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これは演技なのか?〜松山ケンイチ・永作博美『人のセックスを笑うな』

人のセックスを笑うな [DVD]

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19歳の美術学校生のみるめ(松山ケンイチ)。ある日、絵のモデルを20才年上の講師ユリ(永作博美)に頼まれ、その自由奔放な魅力に、吸い込まれるように恋におちた。友人の堂本(忍成修吾)に問いただされ、みるめは彼女との仲をうれしそうに告白するが、いつもつるんでいる仲間のえんちゃん(蒼井優)の顔は曇ったままだった。
初恋に有頂天のみるめだったが、実はユリは結婚していた――


原作の内容を完全に忘れてしまった状態で見たが、とにかく、ストーリーよりもまず、松山ケンイチ永作博美の、演技とは思えない自然な流れの会話シーンが凄い。
会話の途中で二人が視線を合わせて笑い出すシーンなんかは、本当に脚本があるのか疑わしいほどで、「適当にイチャイチャして」と演技指導されているんじゃないか、と思ってしまう。いや、映画『怒り』では妻夫木聡綾野剛が役作りのために同居生活をしていたというから、この二人もしばらく一緒に暮らしていたのかもしれない。
…と思ってインタビュー記事を検索すると、そんなことは書かれていなかった。
ただ、見た後もしばらく心に残った台詞=ユリの「おー、イエス!」はアドリブであることがわかって良かった。

Q:アトリエでのシーンで、みるめを脱がせる際のユリの発する「おー、イエス!」の言い回しに妙に惹(ひ)かれたのですが、あれはアドリブですか?

永作:あれは……松山君が服を脱ぐことを、本当に嫌がっていたんです。ためらっていたし、恥ずかしかったと思います。大勢の前ですからね。周りからは「ユリのオニ!」とか言われちゃって(笑)。なので、ユリがちょっと上に立って、テンションを上げていかなきゃ! ってことからのアドリブなんです。

『人のセックスを笑うな』永作博美&松山ケンイチ 単独インタビュー|シネマトゥデイ

キャッチコピーは「恋におちる。世界がかわる。19歳のボクと39歳のユリのいかれた冬の物語。」
まさに、この映画での松山ケンイチ(みるめ)の心の浮き沈みは、外から見ると微笑ましいが、本人にとっては「世界」の問題だということがよく分かる。ウキウキしたり、イライラしたり、ガッカリしたり、ほっとしたり、意中の人の居場所がその日たまたまわからないだけで、どれほど世界が闇に包まれるか。
そんな風に恋愛の真っただ中にいて右往左往している人を指して、「人のセックスを笑うな」と山崎ナオコーラは言っているのだろう。*1


みるめのことを想う蒼井優(えんちゃん)も、永作博美と対照的な性格が上手く出ていてとても良い。健気で不器用で、やっぱり色々なことにイライラしている。酔いつぶれたみるめをホテルに連れて行ってからのシーンは、これまた、本人にとって必死なシチュエーションで、みるめの必死さと同様、観ていてとても微笑ましい。
蒼井優を想う忍成修吾の軽い感じもとても良かった。


最初に戻るが、やはり松山ケンイチ永作博美の会話シーンが凄すぎるので、別の映画での二人を観てから、もう一度戻って観てみたい映画となりました。Amazonレビューの映画評もとてもいいですね。

恋とは何だろう。それは頭ではなく、本能から誰かを好きになってしまうこと。抑えきれない欲望に苦しむこと。この感覚を、映画にしたらこうなりました、という一作だ。主人公は美術学校に通う、みるめ。講師として学校に来たユリに絵のモデルを頼まれたことから、彼は20歳上のユリが好きで好きでたまらなくなってしまう。もう他のことは目に入らない。一方、夫のいるユリは、みるめの心を弄ぶように、ときに愛し、ときに突き放していく。
年齢の離れた男と女。それぞれの恋愛に対する感情を、松山ケンイチ永作博美がこれ以上ない自然体の演技でみせてくれる。とくにユリを押し倒してまでも求愛しつつ、彼女にサラリと拒まれるシーンの、みるめの“寸止め”な悲哀は観る者に切なく伝わってくるのだ。みるめに恋する蒼井優演じる「えんちゃん」。そのえんちゃんに想いを寄せる堂本の心の移ろいも共感を誘いまくるナチュラルさで描かれ、ラブストーリーとしては長めの137分を飽きさせない。オープニングとラストの屋上の対比や、バイクを押しながら土手を行くシーンでの音楽の使い方など、井口奈己監督の繊細なテイストに彩られながら、恋とはこういうもの、と納得してしまう。人の恋を笑ってはいけない!(斉藤博昭)

*1:Wikipediaによれば、「この題名は、本屋で、同性愛の本の棚の前でクスクス笑っている人を見たときに思ったことばであると、作者は語っている」とのこと