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夏休みを楽しく過ごすためのオススメ本〜斉田季実治『いのちを守る気象情報』

いのちを守る気象情報 (NHK出版新書)

いのちを守る気象情報 (NHK出版新書)

いのちを守る気象情報 (NHK出版新書)

いのちを守る気象情報 (NHK出版新書)

NHKの23時半からのニュース番組NEWS WEBでいつも見る気象予報士の斉田さん。
短い時間の出番ですが、誠実さが見える丁寧な喋り方に好感を持っていましたが、ときどきお茶目な顔を見せてさらに好感度アップ。

いろいろなファンがいるのも分かる気がします。

一般女性はもちろん女装タレントのマツコ・デラックスまでもが熱視線を送る男性気象キャスターがいるらしい。

人気や容姿の面はさておき、本を読んで、自分が勝手に思っていた「誠実そう」という部分が裏付けられたようで嬉しいです。テレビなどで顔を知っている有名人の本を読むのはそういう楽しみがあります。


この本は、タイトル通りの内容で、斉田さんが何のためにこの本を出したのかは「はじめに」に書いてあります。

…しかし、それから(NHK気象キャスターになってから)1年も経たないうちに東日本大震災が起きてしまい、自分の無力さを改めて痛感させられました。気象キャスターとしてできることは、ほんのわずかです。それでも自分に何ができるのかを問い続けました。
その答えの一つが、この本を書くことでした。

「情報」だけではいのちを守ることはできません。
数分のニュースや気象情報の中に詰まっている「いのちを守る情報」を活かすためには、見る側にもある程度の「知識」が必要であり、自分だけは死なないという「意識」から変えていく必要があります。


そして、この本は、まさにその目的のために簡潔に書かれており、その意味で、自己顕示欲の少ない本といえます。目次は以下の通り。

第1章 「台風」は自然災害の“総合商社
第2章 「大雨」による都市型水害が急増
第3章 「雷」は光と音の時間差で安心してはいけない
第4章 「竜巻」は狭い範囲で甚大な被害をもたらす
第5章 「大雪」による死亡の8割は、除雪作業中
第6章 「熱中症」は最も死亡者が多い災害
第7章 「地震」は1000年に一度の活動期か
第8章 「火山」の噴火は予知できる
補章 気象情報は生もので鮮度がいのち


勿論、斉田さんの思いを汲めば、全部の項目が命を守るために必要なのですが、特に印象に残ったのは、雷(3章)と熱中症(6章)。


熱中症のところでは、斉田さんが「これ以上ない教材」として、自身が油断して熱中症にかかってしまったときのことを書いています。8月に家族でロマンスカーに乗って箱根に行ったときに、2歳の子どもの水分補給ばかりを気にして、自身はほとんど水分をとらないままお昼に休憩したカフェでビールを飲んでしまったというのです。
尿の排泄を促進するアルコール摂取が水分補給に不適切なのは基本中の基本。にもかかわらず油断してしまい、この夜に39度の熱を出すことになってしまいます。このとき宿で施した応急処置が効いて、翌朝には熱が下がったというのは、汚名返上ですが、ヒヤヒヤものだったのでしょう。応急処置はこちら。

  • 冷たい水をがぶ飲みする(体の中から体温を下げる)
  • 宿の冷蔵庫に入っていた保冷剤を使って「首」「脇の下」「足の付け根」にタオルで巻きつける。(太い血管を冷やす)
  • 経口帆補水液を作って飲む(塩分を補給する)

熱中症予防については、気象庁から概ね最高気温が35度以上となるときに以下のような情報が発表されています。

  • 高温注意情報」(前日の夕方5時、当日の午前5時、11時に発表)
  • 「高温に関する気象情報」(随時。向こう一週間以内の予報)
  • 異常天候早期警戒情報」(火曜・金曜に更新。5〜14日後を対象)

