Yondaful Days!

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これはひどい!2〜蘇部健一『六枚のとんかつ』

六枚のとんかつ (講談社文庫)

六枚のとんかつ (講談社文庫)


早坂吝『○○○○○○○○殺人事件』があまりにもひどい内容(⇒これはひどい!(褒めてます)〜早坂吝『○○○○○○○○殺人事件』)で、改めてメフィスト賞は「何でもあり」の文学賞なのだなあ、と逆に感心。その勢いのまま、バカミスとしてよく名前の挙がる第3回メフィスト賞受賞作にチャレンジした。


結果、想像を超えるバカ度合いに驚いた。
まず、タイトルから6作品収録の本だと勘違いしていたが、文庫本では14作品+ボーナストラックで、本当に「短編集」。その14作の短編の中には、確かに、読者への挑戦状がついたしっかりとしたミステリもあるが、下ネタや駄洒落、馬鹿トリックの多さにひたすら驚く。
これを読むと、早坂吝の本は『六枚のとんかつ』の遺伝子を受け継ぎつつ、独自色を出せていて、素直に評価する気持ちが強くなるくらいだ。
実際、解説でも書かれているよう、この本は刊行後に空前の批判にさらされたということで、「たんなるゴミである」(笠井潔)など、相当厳しい意見が飛び交ったそうだ。
著者自身もその批判を認め、文庫版出版にあたってノベルス版から出来の悪い2編をカットしている。その代わりに追加されたのが、ノベルス版では下品すぎるという理由でカットされていた「オナニー連盟」だというから、その反省がどこまで真面目なのかよく分からないが(笑)


ただ、実質的なデビュー作だという時刻表トリック(っぽい)ミステリ「しおかぜ17号四十九分の壁」は、まんまと騙されてしまい、ラストに大爆笑した。これほど印象的で、絶対にそのトリックを忘れない短編は無いかもしれない。
そして「六枚のとんかつ」。作品内でも「読者の挑戦状」部分で明かされているよう、島田荘司占星術殺人事件』のアリバイ版で、トリックも上手いが、それが6枚のとんかつを使って説明される手管も見事。
また、解説で、上の2作と並べてベスト3として挙げられている「丸ノ内線七十秒の壁」は、力技ながら「ちゃんとしたトリック」。


でも、総括すると「くだらない」の一言ではある。
本当にくだらない短編ばかりだけれど、応援したくなる一冊。続編が『6とん4』まであるようなので、ささっと読んでしまいたい。あと、最後の一頁の絵で真相が判明するという『動かぬ証拠』も。
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