Yondaful Days!

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ORIGINAL LOVE『bless You!』全曲感想(4)AIジョーのブルース

bless You! (通常盤)

bless You! (通常盤)

今回は、アルバム3曲目の「AIジョーのブルース」について取り上げます。

一発録り

話題にするべき「アクロバットたちよ」の時にはあまりしっかり書きませんでしたが、インタビューで、田島貴男は、これまで以上に「一発録り」を強調しています。代表曲として基本的に「アクロバットたちよ」について取り上げるのですが、毎回付け足しのように付け加える一曲が、あまり「一発録り」に似つかわしくない「 AIジョーのブルース」。

やっぱり人間のインスピレーションとか気合いって、すごく大事だなと思いました。「これ直さないよ」ってメンバーに言うと、みんな全力で演奏するんです(笑)。オリンピックの競技に参加する選手みたいなもんで、一発勝負だからプレッシャーが全然違う。で、そうやって録音したサウンドって何年経っても古くならないんです。何度聴いても飽きない。確実に何かが違うんですよ。どういう理由かはわからないんだけど。ちなみに3曲目の「AIジョーのブルース」も一発録りです。
ORIGINAL LOVE「bless You!」インタビュー|逆行し続ける男がたどり着いた新境地 (2/5) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

〈アクロバットたちよ〉と〈AIジョーのブルース〉は去年の〈Wake Up Challenge Tour〉で披露していたんですけど、前者はリハーサルでバンド形式で作っていった曲で、だから編曲にバンド・メンバー全員のクレジットが載ってるんです。後者はある程度デモでできていたものをバンドで仕上げていって。〈ゼロセット〉も2年前にそのメンバーでレコーディングしたんで、その3曲に関しては本チャンのレコーディングも一発でした」
――ライヴ・レコーディングみたいな。
 「〈アクロバットたちよ〉は完全に一発録りで、歌も直してないです。ギターを弾きながら歌ったし、ダビングも一切してないし。リズム録りのときにオケ完になったわけです(笑)。で、〈AIジョーのブルース〉は歌詞のテーマが機械なんで、それを生でやろうということで、あれもダビングはしてないですね。リズムは多少エディットしましたけど。でもそれ以外の曲に関しては一切してないです。いまはみんなエディットしますけど、僕はあんまり好きじゃなくて、アナログみたいな録り方をしてます。
インタビュー:“生命のありさま”みたいなもの――ORIGINAL LOVE『bless You!』 - CDJournal CDJ PUSH

元々自分は、ライヴではなく何度も聴くCDというパッケージで売るのに一発録りは必要ないのではないかと思っていたクチなのですが、今回の「アクロバットたちよ」を聴いて、その考えを改めつつあります。それを後押しする言葉を二つ引用します。
まず、ちょうど昨日、地上波で初オンエアされた映画『カメラを止めるな』評で、納得感のあるものがありました。

カメラを止めるな、ワンカットの前半の方が「リアル」で、ドラマパートの後半は何回もリテイクしたり編集で繋ぎまくった嘘だらけの「虚構」なんだけど、観てる方は逆に感じてしまうんですよね。この辺が本当に映画のマジックで、この映画って映画の魔法を可視化してくれるんですよね。だから面白いんだ
https://twitter.com/BoyWithTheThorn/status/1104012696700149767

あの『カメラを止めるな』のワンカット部分は、確かに粗がありますが、スリリングでドキドキして、だからこそ全体が引き締まります。つまり、あの映画は、ただ脚本がいいだけでなく、前半40分の「肉体」的な部分とセットだからこそ仕掛けが引き立つ話になっているというわけです。


ただ、それでは、「アクロバットたちよ」や「AIジョーのブルース」は、聴く側が、これは一発録りなんだ!と意識して聴かなければ楽しめないのか、というと、そういうわけでもありません。
先日読んだ小路幸也『東京公園』は、写真家を目指す主人公の大学生・圭司が、写真について以下のように述べる場面があります。

被写体との間の空気感というものを僕は、いやカメラマンだったら感じ取れる。わかると思うんだ。
撮る人間と撮られる人間の間にはかならず何かが、空気感としかいいようのないものが流れている。(略)
だから、写真集なんかを観ると、そのカメラマンと被写体との関係を勝手に感じてしまうこともある。その写真に含まれている、映し出されている空気管というものを濃密に感じることがある。ほとんどの場合そういう写真集は素晴らしいものになっている。

今回のアルバムが写真集とセットということもあり、カメラと音楽の親和性を今まで以上に感じますが、どちらもデジタルが普及してアナログの良さに立ち戻っているジャンルということが言えるかもしれません。そして、そのアナログの良さというのは、ここで書かれているような「空気感」みたいなもので、カメラと音楽に共通する、この空気感に田島は惹かれているのかなあと思います。
実際、ライブで聴く「AIジョーのブルース」も、メンバー揃っての振付も含めて、あそこにしかない「空気感」が詰まった曲なのです。

歌詞の中で扱う「AI」

AIと言えば、昨年のKIRINJIのアルバム『愛をあるだけ、すべて 』に収録の名曲「AIの逃避行」があり、まさに今の時代にマッチするテーマなので歌詞にも当然期待します。最初に、自分の考えるAIをテーマにした場合の「正解」を書きます。


先日のNHKクローズアップ現代+」は、スティーヴン・ホーキング博士(2018年3月没)の遺作『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』を取り上げ、博士のAIへの関心の深さについて紹介していました。

