Yondaful Days!

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政治へのAI導入は真面目に考えるべき~岡田斗司夫『ユーチューバーが消滅する未来』

先日、職場のEU某国出身の方(日本語ペラペラの30代男性)とブレグジッドやトランプなど、各国の政治事情について話をする機会がありました。彼は、日本の政治も含めて世界事情に通じていたので、こちらからの質問に答えてもらう形で話を進めていたのですが、その中で、政治もAI(人工知能)に任せた方が良いという意見が出て、驚きました。が、話を聞いていると、この考え方はEUの国だからこその発想なのかもしれないと思ったのです。
日本では、最近、長期的視野に欠け、欠陥だらけの法律が、数の論理だけで通ってしまう状況があります。(例えば、厚生労働省の統計不正問題が明らかになっている中で無理矢理通してしまった働き方改革関連法案や、技能実習制度の問題は放置したままでの外国人労働者の受け入れ法案等。)
これは他の国でも同じ状況のようで、昔に比べて政治家に「大局観」がない、求められない時代なのかもしれません。その国では、数年前に、地元誘導の国会議員が、どさくさに紛れて地域産品についての保護主義的な法律を通してしまいました。ここまでは日本と変わりません。しかし、そのあとの顛末が日本では考えられないものでした。無理矢理通ってしまったこの法律に対して、広域経済圏を理想とするEU欧州議会?)が 少し遅れて ダメ出しをし、結果として法律自体が廃止に追い込まれたのだというのです。*1
このように、もはや信頼がおけない国内政治に対して、もう少し国際的視野や大局観を持ち、政治的理想を追求するEUのような組織が、おかしな法律にチェックをしてくれるというのであれば、それをEUではなく、AIに任せることが出来るのでは?さらに進んで、立法自体もAIに任せられるのでは?というのは自然な思考の流れかもしれません。


政治をAIに任せるという話は、まさにこの本で出てきた内容です。
この本の目次は以下の通り。

  • 序章 「未来格差」に備える
  • 第1章 未来予測の3大法則
  • 第2章 自分を「盛る」時代
  • 第3章 AIがユーチューバーを淘汰する
  • 第4章 アイドルは新時代の貴族になる
  • 第5章 アマゾンが不動産へ進出
  • 第6章 バーチャルとリアルの恋愛の境界が消える
  • 第7章 AIロボットが家族の代わりに
  • 第8章 人工知能が政治を変える
  • 終章 未来の幸福論

特に興味深かったのはまず2章。ここではNHKねほりんぱほりん」の「偽装キラキラ女子」の回も引き合いに出しながら、すでに日本は、現実よりも「盛った」ものが優先される時代になっているという話がされます。ここ最近の自分の絶望を裏付けるような内容です。

  • これだけ格差が開いた世界において、みんなが納得できる解なんてない。それぞれの人が見たい「現実」を見て、楽しく生きた方がずっといい。p61
  • (「自分の生活は全然キラキラしていない、なんて惨めなんだろう」等という)鬱屈を抱えて生きるより、自分の現実をそれぞれデコって生きる。「みんなが同じ現実に向き合う」のではなく、「それぞれが別々の現実を生きる」。これこそ、人類の悲願なのではないでしょうか?これから10年、20年、そうした消費者ニーズはもう止められないでしょう。p61
  • 極論すれば、もうすでに「ニュースが真実かどうかを判断する」ことはたいていの人にとって重要ではなくなっている。p50

また、第7章では、調理ロボットの作ってくれた料理を食べながら、「大喜利β」のような人工知能のキャラがボケやツッコミを担当して、大家族のような雰囲気を作ってくれる「楽しい」未来が描かれます。実際、2007年のiPhone登場で生活が一変したというのはまさにその通りで、AIスピーカーの普及と機械学習の進化のスピードを考えれば、あながちあり得ない未来ではない気がします。


そして、この延長上にあるのが政治でのAIの活用について書かれた8章です。

ここ100年くらい、多くの国が民主制を採用し、できるだけ有能で誠実な人を政治家に選ぼうとしてきましたが、そういうやり方にも限界が見えてきました。
現代社会の問題は、ものすごく膨大で複雑で広い範囲にわたっています。
「社会の不平等はどこまで認めるべき?」、「移民が押し寄せてきたけど、どうすれば自分たちの生活を守れるの?」、「人間は都市に集中した方がいいの?」(略)…。
1人の人間がすべての事柄についてきちんと情報を集めてじっくり考えるような余裕はないでしょうし、あらゆる人間の意見を一致させることなんてできません。p182


この状況に対して、理想的には、選挙で選ばれた議員たちが議論を重ねることによって最善の政策を選択していくのが理想です。しかし、その選挙で「主要な議題に対して十分な知識を持っているか」、「細かい議題に対しても情報収集し、有益な議論を出来そうか」、そういった観点で投票を行っている実感はありません。
この本の中でも、人間の社会は「ルール主義」(厳格な法律にしたがって国家を運営しようとする法治主義)と「キャラクター主義」(人徳のある為政者が人民を治めると口主義)の間で行ったり来たりを繰り返しているものの、現代は強いキャラクターが求められる時代になっているとしています。