水分をこまめにとることが何よりも予防になります。


次に雷について。
どの章でも、最初にその事象での死亡事故・重態事故事例が紹介されており、ここでは河川敷野球場の二塁ベース近くに落ちた事故と、野外コンサートの事例が紹介されています。

23日午後1時20分ごろ、東京都江戸川区北小岩の江戸川河川敷にある区営江戸川野球場で落雷があり、試合に来ていた都立高2年の男子生徒(17)と私立高2年の男子生徒(17)、都立高1年の女子生徒(15)が頭や足にしびれを訴えるなどし、病院で手当てを受けた。警視庁小岩署によると、3人の意識ははっきりしており命に別条ない。
調べでは、当時は8面あるグラウンドのうち4面を使い、東京都高等学校野球連盟軟式部主催の試合が行われていた。
うち1面の二塁ベース後方に落雷。男子の1人は右翼を守り、もう1人は二塁塁審をしていた。女子はマネジャーで隣の試合場のベンチにおり、落雷後に気分が悪くなったという。観客も含め数百人が近くにいた。

海辺への落雷で、大きな被害が出たケースがあります。千葉県白子町の海水浴場で、平成17年7月、たった一度の落雷で1人が亡くなり、一時心肺停止した人を含め、8人がけがを負いました。
事故の直後に救助に駆けつけた、ライフセーバーの井上幹生さんは「音と光が同時に鳴った。誰が感じても近くに落ちたなと。負傷者をライフガードが懸命に処置していた」と、当時のことを話していました。
浜辺には、落雷の被害にあった9人が、幅30メートルほどの広い範囲にわたって倒れていました。たった一度の雷で、なぜこれほどの被害が出たのか。それは、水が電気を通したためでした。
雷の直撃を受けたのは、海の中に居た2人。
電気は海の中を伝わり、浜辺に達します。これにより、波打ち際に居た2人も感電。
さらに、電気はおよそ30メートル離れた砂地に居た5人を襲いました。
ぬれた砂の水分が電気を通し、被害が拡大したと見られています。

この二つの事例で教訓としたいのは「開けた場所ではどこに落ちてもおかしくない」ということ。海水浴の記事中にも書かれているように雷の音が聞こえる場合は近くの車や建物に避難すること。窓は締め、室内では電気器具からはなるべく身を離すことが重要とのことです。


もう一つの野外コンサートの事例は、裁判沙汰になっているそうです。

屋外イベントの落雷事故で、主催者側はどこまで責任を負うべきか。大阪市東住吉区長居公園で昨年8月、人気アーティスト「EXILE」らが出演する野外コンサート「a-nation」に訪れた女性が落雷で死亡する事故が起きた。女性の両親が7月末、主催者側のイベント運営会社2社に計約8200万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。原告側は、2社が落雷事故を予測できたにもかかわらず、事前の情報収集や当日の避難誘導といった安全対策を怠ったと主張するが、イベント関係者からは客の安全確保をめぐり、限界を指摘する声も上がっており、地裁の判断が注目される。

この事例の教訓は「木からはできるだけ離れること」です。降り出した雨を避けるために木の下で雨宿りをしていたときの事故なのですが、雨宿りをしている木に雷が落ちると、木の枝や幹から人体へ雷が飛び移る「側撃雷」を受ける可能性があるとのこと。
ただし、本の中では保護範囲についても説明があります。どうしても建物の中に入ることが出来ない場合は、高い物体が避雷針の役目を果たし、側撃雷の可能性がある4mを除いたのが保護範囲となります。

なお、いずれの場合も雷がやんでも20分以上は安全な場所にいることが推奨されています。
また、落雷の被害者に触っても感電の心配はなく、AEDなどでの心肺蘇生法も有効とのことです。
気象庁からは1時間後までの雷の可能性について1?メッシュ範囲を4段階で示す雷ナウキャストが発表されています。これも身を守るのには役立ちそうです。



もう世間的には「夏休み」シーズンに入りましたが、野外で活動することの多いこの季節。「いのちを守る気象情報」に気をつけて楽しく過ごしていきたいです。