Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ORIGINAL LOVE『bless You!』全曲感想(2)アクロバットたちよ


さて、2月に発売したオリジナル・ラブの最新アルバム『 bless You! 』の1曲目が、今回取り上げる「アクロバットたちよ」です。
前作『ラヴァーマン』の1曲目は、先行シングル「ラヴァーマン」でした。
『ラヴァーマン』 は大好きなアルバムなのですが、アルバムを聴いてまず最初にかかる曲で驚きたい。そう考えている自分にとっては、ややスリルに欠けるアルバムとなりました。

今回はその意味では期待大の1曲目です。一応、ライブでは聴いていて、印象も良かったので尚更です。


ただ、自分にとっての1曲目はアルバムの顔として期待度が上がり過ぎているので、苦手曲が来た場合に一気にアルバム全体が苦手になる可能性のある、いわば「鬼門」です。
勿論、気持ちの振れ幅はありますが、一曲目が苦手な『エレクトリックセクシー』(1曲目は「スーパースター」)、『東京 飛行』(1曲目は「ジェンダー」)は、どちらも聴き直すハードルが高いアルバムとなっています。


さて、実際に聴いてみると、思いのほか静かな立ち上がり。
「紫の靄」という歌詞からは、「淡い紫の夜明けの空」から始まる、同じくアルバム1曲目の 「Hum a Tune」(1996年発売の『Desire』)を思い出します。脱線しますが、『枕草子』も冒頭に同様に夜明けの頃を表す言葉として紫が出てきますね。( 紫だちたる雲の細くたなびきたる。)
そんな紫で始まった曲は、曲調が一変し、すぐに特徴的なギターリフで持ってかれます。
それでも、この曲の第一印象は、その他の目立ち過ぎる曲に比べれば「普通」でした。


しかし、何回か聴いているうちに、この曲の面白さに気づいてきます。
それほどでもなかった第一印象ですが、最初から好きなフレーズがありました。この部分です。

Offence Defence 立ち向かって怯んで

バスケットボールの試合をしているみたいで楽しいので気に入っています。
ところが、このフレーズは通常の曲で言うと、何処にあたるのかは上手く説明できません。サビではない気がします。


少し考えてみると、この曲が好きだと言う人も、細かく見ると、いくつかの派閥に分かれるように思います。
具体的には、(1)紫の靄立ち込める~の導入部のギターのコードチェンジに心揺れる人、(2)アンバランス持ちこたえて~のギターリフパートが好きな人(3)さあアクロバットたちよ~の靄が晴れて虹が架かると思いきや、やっぱり曇り空のお天気パートが好きな人、そして、(4)Shooting Dodging~の部分が好きなドッジ弾平派、(5) Offence Defence~の部分の好きなダッシュ勝平派くらいに派閥が分かれるのではないでしょうか。((4)と(5)はドッヂボールとバスケットボールで分けましたが実質的に1つです…。マイケルジャクソン派(Human Nature)もいるのかな…。)
ということで、王道的なAメロ、Bメロ、サビを2度繰り返してブリッジからサビという流れを踏まない構成が魅力です。自分は、一曲なのに、境目がはっきりした4つのメロディで構成されていることから「アクロバットたちよ」には「ひし餅」と渾名をつけています。(ひし餅は通常は3色だそうですが)


ナタリーのインタビューで本人も語っているように、音楽的なチャレンジを常に続ける、まさに ORIGINAL LOVEオンリーのサウンドが、楽曲構成ひとつとってみても実現しているように感じます。


みんなが聴いてくれるような状況になったっていう。前作の「ラヴァーマン」を出した頃とは明らかに状況が変わっていて。今は音楽的なクオリティを追及している若いバンドがいっぱい出てきて、自分のやってきた音楽がすごくやりやすくなった気がするんです。そういう状況だからこそ今回は、「ORIGINAL LOVEがやらなきゃ誰がやる?」というようなサウンドを突き詰めていこうと思って。それが結果的に今の時代のムードとシンクロして若々しく響いているのであれば、自分にとってすごくラッキーなことだと思いますね。
音楽ナタリーインタビュー記事



さて、次に「アクロバットたちよ」というタイトルについてです。
今回のアルバムは、(表題作含め)ラブソング多めだった前作から打って変わって、ラブソングを抑え目にして、メッセージソング、ファンに語り掛けるような歌詞が多いように思います。「ゼロセット」しかり、「空気-抵抗」や「逆行」そして「bless You!」もそうです。
アルバムを語る際に、田島貴男本人も「人生賛歌」という言葉を何度も口にしますが、それよりも、「You!」に向かって語り掛けるアルバムになっていることが最大の特徴であるように思います。そこが「I'm a Lover Man」と歌っていた前作との一番の違いです。

ということで、タイトルそのものが語り掛けの形を取っている「アクロバットたちよ」は、現代社会に生きるすべての人の人生を、アンバランスなロープの上を危うく進むアクロバット(曲芸師)に喩えた、まさにアルバムの顔となる名曲だと思います。
変なタイトルですが、自分は好きです。ひし餅も好きです。
あと、重要なことを忘れていましたが、「逆行」のあとに聴く「アクロバットたちよ」がまたいいのです。引き際を見つけられない危険なアルバムです。