内容は、人類が抱える大きな疑問に答えるというもの。その疑問とは何か。例えば「神は存在するのか」「宇宙には人間の他にも知的生命体は存在するのか」「人間は地球で生きていくべきなのか」、どれも壮大な難問ばかりです。そして、中でも博士が力を入れて書いたテーマの一つが「人工知能=AIは人間より賢くなるのか」。博士は晩年、ビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏などの世界的起業家に、AIが社会に及ぼす影響を考えようと呼びかけたり、研究機関を立ち上げたりするなど、AIと人類の関係に深い関心と懸念を持っていました。
車いすの天才ホーキング博士の遺言 - NHK クローズアップ現代+

このように、AIがニュースで取り上げられる場合には、 いわゆるシンギュラリティ*1の問題など、 バラ色の未来よりも、それと隣り合わせの「AIが人間の仕事を奪う未来」に重きを置かれることがほとんどのように思います。(もしくは、シンギュラリティなど来ないがAIの能力向上とは対照的に人間の能力が下がっていることを危険視する『AIvs教科書が読めない子どもたち』の路線)
KIRINJI「AIの逃避行」は、そういった不安を背景に、恋愛においても人間と機械の境目が曖昧になっていくという虚無的な感覚をうまく表しているように感じます。*2


と・こ・ろ・が。


何故か「AIジョーのブルース」は、そのような悲哀、不安が、曲調にも歌詞にも感じられない作品となっています。
確かに以下の部分など、携帯電話やスマホの登場で生活が便利になった反面、監視の目が強くなり、むしろ不自由になっている一面を良く表していると思います。

画面をタッチするほどに1年が短くなっていく
早回しの映画のような人生は忘却の物語
星の時点早めました
便利な暮らしのために
豊かになった Ah My Master
なぜ青ざめてまた急いで

ただ、これは「AI」というテーマからは大きく離れた内容だと思うのです。
コンピュータやロボット導入によって、人間は楽になると思っていたのは間違いだった…というのは一時代前の悩みであって、AI時代で問題とされているのは、忙しさではなく、人間自体が機械よりも「使えない」「不要な」存在に落ちてしまうのではないかという部分です。つまり、より本質的な「人間性」の問題が問われていて「AIの逃避行」なんかはまさにそのような作品になっていました。
歌詞で「コンピュータワールド」という言葉が使われていますが、まさに語るに落ちる(笑)、というべきか、この言葉は今、ほとんど聞くことはありません。オマージュ*3なのかどうか不明ですが、クラフトワークのアルバム『コンピューターワールド』が発売されたのは 1981年ということを考えると、ここで歌われているコンピュータへの問題意識は、AIのシンギュラリティを前提としたものではなく、30~40年くらい前まで一気に戻っているような気がします。なお、「コンピューターおばあちゃん」(みんなのうた)も1981年で、「AIジョーのブルース」は、牧歌的な、古き良き時代のコンピュータ観に満ちていて、平成も終わる頃になって昭和を思い出させる牧歌的な歌詞となっています。(結局、AIは曲タイトルの駄洒落のためなのか…と思わせるところまで含めて牧歌的)
念のため、この曲についての田島自身の言葉をインタビューから引用すると…。

──3曲目の「AIジョーのブルース」は冒頭の2曲から一転してエディットを駆使した曲になっています。

曲のテーマがAIの時代におけるブルースということだったので、エレクトロニクスやSNSとか、そういうものに制御される人間というイメージを曲に落とし込んだんです。なので、アルバム中この曲だけ歌も含めて一発録りした演奏を極端にエディットしました。無機質なビートの中に、生身の人間が演奏したリズムをエディットして入れて。非常に変な感じのリズムになりましたね。

──頭の中が混沌としていく感じがします(笑)。

ヒップホップの人がこういうリズムで曲を作ったりしてますよね。

──その手法でブルースをやるという。

そう。そこは誰もやってないんで。今回のアルバムは、自分が今感じてることが要所要所で歌とか曲になってるんですよね。「空気-抵抗」とか「逆行」って曲もそうなんですけど、今自分が感じてる苛立ちや歪み、不気味さとか、それをストレートに書いているんです。

ということで、 「空気-抵抗」「逆行」 という傑作2曲と並べて、「 苛立ちや歪み、不気味さ」をストレートに書いている、とのことですが、特にあの2曲と並べてしまうと苛立ちは伝わりにくいです…。(むしろ過去曲で言うと「Hey Space Baby!」に通じる能天気さを感じます)


と、悪く書きましたが、オリジナル・ラブの楽曲の中でも打ち込み推し、変拍子推しの自分からしてみれば、この曲は大好きです。A面は、「アクロバットたちよ」~「ゼロセット」と来て、3曲目に、この「AIジョーのブルース」。そしてこのあとに「グッディガール」ということで、全く隙なし。アルバムのメインテーマ「人生賛歌」というところから3曲目、4曲目が少し離れる感じがしますが、そこら辺のバランスも絶妙ですね。

参考

pocari.hatenablog.com
pocari.hatenablog.com
pocari.hatenablog.com

東京公園

東京公園

コンピューター・ワールド

コンピューター・ワールド

愛をあるだけ、すべて(通常盤)

愛をあるだけ、すべて(通常盤)

*1:AIが人知を超える転換点。具体的な年を挙げ、2045年問題と呼ばれることも

*2:映画『her 世界でひとつの彼女』が、まさにこのテーマど真ん中の作品でした。

*3:コンピューターワールドで検索すると、電光超人グリッドマンが引っかかります。昨年アニメがありましたが、原作の実写特撮作品は1993年の作品のようです。