的です。

ライトメロウとは、自分が99年に発行した洋楽AORのディスクガイド『AOR Light Mellow』に用いた言葉。最近は音楽誌のレビューなどでも見かけるが、基本にあるのは70年代後半の音楽シーンで頻繁に使われた”ソフト&メロウ”のテイストである。当時この言葉はAORだけでなく、フレイヴァーを同じくするクロスオーヴァー(≒フュージョン)、ソウル系の作品にも適用。ハイブリッド化したコンテンポラリー・サウンドの代名詞になっていた。幅広いジャンルから様々なインフルエンスを受け、時代と共に進化しながらそのコンビネーション・バランスで聴かせる。そこに今日的なグルーヴ感の切り口を加味したのが、ライトメロウの極意。だから、オールディーズの意匠を現代風に甦らせたナイアガラ系の作品は、やや軽い扱いになっている。


ということで、基本にあるのはAORやシティポップスという括りのようだが、太字部分なんかはオリジナル・ラブにも通じるところがあります。
今回、序文を引用した『Light Mellow 和モノ〜』は、実際に買って読んでみているのですが、知らない音楽が沢山でクラクラするようなディスクガイドになっています。自分は最近は新たな音楽を見つける機会も減り、趣味を広げようという意志も減退していましたが、これを眺めて70〜80年代の音楽をもっと聴いてみたい気持ちになりました。序文にも「DJたちの使えるネタのディスクガイド」を目指したと書かれている通り、大学時代に読んでいたら、DJ道に進んでいたかもしれないと思わせるほど魅力的な内容です。
本の内容は渋谷系以前がメインだが、渋谷系以降で扱われているディスクのうち、同一ミュージシャンで2枚以上(2013年刊行版で)扱われているミュージシャンは以下の通り。その他、紹介されているCDの中には、DEENなんかも入っていて、幅の広さに驚かされます。

これらのミュージシャンの楽曲の多くは、本書刊行記念の以下の特集記事で扱われており、Youtubeへのリンクから試聴もできます。(一十三十一、ずっと気になっていて初めて聴きましたが、なかなか好きです。)

前回に続きパート2では「00年以降」のセレクション10選。一周、二周してもう一度、”メロウ”再評価後のトラックたち。知らない名前でもとにかく再生。欲しくなるCDがまた増えますよ!


本の中でオリジナル・ラヴで扱われているのは『EYES』『RAINBOW RACE』(他に『Bellssima!』も)で、特に重要作として挙げている『RAINBOW RACE』については紹介文で「音楽的視野が大きく広がった」アルバムとし、以下のような記述があります。

そしてその変化はサウンドだけではなく、田島貴男というひとりの男の精神性も大きく作品に影響している。少年少女コーラスが妙味を生み出すサウダージなサンバ③(「Your Song」)や優しさがにじみ出た⑧(「ミア・マリア」)には、それまでのスタイリッシュでエネルギッシュな部分だけでなく、懐の深さや人間くささなど今までになかった個性を現し始めている。このアクのようなものこそ、後の『L』や『ビッグクランチ』といった強烈な作品への布石と見てもいいだろう。
(文章自体は、共著者の栗本斉氏)


この指摘はまさに同感で、この頃に萌芽した「アクのようなもの」を、本来持っている「スタイリッシュさ」とうまく折り合いをつけることに今でも苦労していると思います。全くの個人的感覚ですが、近作で言えば、スタイリッシュさを重視しながらアクを出せているのが『白熱』で、スタイリッシュさを無視してアクを全開にしてしまったのが『エレクトリックセクシー』だと思います。(製作中の新作には反省が活かされているっぽい笑)
今回、金澤氏が、まさにそれ以降のポニー・キャニオン時代の選曲をする中で、どういった視点を重視したのかはとても興味があります。ブログでは、まだ今回のコンピについて記述がないが、先日出たばかりの稲垣潤一のライトメロウについての記述も面白いです。

彼は、契約の事情からやたらとベスト盤/編集盤の多い人でもあるが、今回は Light Mellow看板の編集盤だから、ヒット曲メインのセレクトにならないのは言うまでもない。とりわけ他の編集盤との重複に気を遣い、結果的に稲垣の代名詞のひとつになっているクリスマス系のヒット・ナンバーはすべて外してしまった。そういう誰で組めるコンピなら、わざわざ “Light Mellow”シリーズでやる意味がない。いわゆる人気曲は、初期のヒットである<ロング・バージョン>や<夏のクラクション>くらいだろう(アレンジは共に井上鑑)。


たかがコンピ、されどコンピで、編集版もなかなか面白いなあ、と思わせるこだわりで、本当に楽しみ。
これを機会に、東芝EMI時代じゃないオリジナル・ラブの良さを知ってくれる人が増えることを願っています。


Light Mellow和モノSpecial ~more 160 items~ (16Pの特典小冊子付き)

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Light Mellow感想

全編を通して聴くと、まさに「Light Mellow」という形容がぴったりの曲ばかりで、アルバムとして一体感があります。曲順で一番巧いと思ったのは「羽毛とピストル」から「ショウマン」の流れで、ちょっと神懸かっているとさえ感じました。それにしても「青い鳥」「カフカの城」とかが入っている時点で、この時期のオリジナル・ラブもちゃんと分かっている人が選んでいるという信頼感が強く、本当に安心して聴けます。ラストに位置するのが「アイリス」というのも良いですね。


Free Soulと同様、ライナーノーツに解説がありますが、(当然ですが)ポニーキャニオン以降のオリジナル・ラブについても記述が充実しており、とても嬉しいです。
なお、CDジャケの裏は全アルバムのジャケットになっており、『ボラーレ!』は黒歴史として葬り去って、これをベストアルバムとしてもいいのではないかと個人的には思ってしまいます。(笑)
特に、このアルバムの選曲意図が以下の2つであることが明示されていますが、そもそもこの意図に大賛成です。

