Yondaful Days!

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あまりにも「あの作品」を思い起こさせる傑作ホラー〜『エスター』

エスター [DVD]

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主役であるエスターと「目が合ってしまう」ジャケ写が前々から気になっていた作品。
今回観るきっかけになったのは、4月に中学生になるよう太にあった。よう太がミステリを本格的に読み出したので、綾辻行人の名前でインターネットで検索したときに出てきた、以下のページでオススメされていたのだ。


文章の中で綾辻行人は、『エスター』について、「アンファンテリブル(恐るべき子どもたち)」というジャンルで括って紹介していて、例として『オーメン』の名前も挙げられている。
そういうジャンルがあるのか、と初めて知ったが、今回実際に作品を見た後の自分の感想は少し違っていて、「よそ者に家を乗っ取られ系」という括りの方がの方がしっくりくる。
例を挙げれば、ディオが優等生のふりしてジョジョの大切なものを次々と奪っていく『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部なんかもそれに入る。
今回、映画を観始めて、エスターという少女は、主人公夫婦が、孤児院から譲り受ける娘のようだということが分かり、そして、エスター初登場シーンで、大人のように頭が良く、どこか「子どもっぽさ」に欠ける様子を見て、すぐにこれはあの作品に似ているな、と思った。



(以下はネタバレ全開です)



それは、楳図かずお『洗礼』だ。

洗礼 1 (ビッグコミックススペシャル)

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洗礼 2 (ビッグコミックススペシャル)

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洗礼 3 (ビッグコミックススペシャル)

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以下、似ている部分を挙げていくが、『エスター』を観た人に『洗礼』を薦めるのは特に問題にならないと判断した。(『エスター』のオチが、『洗礼』では序盤に登場するため、ほとんど『洗礼』にとってのネタバレにならない。その逆はNGだと思う)

  • 死産した娘の代わりとして大切に育てていたバラを(それと知りつつ)摘んでしまう。(『洗礼』では、赤ちゃんを、あり得ないほどの高さまで「高い高い」する場面がこれに近い。)
  • 妻の援助者である母親(エスターの場合は、シスター)を車の事故に遭わせる
  • 仲良しの子ども(エスターの場合は妹)に、殺人の手伝いをさせて口止めする。
  • 夫婦のうち妻だけを苛めて、夫を自分の味方につけようとする。
  • さらに、夫を性的に誘惑しようとする。
  • 化粧が剥がれ落ちることで、少女の実際の年齢を表現


『洗礼』という作品は、ラストのアレが凄すぎるので、その過程の面白さに目が向かないが、『エスター』を見ると、改めて『洗礼』の面白さに気づかされる。
先に挙げたジョジョの第一部を同じだが、主人公が大切にしているものが奪われる、もしくは、ぞんざいに扱われる、この辛い感じが堪らない。よく考えると、これはどういう理屈なんだろう、と思うが、マゾヒスティックなツボが刺激されているのかもしれない。
エスター』の中で一番好きなのは、エスターが、何も知らないふりして、(主人公が娘の代わりとして大切に育てていた)バラの花束をにこやかにプレゼントするシーン。また、最初は、たどたどしい指使いでピアノを教えてもらっていたはずなのに、大人顔負けな腕前でショパンを弾くシーン。そして、誘いを断られて初めて悲しみの表情を見せるシーン。
そのどれもが、『洗礼』でもほぼ同じニュアンスで描かれているので、どうしても、この作品は『洗礼』の影響を受けていると思ってしまうのだが、どちらも1956年発表の映画『悪い種子』の影響を受けていると書いている人もいるので、こちらも見てみようと思う。

悪い種子 [DVD]

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エスター』が『洗礼』と異なるのは主人公のケイトに、ある罪悪感を抱えており、エスターがそれを巧みに突いていくこと。
作中で徐々に明かされていくのだが、ケイトはアルコール依存症に悩まされた時期があり、そのせいで、娘のマックスが池に落ちて耳が聴こえなくなってしまったという過去があるのだ。
これがあることで、精神的に不安定なケイトが夫から疑われる明確な理由があり、ケイトとエスターとどちらを信じる?という場面で夫が頭を悩ませる展開にリアリティーが生まれる。


ただ、『エスター』は、ラストの展開が少しいただけない。流れは自然だが、ダニエル(息子)とジョン(夫)をどちらも死なせる必要があったのかどうか疑問。二人を殺さずに終わらせられたらもっと良かったのに…と思う。
今後は、途中でも挙げた『悪の種子』や、その他、「よそ者に家を乗っ取られ系」の作品をもっと見てみたい。