Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

まさに「今でしょ!」〜梅津有希子『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』&『ブラバン甲子園V』

今回は、高校野球開幕の前日8/4に行われたビブリオバトルの原稿*1をそのままアップします。
本当は色々と追加したい部分もありますが、キリがないので、最小限で…。


発表部分(5分で説明する部分〜無理かな…)

今回、新企画の「【&】ビブリオバトル*2というのを聞いたときにすぐに思いついた本があったので、ずっとそれで行くつもりだったのですが、先日、ビブリオ仲間の方から、「【&】に出るんですか?やっぱり音楽と合わせるんでしょ」と言われて、ああそうか、と。自分には音楽があったじゃないか!と思って、一気に本を変えることにしました。
実は、元々用意していたのは、サッカー本で、ワールドカップ観戦と合わせて紹介しようと思っていたのですが、よく考えたら、もうずいぶん昔にワールドカップは終わっているし、自分は熱心なスポーツファンではないので、変えて良かったと思います。
今回、曲をかけながら本紹介という試してみたかったスタイルに挑戦するいい機会ということで、まずは曲の方をかけます。

(「栄冠は君に輝く」をかける)


さあ、明日から開幕する第100回全国高等学校野球選手権記念大会 いわゆる甲子園に向けて今日紹介する本は先月発売されたばかりのこちらです。


そして、合わせて紹介するCDはこちらです。

ブラバン!甲子園 V

ブラバン!甲子園 V


まず、この本は梅津さんの思いの詰まった序文を読んで欲しいです。
ここには、作者の梅津さんがブラバン応援にハマった理由が説明されています。
梅津さんはスポーツ全般に興味がなかったのですが、中高と吹奏楽部に所属していた経験を生かして、吹奏楽部女子と高校野球選手との恋愛を描いた少女漫画『青空エール』の監修を務めます。そこから取材で甲子園に行ってみて、意外にも演奏が上手いことやその熱心さに感動し、野球応援にドはまりしたというわけです。


本の中には応援曲の蘊蓄が色々と紹介されているのですが、基本的に、学校名とセットで紹介されているのが大きなポイントです。
(「ファンファーレ(天理/速尺版)」をかける)
たとえばこの曲。これは天理高校オリジナル楽曲で「ファンファーレ」と呼ばれているものです。これだけでなく強豪校は、オリジナル曲を持っているところが多く、オリジナルでなくても、カッコいい曲は他校が真似して広まる、という流れがあるようです。
(「アフリカン・シンフォニー」をかける)
この定番曲アフリカンシンフォニーも、元はディスコの曲ですが、智辯和歌山が広めた曲なので「チベン」と呼ばれることも多いとのこと。また地方によって呼び名が異なるということも書かれています。


というように蘊蓄を言いはじめると止まらないので、これくらいにしておきますが、この本は魅力はそこではなりません。
自分の考える、この本の一番の魅力は、読むと吹奏楽部に興味が湧いてくるということです。
というのも、作者は、吹奏楽部の甲子園である普門館に何度も出たことのあるような強豪校出身の人で、もともと野球にあまり興味がない。そこが大きな特徴で、高校野球が大好きな人が書いたらこんな風には書けません。


たとえば、試合の流れを変えるような応援曲があります。有名なのが智辯和歌山の「ジョックロック」という曲で「魔曲」と呼ばれています。
これまで智辯和歌山の数々の逆転劇のきっかけを与えているということで、高校野球ファンが紹介しようとすれば、たとえば2006年帝京戦の奇跡の逆転のくだりを詳しく説明するはずなのですが、この本ではそこにはほとんど触れずにサラッと流します。
その分、秋のコンクール予選と野球応援が重なった場合の吹奏楽部の対応とか、野球応援で使われる楽器の説明とか、前日の移動での楽器の運搬や、雨に備えた楽器の扱い、についてページが割かれ、インタビューは吹奏楽部顧問に取るなど徹底しています。
つまり、高校野球というスポーツの添え物としての野球応援ではなくて、吹奏楽部が主人公の高校野球が描かれる。ここが一番面白い部分です。


もう一つ付け加えたいポイントは、情報の新しさです。
(「SHOW TIME」をかける)
まず併せて紹介するCD『ブラバン甲子園5』は梅津さんが監修を務めていて2017年発売で最近の曲を押さえています。
そして何より、Amazonプライム会員は無料で聴けるアルバムであることもオススメする点です。


そしてこの本。
もともと2016年発売の本が文庫化されるにあたって大幅に加筆されていて、2018年春大会の話まで出てくるので、まさに最新の情報です。
本の中で紹介されている最新の流行応援曲も、このアルバムで聴けます。
今かかっているのは、湘南乃風の『SHOW TIME』で最近の曲ですが、自分が気になったのはアゲアゲホイホイです。元は古くからあるサンバ・デ・ジャネイロという曲なんですが、バージョン違いというか掛け声が違う。
アゲアゲホイホイに流されずに、以前からの応援を続ける智辯和歌山のサンバ・デ・ジャネイロと合わせて楽しみたい曲です。
ということで、明日から始まる甲子園が楽しみで仕方なくなるこの本。出来るだけ早くお読みください。


補足(質問で来てほしいネタ)

「〜の文化史」等の歴史を読み解くタイプの本にほとんど興味のない自分も、野球応援黎明期の早慶の話にはグッと来ました。まず早稲田が1959年作曲の天理ファンファーレをイメージして作った今やド定番曲の「コンバットマーチ」を作り、1965年に発表し優勝。それに対抗して慶応が、翌年に、こちらもド定番曲の「ダッシュKEIO」を作り、勝ち始める。
この流れが、ビートルズの『ラバー・ソウル』に影響を受けて、ビーチ・ボーイズが『ペットサウンズ』を作った流れと重なります。と思って調べると『ラバー・ソウル』が1965年、『ペットサウンズ』が1966年ということで、ちょっと驚きました。
こういう野球応援の歴史の流れとして「アゲアゲホイホイ」や、上では取り上げなかった「ダイナミック琉球」を今自分は見ているのだと思うと、さらに高校野球を見るのが楽しみになります。

関連リンク

100回記念大会の注目応援(だけじゃないですが)について、梅津さんが朝日新聞スポーツ部・山下弘展記者と対談されています。大会の見どころが分かる素晴らしい対談です!

*1:ビブリオバトルでは、原稿読み上げタイプの発表は、基本的に推奨されませんがが、話す内容を整理するために原稿を作るタイプの人とそうでないタイプの人がいます。自分は、基本的にはラフ原稿を用意して記憶して臨むタイプです。

*2:ビブリオエイトさん考案の本と「何か」を組み合わせて紹介するビブリオバトル企画