- 作者: 町田康
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/05/12
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- 作者: 町田康
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初の町田康作品。
これまで読もうと思いつつ、後回しにしてしまっていた町田康。
今回、読もうと思ったのは知人のプッシュ(ビブリオバトル経由)があったことと、歴史絡みだから。
やっぱり、苦手苦手とは言っても、40も過ぎたし、年齢相応に日本史、特に名勝・史跡などとの結びつきが強い地域の歴史にもっと詳しくならないといけないと思っているのだ。
「この場所は平安時代に〜という人物が〜をしてから、このような地名で呼ばれるようになったらしいよ。えっへん。」とか、そういうことを言いたい。
源義経が主人公の軍記物語『義経記』(南北朝〜室町時代に成立)に、町田康が挑んだ本作『ギケイキ』は、そんな自分のニーズとぴったり合う。
そんな下心で読み始めたが、(聞いてはいたけれど)その独特の文体にどんどん転がらされて、あっという間に京都−平泉間を往復して、兄・頼朝に会いに伊豆に行くラストまで読んでしまった。
冒頭の文章からしてこうだ。
かつてハルク・ホーガンという人気レスラーが居たが私など、その名を聞くたびにハルク判官と瞬間的に頭の中で変換してしまう。というと、それはおまえが自分に執着しているからだろう。と言う人があるけど、そんなこたあ、ない。
ここもそうだが、物語の語り手は、現代の日本を知る源義経。
したがって、義経の主観シーンは勿論、義経と出会うまでの弁慶や、この巻では出会うことのできなかった頼朝軍の様子まで、基本的には、義経のテイストが出る。(ただ、会話文が多いので基本的には登場人物の感情が直接出ている部分が多い)
- はっきり言って武芸の練習などというものは反復訓練である。同じことを飽きずに何度も何度も繰り返す。それが一番大事だ。そのためには練習をする場所は近所である必要があって、東武東上線に乗って池袋で乗り換えて渋谷まで行き、そこから田園都市線で用賀まで行き、住宅街を二十分歩いて練習をしに行く、というのではなにによらず上達はしない。(p16:義経の持論)
- なんといっても比叡山はメジャーだ。メジャーもメジャー大メジャーだ。(略)しかし、独力で僧として立つ、ということはそれらをすべて失うということ、つまり、インディーズ系の僧としてやっていく、ということだ。これははっきり言ってつらい道だ。(p239:弁慶の立場)
- (略)館山市内から当時、真野といったあたりを通り、小湊というところで川を渉って、また、部下がネガティヴなことを言い出しそうな雰囲気だったので、那古観音にお参りしたが、あまり効き目がなく、案の定、「もう駄目だ」とか、「最近、亜鉛が不足気味だ」とか「歩きづめで膝が痛い。皇潤を飲みたい」などと言い出したので、慌てて近所に明神がないかと探したら…(p312:頼朝軍の様子)
全編がこんな感じで、文章を読むのが楽しい。
内容が面白い、というのではなく、「文章を読む」のが楽しい。
この物語の義経はいわゆる美少年なので「菊門」をつけ狙われていたみたいな描写も頻出して、下らなくて最高だ。
また、設定として、義経が、いわば超能力(スタンド能力?)を身につけているというところが、コミカルな演出を引き立てる。
具体的には、人に見えないくらいのスピードで動くことのできる「早業(はやわざ)」がそれだ。この能力によって、義経は、(悟られずに人のすぐ近くに行けるため)ほとんどの場面で「盗み聞き」が出来る。それによって敵の意図を事前に察知し、さらに先手を打てる。
勿論、早業によって早く動けることは、フィジカルな戦闘場面で最も威力を発揮し、さらに義経は物語の中盤で登場する「六韜(りくとう)」という全六巻の書物を読んだことにより、空中でジャンプするような魔法じみた能力まで手に入れる。
ただ、あまりの速さが災いして、平泉から頼朝に合流しようと東北から関東を抜けて伊豆に向かう場面では、多くの脱落者を出すことになる、ここでの弁慶とのやり取りも落語のようだ。
「なんですか、この気ちがいじみたスピードは」
「加減したんだけどまだ速いかな」
「速いどころではありません。こんな速度で駆けたら板橋に着く前に全員、死にます」
「ええ、マジい?でも、それを防止するために秀衡さんに、それだけはお願いして、名馬中の名馬を集めてもらったんだが、それでも駄目ですか」
p336
板橋でも頼朝に合流できなかった義経・弁慶らが次に向かったのは府中の六所明神(大國魂神社)だという。義経は全国津々浦々いろんなところに名前を残しているが、大國魂神社にそんな話があるのは知らなかった。今度、大國魂神社に行くときはそういうことを踏まえて行こう。そして子ども達に「えっへん」と地域の歴史を語ることにしよう。
なお、何度も語り手の義経から注釈が入るが、「あの頃はいまと違って、神威・神徳というものが普通に存在していたし、祈祷なんかがはっきりと現実に影響を及ぼしていた。きちんと呪詛すれば人は死んだし、祈りによって天文気象をコントロールできた(p170)」のだという。そう思うと、神社仏閣の大切さがさらに増幅して感じられる。これからは、ただ、ポケモンを探しに行く*1というのではなく、そういう神威・神徳をイメージしながらお寺や神社をお参りしたい。
ということで面白く読み終えたのだが、終盤は、源氏に味方する者として多くの武将の名が登場するので、少しこんがらがった。そのあたりについては、「学習まんが少年少女日本の歴史」で復習してから改めて読み直したい。
日本の歴史 源平の戦い: 平安時代末期 (小学館版学習まんが―少年少女日本の歴史)
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さて、次に読む町田康。勿論、この続きも楽しみだが、大量にある著作の中から何を読もうか悩むのも楽しい。
よく聞く『告白』にするか、芥川賞受賞作『きれぎれ』にするか、はたまた、田島貴男*2が以前薦めていたこれにするか。
ミュージシャン・俳優・作家・詩人と、マルチな才能が溢れまくりの町田康。物語=嘘を書き続けることに疲れた作家の〈僕〉が、本当のことだけを書く〈真実 真正日記〉をつけはじめるという本作。脱力感と滑稽さ、特異な文体と型破りな構成。そんな彼の持ち味は、自らのパロディ? ……などをはじめとした、読者 のあらゆる〈読み〉をするりと抜ける。
第9回 ─ 月刊太田・ダンディ食堂〈特別編-第4回〉 ゲスト:田島貴男(オリジナル・ラヴ)|タワーレコード
- 作者: 町田康
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