ルールで大勢の人間をまとめて共同体を維持するのはもうできない。
ファクトではなくオピニオンしか存在しない世界では、「言った者勝ち」なのです。p187


その中で、政治に人工知能を積極的に導入していくべきだという考え方が出てきます。岡田斗司夫は、人工知能が万能だからそう言うのではなく、その精度が未成熟であっても導入すべきだと考えています。

「不完全なシステムに政治は任せられない」と反論する人もいるでしょう。でも現行は、どんな資質が必要かもわからない職業に対して、有能だとか正義感が強いだとかいい人そうとか言われる人を選挙で選んで任せることになっている。そんなシステムのデタラメさに比べたら、人工知能の解析を参考にして政治を行う方がよっぽどマシなのではないでしょうか。P195

完全に同意です。
ここからは、少し飛躍して自分の考えを述べます。
自分はこれまで「将棋」というゲームにそれほど興味がありませんでしたが、電王戦が始まって以降、AIvs人間は勿論、人間vs人間の将棋であっても、他スポーツと同様に興味を持って将棋観戦をすることが増えました。
それは何故かといえば、「評価値」が見えるからです。

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評価値
ニコニコ生放送などの将棋中継では、格闘ゲームのライフのように、画面上部に対戦する両者の「評価値」が表示されるのが普通になっています。これがあることで、将棋に詳しくなくても、また勝負を中盤から見始めても、どちらが優勢でどちらが劣勢か、また、どの手で盤面が逆転したのかがはっきりわかるようになりました。
また、一気に情勢が変わる悪手・良手に対しては、「何故これが評価値を下げる(上げる)のか」に対して、説明を求めるようになり、結果として将棋への理解を深めることに繋がりました。


翻って、政治の現状に目を戻せば、個別政策に対して論点が多くなればなるほど、国民の側としては理解が難しくなり興味を失うようになる傾向にあります。それに対して野党としては、「議論」というよりは「政争」を分かりやすくするために、論点を一点に絞って「一点突破」で政権打倒を目指します。
結果として、政権与党は、時間を稼ぎタイムアップで強行採決、というのが、最近のパターンです。そこには「政策」を議論した形跡はほとんど見られません。


結果として、以下のような点で、今の日本の政治は全く魅力的ではなく、国会議員への歳費が無駄に使われているのではないかと不満が溜まるばかりです。

  • 多過ぎる論点に対して、国民だけでなく、政治家も十分に理解していないまま採決に応じている
  • 国会で議論がなされない、だけでなく、国民への説明も不十分なまま重要法案が成立している
  • 選挙での投票では、上記問題に対して国民側は何の手も打てない。結果として、国民が政治に興味・関心を持てない


先ほどの将棋との対比で言えば、これへの解決策は明確です。政策に人工知能による評価値をつけるか、議員に人工知能による評価値をつけるかのどちらかです。
この人工知能は、政党別で異なる評価値が出るということでも構いませんが、経済や労働関連の指標予測などでコンテストをやって、ある程度好成績を収めるAIを使うという形がいいのかと思います。
評価値を明確にすれば、次のような利点が考えられます。
政策に点数をつける場合、 代案との比較が簡単になるため、野党側に法案のアラを見つけ、対案をつくるインセンティブが生まれます。それだけでなく、点数が見えることによって、国民がスポーツを観るのと同レベルで政策に関心を持つことが出来ます。与野党のAIで評価値が逆転することがほとんどの可能性もありますが、明らかに国民が得るものが少ない法案は、どこのAIも低い評価値をつけることが想定されます。
議員に点数をつける場合、毎回問題になる安倍首相の「適材適所」の大臣任命がどの程度「適材適所」なのかは、任命の時点である程度わかり、国民が組閣自体に興味関心を向けることができます。 桜田義孝さんのような人物が国務大臣に選ばれることはなくなるでしょう。


自分が、今の政治で納得が行かないのは、「民主党」もしくは「サヨク」アレルギーの人が多過ぎて、政策の内容よりも、野党憎し(もしくは「安倍さんは好きじゃないけど、他に誰かいる?」派の考え)で、与党の法案や閣僚人事の問題点がスルーされたままになってしまうことです。
かといって、上に文章を引用したように、国民どころか政治家も「すべての事柄についてきちんと情報を集めてじっくり考えるような余裕」はないように見えます。
政治にもう少し国民的関心のスポットが当たり、才能ある人材が政治の道に進むようになるためにも、人工知能を政治に導入するようなアイデアが採用されてしかるべきかと思います。『ユーチューバーが消滅する未来』の結びの文章は以下の通りです。まさにその通りで、このまま国会でヤジ合戦を続けながら泥船が沈んでいく未来は何とか避けたいと思ってしまいます。

もう僕たちは国家や政治の「あるべき論」をやめて、さまざまな実験をしていかなければいけないし、その動きは世界のあちこちですでに起こっていて、もう止められない。
どの国を選ぶのか、あるいは国を作るのか。決めるのは、あなたです。
だって、僕たちは今、戦国時代にいるんですから。

*1:一方で、こういう状況を知ると、英国がEUを抜けたい理由も理解できるのですが…。