Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

残り半分て短すぎるね〜『SUNNY 強い気持ち・強い愛』

90年代、青春の真っ只中にあった女子高生グループ「サニー」。楽しかったあの頃から、20年以上という歳月を経て、メンバーの6人はそれぞれが問題を抱える大人の女性になっていた。「サニー」の元メンバーで専業主婦の奈美は、かつての親友・芹香と久しぶりに再会する。しかし、芹香の体はすでに末期がんに冒されていた。「死ぬ前にもう一度だけみんなに会いたい」という芹香の願いを実現するため、彼女たちの時間がふたたび動き出す。
映画公式ページ


9/1の映画の日に観てきました。


阪神淡路大震災をききっかけに主人公(広瀬すず)が淡路島から東京に越してくるところから始まる高校生時代は、1995〜1996年を舞台にしています。
当時の自分は21〜22歳の大学生時代ですが、1999年のノストラダムスの大予言を前にしたあの時代を知っている人、特に、その頃の音楽に親しんだ人には堪らない作品でした。
涙もろい自分は、JUDY AND MARY「そばかす」が流れてきた時点で、既に泣きそうになっていたのですが、一番ストーリー的に沁みたのは、やはり、女子高生だった彼女たちが、将来の自分に向けてビデオメッセージを送るシーン。将来の自分はどんな生活をしているのか、そういった「未来予想図」が、ほぼ完全に当たっている人もいれば、完全に外れている人もいます。スガシカオ夜空ノムコウ」でいう「あの頃の未来に僕らは立っているのかな」をストレートに見せられる場面で、「将来も、みんな今と同じように仲良く」という奈美の願いに、(女子高生時代の)芹香と奈々も涙ぐんでいましたが、ここは誰もが涙するところだと思います。
いや、もう少し限定すると、彼女たちと同様に振り返ることのできる青春時代を1990年代に持っている人はみな泣かずにはいられないと思います。


というように、この映画の良いところは、観客がそれぞれの青春時代(中学でも高校でも大学でも)を振り返るように仕組まれているところです。
物語が、あえて大げさに、漫画的に描かれ、馬鹿っぽい演出で飾られているが故に、観客は感情移入し過ぎることなく、物語から距離を置いて笑えます。
登場人物にログインして楽しむ作品ではなく、いつでも引いてみられる「隙間」が用意されていることで、観客は、ついつい自身の青春時代を思い出してしまうのです。そして、そういう場面は、映画や小説以外でも経験がありました。
物語の最後の流れもあって、自分は、先日参加したお別れ会(お葬式の二次会)を思い出してしまいました。直接的には交流の少ない方ではあったのですが、自分と同世代で、子供二人の年齢もほぼ同じということで、我が身と重ねて「死」を考えてしまいました。立食パーティ形式のその会では、故人の笑顔の写真がスクリーンに沢山映し出されるのですが、まさに、この映画のエンドロールで写真が流れるのを見て、そのときのことを思い出して泣いてしまいました。


映画の登場人物は、キラキラしていた女子高生時代を20年以上前の思い出に持ちながら、それぞれに苦労のあるリアルな日常を過ごしています。主人公の奈美の今の暮らしも、かつての望み通りの部分もあれば、諦めてしまった部分もあるようです。そうした鬱屈した今が描かれるからこそ、ラストのダンスが感動的に伝わってくるし、観客も、「あの頃」を思い出して、前向きに頑張ってみようとポジティブな気持ちになれるのです。KIRINJI『時間がない』で歌われるように、残りの人生が短すぎると焦りながら。

俳優陣

当然のことではありますが、主演の篠原涼子広瀬すずが上手いです。広瀬すずの田舎者〜馬鹿女子高生の演技がかなりやり過ぎているので、その分を大人になった篠原涼子がカバーして、主役として上手くまとまっていたと感じました。
その他、女子高生時代と大人になってからのW配役はどの人も合っていて、特に小池栄子渡辺直美が女子高生時代と変わらない口調でディスり合うのは大笑いしました。そして、心役・ともさかりえの、あの何とも言えない「落ちぶれ感」は凄いですね。バーで暴力を振るわれるシーンは真に迫っていて、この映画の中では唯一緊張してしまった場面でした。
SUNNYのリーダーである芹香役・山本舞花と板谷由夏は、どちらもハマり役で、この2人が核となったから6人がまとまった感じがしました。2人とも顔に説得力があります。
大人時代も本人が務めた奈々役の池田エライザは、可愛いしカッコいいし、この映画の中では「馬鹿」にならない、そのうえ「老けない」、とにかくズルい役回りですね。
そしてSUNNY以外では、興信所の探偵役のリリー・フランキー。どうでもいいけど、リリー・フランキーでコギャルと言えば、ガングロたまごちゃん(「おでんくん」の同級生)を思い出しました。

音楽

使われている音楽は、舞台となっている1996年に限定しているわけではなく、とはいえ1990年代中盤の曲が使われています。(下記以外にもありますが)

