Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

試されるミステリ〜麻耶雄嵩『貴族探偵』

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

麻耶雄嵩の魅力は、ミステリの縁(ふち)を行くようなギリギリ感だと思う。メタミステリだったりジャンル境界だったり、裏技気味だったり、正当なミステリからはどうしても外れる。
一方で、ミステリ的なトリックを詰めた作品の場合、難し過ぎて自分がついていけない場合がある。読者が試されているのだ。
かつて、麻耶雄嵩作品には、『翼ある闇』のぶっとびぶりに驚いて読んだ次の作品『夏と冬の奏鳴曲』(『鴉』だったかも…)は意味が全く分からずに、苦い思いをした思い出がある。
今回、20年ぶりに、その思いを味わうことになるとは…。


貴族探偵』は短編集だが、コンセプトが非常に面白く、キャッチ―で、ドラマ化される、というのもよく分かる。*1
主人公自ら「貴族探偵」と名乗る変人っぷりと、すべての捜査を使用人(執事、メイド、運転手)に任せる徹底ぶりで既に面白いが…。
それを見て、事件関係者は、「初めて見たが、まさにこれこそが安楽椅子探偵。自分は動かず、聞いてきた情報だけで推理を組み立てるのか!!」と驚く。しかし、関係者全員を集めて、さあ今から真犯人を推理する、という場面で、推理すら使用人に任せてしまう。
「あなたが推理するのではないのですか?!」
場に集まった人々から投げかけられるこのツッコミが、この作品のほぼ全てである。
つまり、全く推理をしない名探偵。それが「貴族探偵」なのだ。


これだけキャッチ―なフックがあるのだから、トリックは、「それなり」で良いと思うのだ。頑張る必要はないはず。
しかし、この短編集はトリックが一癖も二癖もあり、困ってしまう。

収録されている5作「ウイーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「こうもり」「加速度円舞曲」「春の声」のうち、3作は満足して読んだが、「春の声」については、無理があり過ぎて、これはバカミスなのか?と思ってしまった。
そして問題作の「こうもり」。
これを褒める声も多いようだが、初読時に全く理解できずにポカーンとしてしまった。読み返して、どこが驚くポイントかは理解したが、いまだに腑に落ちない。
ということで、久しぶりに自分の理解力の無さを嘆く読書となった。


しかし、嫌いなシリーズでは全くない。「あなたが推理するのではないのですか?」というツッコミをもう一度聞くために、続編はドラマ開始前に読んでみたい。

*1:主演・相葉雅紀で月9とのこと。連続ドラマには向かない気がするが… →http://www.fujitv.co.jp/kizoku/