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義務教育でみっちり教えるべき内容〜福井健策『18歳の著作権入門』

18歳の著作権入門 (ちくまプリマー新書)

18歳の著作権入門 (ちくまプリマー新書)

先日の記事(オリジナル・ラブの楽曲で著作権について勉強していたら意外な事実が…!)でも触れた『18歳の著作権入門』について改めて取り上げます。
この本を読んで、権利や法律という、あまり馴染みのない分野であっても、著作権に関しては、日々の生活(特にインターネット)の中に深く関わっているものであることを思い知りました。
こういった感覚は、インターネット上の多くの情報に触れる前に身に付けておかないと、誤った「常識」に毒される可能性もあります。(例えば、音楽や映像、漫画などの著作物に対して金銭を支払うという通常の感覚が身につかない等) そういう意味で、「18歳」と言わず、義務教育課程の小学校高学年くらいで教えるべき内容だと思いました。


そういう著作権関連の話題の中では、現在進行中のTPPの絡みで「非親告罪化」が気になります。
本の中でも最終章で触れられていましたが、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)事務局長の香月啓佑氏のインタビュー記事が分かりやすかったので、引用しながら問題を再確認しました。


記事では、最初に、日々の生活の中での著作権侵害について触れています。

いわゆる著作権侵害という行為は、僕らのかなり身近にあります。例えば会社で参考になる新聞記事のスクラップをシェアしたり、秘書にコピーさせたりなんてことは著作権侵害なんです、実は。会社内でのコピーは著作権法の例外である「私的複製」の範囲外ですからね。
(略)つまり日常生活の中で僕らが小さな著作権侵害をしていることって結構あるんです。

テレビ番組の録画を動画サイトにアップするのは違法だと知っていても、新聞記事のスクラップが違法だというのは気が付かない人が多いかもしれません。ギリギリセーフ!ではなく、ギリギリアウト!の事項が自分の身の回りにも沢山ありそうです。
そして、「非親告罪化」というのは、そういった日常の著作物との付き合い方に大きく影響する可能性を持ったものだという説明が以下です。

警察もサイバー犯罪捜査の一環として、ネット上での著作権侵害のウオッチをしています。ただ、彼らがやっていることは、権利者に対して「あなたの著作物がこんな風に違法にやりとりされていますよ」と伝えることだけです。見つけた時点では警察は何も動けません。

例えば誰かがマンガのコピーを配ったとしても、マンガを描いた人、つまり著作権を持っている人が「これはひどい!」と訴えを起こさなければ、裁判にはならないんです。これは著作権侵害が「親告罪」、つまり実際の被害者が告訴しなければ刑事裁判ができない部類の犯罪と決められているからなんですね。
もちろん著作物の丸々コピーをインターネットでダウンロードできるようにしたりすると訴えられます。ただ著作物を使って別の形の表現をすることなどについては、それを著作権侵害とするかどうかというのは著作権をもっている人、つまり権利者の判断に委ねられているんです。そしてこの「黙認」のしくみは日本で非常にうまく回ってきた。


しかし著作権侵害非親告罪化するということは、権利者が例えば「このイラストは著作権侵害だけど、ファンがやってくれたことだし、見逃そう」と思っても、警察がそれぞれの基準で捕まえることができるようになるということになるんです。

記事の中で触れられている漫画の二次創作や、音楽のマッシュアップだけでなく、日々のSNSの利用にも直接関係してきます。
具体的には、例えば、ディズニーランドでミッキーと撮影した写真(もしくはミッキーとミニーなどキャラクターだけの写真)をSNSにアップする行為は、今現在は、上でいう「黙認」状態になっていますが、「非親告罪化」によって、一気に崩れてしまう、ということを意味するのだと認識しています。
勿論、ツイッターのアイコンや背景に何かのキャラクターを使用することも気軽にはできなくなります。


そもそも、インターネットを使って日常的に行っていることは、著作権侵害と常に背中合わせにあるわけです。

そもそもインターネットというのは、基本的に情報をコピーすることで成り立っている技術なんですよね。例えば僕らはウェブサイトを「見に行っている」というように感じていますが、実際はそのウェブサイトのデータをスマートフォンなりパソコンにダウンロードして表示させているわけです。そしてダウンロードしているということはコピーしているということですよね。コピーすることで情報の流れを実現するインターネットと、コピーを制限することを定めた著作権法。この二つの相性がいいわけないですよね。


著作権侵害非親告罪となっている米国で取り入れられているフェア・ユースという考え方(「公正な著作物の利用は許諾をもらわなくてもOKにしようよ」という考え方)もありますが、メリット・デメリットがあり、記事の中では、フェア・ユース条項を入れたとしても、「非親告罪化」によって、失われる表現の自由・新たな創作にストップがかかることを恐れています。水面下で進むTPP交渉ですが、日本文化の根幹に関わるところなので、アメリカに押し切られるというような結果にはしてほしくないです。



さて、『18歳の著作権入門』の目次は以下の通り。

第一部 基礎知識編

  • 第1章 「著作物」って何?−まずはイメージをつかもう
  • 第2章 著作物ではない情報(1)−ありふれた表現や社会的事件は?
  • 第3章 著作物ではない情報(2)−アイディア、実用品は?
  • 第4章 著作権ってどんな権利?−著作権侵害だと何が起きるのか
  • 第5章 著作権を持つのは誰か?−バンドの曲は誰のもの?
  • 第6章 どこまで似れば盗作なのか−だってウサギなんだから
  • 第7章 どこまで似れば盗作なのか(続)−だって廃墟なんだから
  • 第8章 個人で楽しむためのコピー・ダウンロードはOKか
  • 第9章 引用は許されるのか? 教育目的での利用は?
  • 第10章 まだある「できる利用」−入場無料のイベント、写り込み

