Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

最上級のややこしや〜法条遥『リライブ』

リライブ (ハヤカワ文庫JA)

リライブ (ハヤカワ文庫JA)

ついにシリーズ完結!色々とゴリ押しの部分もある気がしますが、終わってみれば、無理なく全4作が束ねられており、単純に楽しく読み終えることができました。
中身からは離れますが、usiさんの表紙が、作品世界のキーアイテムであるラベンダーの花と合っていて素晴らしく、これを並べるだけのために文庫本4冊を手元に置いておきたくなります。
リライト (ハヤカワ文庫JA)リビジョン (ハヤカワ文庫JA)リアクト (ハヤカワ文庫JA)リライブ (ハヤカワ文庫JA)


特に『リライブ』では口絵部分に、折込の横長イラストもあり、大満足です。
少し調べると、ライトノベル人気を支える表紙や挿絵のイラストレーターの人たちは絵師と呼ばれ、いわゆるジャケ買いに相当する「絵師買い」という言葉もあるようです。

絵師買い――それは、ラノベ読みが自分の好きなイラストレーターによる美麗な表紙イラストに惹かれてついついライトノベルを買ってしまう……そういう現象を示した言葉。 その「絵師買い」はどうやら一般文芸にも波及しているらしく、中にはライトノベルと一般文芸の表紙イラストを掛け持ちするイラストレーターも。 ここでは、一般文芸で人気のイラストレーターをまとめてみました。


法条遥の本では、『リライブ』に続いて文庫化した『忘却のレーテ』(出版社は異なりますが…)も、やはりusiさんが手がけており、それだけでこちらも気になります。いわゆるラノベの分野はそれほど読まない自分ですが、「絵師買い」という要因は無視できないほど大きいことを実感しています。

忘却のレーテ (新潮文庫nex)

忘却のレーテ (新潮文庫nex)


あえて最初に触れなかった中身については、巻末の佐々木敦さんの解説が素晴らしいです。法条遥さんのあとがきと合わせて読むと、シリーズ全体の流れがおさらい出来て非常に納得感があります。
解説では、『リライト』は独立した一篇の作品として読める。そして、『リビジョン』は、『リライト』を読んでいなくても、独立した物語として読み通すことは何とか可能だった、としながらも「問題は第三作『リアクト』である」としています。

この作品は『リライト』『リビジョン』を未読の読者には到底手に負えない。時間軸は際限なく錯綜していくし、そればかりか複線化してゆく。種明かしや辻褄合わせと同時にパラドックスの数はむしろ増えてゆく。いや、何がパラドックスであるのかさえ、よくわからなくなってくる。ややこしさと面倒くささは、もはや限界を振り切っており、正直、私自身、全てを理解しているとは到底言えない。
この難解さの原因は明らかに増殖するタイム・パラドックスに、メタフィクションの要素が掛け算されたせいである。作中に出てくる「小説」に『時を翔る少女』だけでなく『リライト』が加わったことで、それらを書いた者とそれらに書かれた出来事、それらを読んだ者とその結果としての行為が化学反応を起こして連鎖爆発を惹き起こしている。


『リライト』がかなり混乱した自分の、3冊目までの感想は、まさにここに書かれている通りです(笑)。これで4巻目の『リライブ』で上手く収められるの?と疑問になるくらい、頭の中は錯綜していました。


そして第四作『リライブ』。

ストーリーテリングが極度に散逸していた前作に比して、今回はさすがに完結篇らしい落ち着きも僅かに感じられるが、ややこしいことには変わりはない。解決篇の数だけ不可解が増えてゆく構造も同じである。だがしかし、前三作をとっかえひっかえ読み直しつつ、やがてその作業を諦め放棄して、頭がパンクしそうになりながらもどうにか最後まで読み進んでみると、そこに想像もしなかった光景が広がっていることに気づくだろう。
(略)
確かに、読み終えた今でさえ、何もかもが明瞭になったとはとても言えない。だが、それとは別に、ある深い納得と強い感動がラストに待ち受けている。それは「完璧」とは言えないが「無慈悲」でもない。こう言ってよければ、慈悲と慈愛と恩寵に満ちた、ひとつの紛れもない「収束」なのである。


この「ラストの褒め方」も素晴らしいです。こんがらかった毛糸玉のようになってしまった話ですから、まさに物語の「収束」をこそ褒め称えたくなります。


さて、あとがきでは、法条遥さん自身による裏話についても書かれています。特に4作それぞれの設定については、事前に方針を決めてから執筆に取り掛かっているようです。この結果、4作で完結することを意識した設定とすることで、シリーズの中でのそれぞれのバランスが非常によくなっています。
具体的な例では、主人公の名前については、四季の「リ=裏」からつけており、4作それぞれについて、主人公の職業、「少女」の役割も別々となるように設定を考えていたようです。つまり

  • リライト 夏 美雪 作家 恋人
  • リビジョン 秋 霞 母
  • リアクト 冬 蛍 編集者 姉
  • リライブ 春 小霧 読者 妹


という設定が執筆前に決まっていたことになります。
なお、登場人物の名前、北村薫の「時と人」三部作(『スキップ』『ターン』『リセット』)と森博嗣の「四季」シリーズが挙げられていて、これらについても気になりました。(『スキップ』だけは読んだことがあるはず…)

スキップ (新潮文庫)

スキップ (新潮文庫)

ターン (新潮文庫)

ターン (新潮文庫)

リセット (新潮文庫)

リセット (新潮文庫)

四季 春 (講談社文庫)

四季 春 (講談社文庫)

四季 夏 (講談社文庫)

四季 夏 (講談社文庫)

四季 秋 (講談社文庫)

四季 秋 (講談社文庫)

四季 冬 (講談社文庫)

四季 冬 (講談社文庫)


万人にオススメすることは難しい気がしますが、読むのが面倒になるほどこんがらがった物語を読んでみたい人や、usiさんの表紙イラストを見て、ピンと来た人にはオススメです。
歓びを享受するためには、何といっても4作をまとめて読むことです。異常気象なのか暑い日が続いていますが、暑苦しい日に涼しい部屋でアイスコーヒー飲みながら読んでみてください。