Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

湯たんぽと疑似カップル〜サンキュータツオ『ヘンな論文』

ヘンな論文 (角川文庫)

ヘンな論文 (角川文庫)

サンキュータツオさんは、自分にとっては思い入れの強い『俺たちのBL論』(文庫化に伴い『ボクたちのBL論』に改題』)の人で、かつ、ポッドキャストを2番組も聴いているので、親しいお兄さん的な感じ。(でも年齢的にはタツオさんが年下)
実は、この本の元となるTBSラジオ荒川強啓デイ・キャッチ!』のコーナーも聴いていたので、こうした珍論文研究の取り組みについても知っていたのだが、ビブリオバトルで数回紹介されたのをきっかけに読んでみた。


感想を一言で言えば、「さすが!でも、突き抜けてはない」。
予想通りに面白い。でも自分の期待していたレベル(『俺たちのBL論』級の面白さ)が高過ぎたためか、それを遥かに超えた内容というわけではなかった。


この本では、13本の論文が、1本につき1章という形で紹介されているが、13本目の「湯たんぽ」研究の話が圧倒的に面白い。さらに、その後の「あとがき」までの流れが最高で、この熱量が本全体に行き渡っていれば、自分の中では、『俺たちのBL論』を越えていたと思う。
タイトルからは分からないこの本の最大の魅力は、あとがきに書かれている。

研究は長らく「人」に焦点を当ててこなかった。この本ではなるべく、論文の内容だけではなく、それを書いた人がいて、その人もみなさんとおなじ人間なんだ、ということをリアルに感じ取ってもらいたいということを意識して書いた。
「あっちにヘンな人がいる」という笑いもいいのだが、この本を読んで、「あっち側」の人の気持ちを理解し、「あっち側」の視点に立って、いままでいた「こっち側」の風景を見たときの面白さを、少しでも感じ取ってくれた人がいたらこんなにうれしいことはない。


だからこそ、伊藤紀之先生の家を訪れて、湯たんぽコレクションを見せてもらう(でも家族には全く理解されない笑)13本目が圧倒的に面白いのだと思う。そして、あとがきでは、今まで観察する側だったサンキュータツオも、半ば当事者的に、伊藤先生の論文の無断引用に怒ってみせる。こうした主客の逆転がとてもスリリングで、読んでいる側もハッとさせるのだ。


いや、実際、湯たんぽ研究は、研究内容もとても面白く、室町時代からあった湯たんぽが、江戸中期から後期について消えてしまった理由について、絵画や小説、俳句など様々なものから推理していくのだ。結論としては一度滅びかけた湯たんぽが西洋経由で「舶来品」として受け入れられ、再び隆盛を極めた、ということなのだが、まさか国外が重要なカギを握っているとは思わず、ミステリを読んでいるような気持ちになった。レンブラントフェルメールの絵にも湯たんぽ(フット・ウォーマー)が描かれているなんて初耳だ。


なお、もう一つ挙げるとしたら、やはり二本目“公園斜面に座る「カップルの観察」”が面白い。
横浜港大さん橋国際客船ターミナル」をフィールドにして、その斜面に座るカップルが、それぞれどの程度離れて座るか、距離によってどの程度密着度が変わるか、等を調査する内容。
その内容は、いかにも「ヘンな論文」的で、それだけだと「へぇー」なのだが、このフィールドワークが、調査対象にばれないよう、調査する側は男女ペアの疑似カップルで行われる、というところが、かなりドキドキする。しかも、実際に、調査にあたった3組の疑似カップルのうち、1組がつき合うことになったというからめでたい。


大学生は楽しそうだなー、大学生に戻って調査したいなーという無邪気な夢を見てしまったのでした…。
なお、娘(小5)に読ませたら、コンピュータにしりとりをさせる研究(11本目)が気に入ったみたい。確かにこれも面白かった。


『もっとヘンな論文』も読んでみよう。

もっとヘンな論文

もっとヘンな論文