第二部 応用編

  • 第11章 ソーシャルメディア著作権−つぶやきに気をつけろ!
  • 第12章 動画サイトの楽しみ方−違法動画を見てよい? 「歌ってみた」は?
  • 第13章 JASRACと音楽利用のオキテ
  • 第14章 作品を広めるしくみ−噂の「CCマーク」を使ってみる
  • 第15章 青空文庫を知っていますか?−著作権には期間がある
  • 第16章 「海賊版」の問題−作り手たちが本当に困るのは?
  • 第17章 「命を惜しむな。名を惜しめ」−著作者人格権(1)
  • 第18章 加筆、アレンジはどこまでOKか−著作者人格権(2)
  • 第19章 二次創作−パロディ、リミックス、サンプリングの限界は?
  • 第20章 著作権は何のためにあるのか? 著作権をどう変えていくか?


この本の魅力は具体例が豊富でイメージしやすいこと。どれもこれも興味の湧く話ばかりで、非常に面白く読みました。
例えばキャンディ・キャンディがもう再放送されることがない、というのは全く知りませんでした。漫画本も入手しにくいのかと思って調べたら、やや高い値段で取引されていました。

70年代の超人気漫画でアニメ化もされた「キャンディ・キャンディ」という作品がありましたが、原作者と漫画家が不和になり、裁判で最高裁までもつれた挙句、お蔵入りになってしまいました。いわゆる「封印作品」です。残念ながらもう書店の棚に並ぶことはなく、アニメなどの放映もほぼ考えられない幻の作品です。p48

キャンディ・キャンディ 全6巻文庫セット

キャンディ・キャンディ 全6巻文庫セット


また、ミッフィーと酷似しているとして著作権侵害で訴えられたキャシー(ハローキティの友だちという設定のサンリオのキャラクター)の話は、聞いたことがありましたが、その終わり方については初めて知りました。ちょっといい話です。(第6章 どこまで似れば盗作なのか−だってウサギなんだから)

実は、この裁判が争われている最中に東日本大震災が起きました。その災禍に胸を痛めたブルーナ側がサンリオに、「お互いに無駄な争いをやめて、その分節約した弁護士費用を被災地に寄付しよう」と提案。サンリオもこれに乗って、めでたく裁判は和解で終了します。p61


その他にも、以下のような話がありましたたが、廃墟写真裁判の事例なんかも、著作権という観点でものを考えるいい練習になりました。(第7章 どこまで似れば盗作なのか(続)−だって廃墟なんだから)

  • ツイッターのつぶやきは、ツイッター社のガイドラインの中で、テレビなどのマスメディアで転載自由ということになっている(p108)
  • 「死後50年」という著作権保護の期間に「戦後加算」という例外措置があり、「公開から戦争終結までの期間」は50年に加算されること、また、その際の「戦争終結」は講和条約締結の1952年4月を意味する(p147)
  • カバー曲のアレンジを大幅に変える場合、JASRACの管理している著作権の範囲を超える場合があり、具体的には編曲権や同一性保持権の侵害になる可能性がある。PE'Zが「大地讃頌」をジャズアレンジで出して作曲家から販売を差し止めようとしたケースがこれに当たる。


やはりなんだかんだで忘れてしまいがちなので、著作権については、定期的に新たな情報を仕入れ、現在問題になっていることについて理解して行きたいです。子ども達にも胸を張って正しい知識を教えてあげられるようにしたいですね。
次回読むのは、同じ作者の新書か、今話題のあの人の著作かな?


追記

「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」(thinkTPPIP)が3月13日、東京都内で記者会見を行い、協議内容の透明化と、国内でも異論の多い知的財産条項を妥結案から外すよう求める緊急声明を発表した、というニュースの中で田村善之北海道大学大学院法学研究科教授が以下のように発言されていました。結構、著作権の教育はなされているのかもしれません。(ただし、一面的では駄目ですよ、という意見)

私が一番重要視しているのは、人々の意識の問題です。みんなが本当に条文通りに守る、刑事罰もあるんだと。最近は小学校・中学校あたりから著作権教育をやっていて、その著作権教育は細かなことは教えませんから、『他人のものを盗んじゃいけないのは著作物も同じだ』と教えます。そうすると何もできなくなってくる。

そうなると保たれている均衡が危うくなってくるだろう。こういった問題は、孤児著作物の問題、あるいは同人の問題と全て共通する問題だと思っています」


少し調べると、5分で出来る著作権教育なんていうページ(文科省外郭団体?)が出来ていたりするので、総合教育の時間に行っていたりするのかもしれません。


また、学校内での著作権利用について研究する日本著作権教育研究会という団体もあり、気になる記事もいくつかあります。

個人のランキングは、多少の変動はあるものの鷲田清一先生、外山滋比古先生、内田樹先生、平田オリザ先生、齋藤孝先生など常連のみなさんが上位を占めています。

『怒りのぶどう(上) ジョン・スタインベック著』を訳されました、谷口陸男様のご継承者様のご連絡先を捜しております。ご存知の方は小会までご一報ください。

後者は、研究会HPに「ご一報ください」と書いてあるだけで、連絡が入るのか疑問ですが、全体としてなかなか興味を持てそうな内容が多かったです。