ちょうど自分が20歳前後に聴いていた曲ばかりで本当に懐かしいです。
この頃にカラオケで自分がよく歌っていたのはCHAGE&ASKA岡村靖幸、そしてミスチルスピッツ。1994年頃にデートでカラオケに行ったとき、自分が歌ったCHAGEASKA「HEART]に対して、女の子が歌ったのはtrfの「BOY MEETS GIRL」(どちらも1994年の発売曲)だったのをよく覚えています。
そんな自分の記憶を振り返り、当時のランキングを確認すると、同じ小室哲哉でも、やや若い女性が好んだ安室奈美恵trfに対して、少し上の世代は男女問わずglobeを聴いていたのかもしれません。さらに、それとは別路線としてH Jungleを売り出すなど、小室サウンドは、ある程度、カテゴリーを分けてプロデュースされていたのだなと思い返しました。
ということで、選曲には特に不満はありませんが、小沢健二「強い気持ち・強い愛」が筒美京平ソングであることを考えると、ここにNOKKO最大のヒットソングである「人魚」(1994年3月)が入って来ないのがむしろ不思議な気がします。BPMがゆっくりで入れにくいのかな。

想い出はいつもキレイだけど
それだけじゃおなかがすくわ
本当はせつない夜なのに
どうしてかしら?
あの人の笑顔も思い出せないの
JUDY AND MARY「そばかす」

ダメな部分

最初に「隙間」があるからこそ、観客はそれぞれの過去を振り返ることが出来る、ということを書きましたが、逆に言うと、ビジュアルや展開が現実とはかけ離れていて、物語に入り込みづらいところが多々がありました。
登場人物の容姿について言えば、藤井渉(三浦春馬)の髪型は、わざとなのか、あからさまにカツラっぽい感じでキムタク風ロン毛です。そのしぐさ全てに、奈美の思い出フィルタが入っているのか、不自然なほどのイケメン度合いで、先日のコミケで好評を博していたという「90年代オタク」のコスプレを思い出しました。
(参考:タイムスリップしてきたオタク現る!?「小生、98年のコミケに来たつもりでござるのに」 #C94コスプレ - Togetter


その他のキャラクターの設定では、特にブリ谷の扱いが気になりました。「クスリに手を出したので仲間から外れる」という設定が漫画過ぎるのです。勿論そういう時代だったのかもしれませんが、あの時代の明るい面に光を当てた映画全体の中でもやや浮いているし、ブリ谷がラリッて奈々が顔に傷を負うシーンも、唐突過ぎると感じました。
奈美(広瀬すず)と奈々(池田エライザ)とがおでん屋で日本酒飲んで酔っ払ったりするのも、自分は漫画的表現として楽しめましたが、折角二人が友情をはぐくむシーンなので、もう少しリアルに扱ってほしかったです。
そして、やっぱり視点が一旦外に出てしまうのが、2度の「復讐」シーン。
一度目は、女子高生時代の、プールでのブリ谷襲撃シーン。このシーンは微笑ましい話として観ればいいと思うのですが、その後の、ブリ谷VS奈美や、ブリ谷VS奈々のシーンのハードさを考えると、このシーンは疑問です。当然、ブリ谷たちとは和解するものとばかり思っていました。
二度目は、裕子(小池栄子)の夫を襲撃するシーン。彼女たちが女子高生の格好をして襲うというのは漫画では全然ありだし、映画の中でも不自然ではありませんでしたが、その後に寄りを戻していればこそ、笑えるシーンとなる気がしました。(離婚で慰謝料をブン取るのも、それはそれでハードな現実だと思います。)
そして、それぞれの悩みに応えてしまう芹香の遺書。これもちょっとやり過ぎな気がします。第一、複数の会社を回して女子高生時代以上のカリスマぶりを発揮している芹香の友人が、彼女たちしかいない、ということの不自然さが浮き立ってしまうように思うのです。
勿論、心(ともさかりえ)や梅(渡辺直美)へのサポートが、ちゃんとしたサポートになっているのか(単なる甘やかしではないのか)という部分もあります。心(しん)の生活があまりにハードだからこそ、その部分の解決は安易にはしてほしくなかったと、ともさかりえの登場シーンから思っていました。
この辺は、原作である韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』でも同じなのかもしれませんが、どのように処理してあるのか気になりました。


と、色々と書きましたが、映画の中で『強い気持ち・強い愛』に触れ、久しぶりに聴き返して、歌詞の良さを再発見しました。
90年代の音楽については、映画で扱われていない音楽の中にこそ自分の好きなものがたくさんあるので、改めて自分なりに振り返ってみたいです。

長い階段をのぼり 生きる日々が続く
大きく深い川 君と僕は渡る
涙がこぼれては ずっと頬を伝う
冷たく強い風 君と僕は笑う
今のこの気持ちほんとだよね

また、大根仁監督の作品や、オリジナルの映画は早く観てみたいと思います。


バクマン。

バクマン。

モテキ

モテキ