  • 聴きやすく耳馴染みの良いマテリアルばかりがコンパイルされていて、オリジナル・ラブ初心者やファン歴の浅い方へ真っ先にオススメしたい内容。
  • 従来ファンにとって、奔放過ぎて捉えにくかったこの時期の田島作品に対して“本質は何も変わっていない”ということを指し示す、ある種の指針。

そして、最後に改めて「このアルバムで田島貴男ファンの裾野が広がれば」という願いで解説を締めていますが、その願いがかなうように、CDが沢山売れて多くの人に聴かれることを期待したいです。

Light Mellow感想2

金澤寿和さんのブログで『Light Mellow オリジナル・ラブ』について触れられています。

『Light Mellow オリジナル・ラブ』は、アーティスト編初の渋谷系モノ。偶然にも『フリーソウルオリジナル・ラヴ』と発売時期が被ってしまったが、アチラはEMI時代、コチラはキャニオン時代と棲み分けできると思っていたら、フリーソウルにはキャニオン音源も入ると後から聞かされ、“そりゃナイよなぁ?” 等などと…。でもフタを空けてみたら、意外にダブリは少なく…。


このエントリで面白いのが、ミュージシャンとしてのオリジナル・ラブや曲の紹介はほとんどなく、選曲裏話に終始していること。特に、フリーソウルと発売時期が被ったのはあくまで偶然で、お互いが曲目の調整をしていない中でのちょっとした腹の探り合いみたいなものが垣間見えるのが興味深いです。

もちろん選曲時点ではアチラの内容は分かっていないが、フリーソウルっぽい曲を避けたというより、ダブったらダブったで仕方ないから、ピュアに洗練度を追及しようとしたのが良かったと思う。


ここでは「洗練度を追及した」とありますが、確かにライトメロウの方が曲同士が見えない糸で繋がっている感じがします。ライトメロウの極意はまだ理解しきれていませんが、このコンピで示されている曲がその見本だと言われればなるほどと納得できそうです。
特に、羽毛とピストル〜青い鳥までの、全て別々のアルバムからのchoiceとは信じられないほどの一体感。今までベスト盤などであまり聴かなかった曲だからなのでしょうか。次の曲次の曲と聴き入ってしまいます。改めて確認すると、(フリーソウルとは異なり)同じアルバムの曲が連続しないような巧みな曲配置になっていますが、そういった工夫が成功しているかもしれません。


さて、ここで少し戻って問題発言を拾います。

正直なところ、キャニオン末期にはロクに聴いていないアルバムもあった。でも候補曲はスンナリ集まり、逆に何を落とすか迷ったほど。

筆が滑ったというべきか、「ロクに聴いていないアルバム」なんて言葉が出てきます。末期という言葉から考えれば、これは『街男 街女』か『東京 飛行』のことでしょう。
この二枚のアルバムからの選曲が「沈黙の薔薇」「カフカの城」と、アルバムの中で最も“癖”が少ない曲であることは、アルバム収録曲のほとんどがライトメロウの主旨からは外れているか、あまりアルバムを聴いていないことが理由に違いありません。
その意味で、あともう少しこの2枚が聴き込まれていれば「夜の宙返り」が入っていたのではないか、と空想を巡らせます。(メロウ過ぎるのでしょうか)


なお、最初の方に「EMIの時期の田島貴男は音楽的ベクトルを一本に集約させていったのに対し、自分の型ができ上がったあとのキャニオン期は、逆にそれを拡散させていく」と、東芝EMI期とポニーキャニオン期を比べた言葉が出てきますが、この喩えはよく分かります。とにかくポニーキャニオン時代以降、すぐに崩したくなってしまうのが田島貴男
思い返せば、崩し過ぎた「キャニオン末期」を経て、一度、オリジナル・ラブっぽい音楽、オリジナルラブとして求められている音楽とは何かを追求したのがアルバム『白熱』でした。
それが狙いにハマり過ぎて成功したためか、逆に振れて大きく崩したのが、(いい意味で)不真面目さ全開だった『エレクトリックセクシー』だったように思います。
そして、3月の新曲はオリジナルラブど真ん中だというから楽しみです。

来年3月にオリジナル・ラブはニューシングルをリリースします!これぞオリジナル・ラブサウンド!ど真ん中ストレートな本気曲です!皆さん乞うご期待!

改めて書くこともあるかもしれませんが、自ら“ど真ん中”と言い切れるのは、おそらくNegiccoに関わって、オリジナル・ラブの良さを分かっているconnieさんと一緒に曲作りをしたりしたことが強く影響していると思います。そういう意味でも、今後、他ミュージシャンとの共作などにも期待して行きたいです。


参考

ポニーキャニオン時代のベストを予想する記事ですが、2年後(2010年)に出る『ボラーレ!ザ・ベスト・セレクションズ・オブ・オリジナル・ラヴ』で完全に裏切られた残念内容です。今回の二枚のコンピは、この時の想いが一部通じた感じですね。

橋本徹さんのライナーノーツ絡みで、もう一度読み直してみましたが、橋本徹さんが影響を受けたと予想される3曲と、自分が文章中で取り上げている3曲が一致していることに驚きました。それほど印象的な演奏だったのですね。音源化希望!

*1:COLOR CHIPSは別アルバムと数えない

*2:もっと言えば、これらの代わりに「ジェンダー」が入っているのは謎過ぎます。

*3:自分にとって橋本徹タワレコのフリーペーパーbounceの編集長ですね。