Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

政権批判ではなくちゃんとしたエンタテインメント映画~『新聞記者』

まず、最初に書くと、自分は、 望月衣塑子記者のことはあまりに好きではありません。
望月記者の菅官房長官に対する姿勢は、必要なものだし、排除されるべきではないと考えますが、あまりに反体制に過ぎる、いわゆるサヨク過ぎる、と考えていたのです。
その「サヨク過ぎる」というやや一方的な印象は、彼女自身の言論よりも、Twitter上での安易なRTが(自分の目には)目立ったというところも大きいです。新聞記者にしては、噂話レベルの政権批判もいRTするような「軽さ」が、彼女をあまり好きではない理由です。


ということもあり、望月記者が製作に関わっているこの映画は、もともとあまり見るつもりはありませんでした。しかし、松坂桃李が気になっていたのと、実際に公開されてみると、どうも、反安倍政権以外の人も、エンタメとして、この映画を評価しているような声が聞こえてきたため、上半期マイランキング2位の映画『主戦場』と比較する意味でも観てみようということになりました。

松坂桃李&シム・ウンギョンW主演! 前代未聞のサスペンス・エンタテインメント/映画『新聞記者』予告編



ということで感想です。
ひとことで言うと松坂桃李が良かったです。
そしてもうひとこと言うと、シム・ウンギョンから目が離せませんでした。

松坂桃李について

まず、松坂桃李ですが、本当に良かったです。
彼が演じるのは外務省から 内閣情報調査室(内調)に出向しているエリート。仕事と家庭、組織と個人の中で悩み苦しむ様子がとても伝わってきました。
特に印象に残ったのはラストシーンです。漫画なら目から光(ハイライト)が失われてしまっている、あの、呆然自失の状態が、噓っぽくなく表現された上での声にならない呟き。
そこも含め、勇ましかったり不安だったり、ヒーローになりたい、けれどもすべてが上手く行くわけではないという不安定な感じを上手に(つまり過剰ではなく)演じることが出来ていたと思います。( 曲で言えばミスターチルドレン『HERO』)
そして、妻役の本田翼も、明るいながらも根は儚げな演技に徹しており、松坂桃李のラストシーンでの決断(ゴ・メ・ンと言っているように見えたので、結局真相は闇の中)も結局は彼女(勿論、生まれたばかりの子供も)が理由なんだと感じさせる名演でした。

ストーリー(フィクション)

さて、肝心のストーリーですが、映画ナタリーで朝井新聞の石飛記者の発言と、ほとんど感想は同じです。

エンタメ映画なので、あれくらい風呂敷を広げてもいいと思う。最初に謎があって、謎を軸に1つひとつ物語を積み重ねていく流れがよくできていると感じました。企画を最初に聞いたとき、反権力の人しか観に行かなかったら嫌だなと思っていたんですけど、脚本がよく練られていてしっかりとエンタテインメントになっていますし、オリジナルストーリーとしても素晴らしい。
新聞記者が語る映画「新聞記者」 - 映画ナタリー 特集・インタビュー

この発言は、物語の軸となる部分で、現実と乖離した突飛な話が出てくるのはどうか、という話を振られての回答にあたります。
石飛記者のいう「あれくらいの風呂敷」についてネタバレ部分を伏せて書くと、内閣府主導での地方での医学部設立の背景に○○○○があった、という大ネタですが、これくらいの陰謀があると、ドキドキして見ごたえがあります。
自殺した先輩官僚が携わっていた学校設立の背後にあるものは何か?という謎が、「羊の絵」の暗号も含めて次第に解き明かされていく流れは自然で見入ってしまいました。

ストーリー(事実ベースの部分)

現実の事件とのリンクの多い映画ですが、序盤には、伊藤詩織さんの事件を想起させる事件揉み消しの話が出てきます。これにも内調が暗躍し、反・詩織さんの意見がネットで盛り上がったのも内調→ネットサポーターによるもの。
それを仕掛けている内調側も疑問を感じながらけしかけ、世論が偏って盛り上がるというこの構図に焦点を当てたのが今回の映画だと思います。後半で、ややフィクション寄りの真相が明かされても、問題視しているのは、この構図なので、映画を観た人は皆、今の日本と重ね合わせて考えることになります。
(ただし、内調の人間がTwitterに直接書き込んでいる絵には、やや疑問。それはないでしょ、と思いますが。)

シム・ウンギョン

シム・ウンギョンは悪い意味で目立ちました。
まず、何故、反安倍政権の映画の主人公女性を韓国人女優が演じるのか?というのが分からない。見始めても、役名が「吉岡」という日本人の役を何故?と疑問が深まります。
しばらく見ると、彼女が演じる吉岡エリカは、新聞記者だった日本人の父と韓国人の母の間に生まれたという設定で、同僚からも「アメリカの大学に通っていたのに何で日本で記者になろうと思ったんだろう」と疑問に思われている、ということで、時々怪しい日本語にも少し納得しました。
次に気になったのは、猫背です。猫背であることで、彼女が有能であるように見えない。無能なコメディ役であれば猫背でいいのですが、今回の役には猫背は合わないのでは?と思ったのです。
ちなみに、先ほど、以下のインタビュー記事を読むまで気がつかなかったのですが、『サニー永遠の仲間たち』で主役(神木隆之介にそっくりでした…)を演じたのがシム・ウンギョンだったのですね。このときの猫背は役に合っていたと思います。
www.cinra.net

映画『サニー 永遠の仲間たち』予告編



さて、日本人女優が演じるとしたら誰なのか、と思ったときに最初に思い浮かんだのは吉高由里子でしたが、誰が演じても、邦画に男女の有名人俳優が共演する場合、恋愛色が出てしまう気がするので、その意味では、シム・ウンギョンが合っていたのかもしれないなと思いました。しかし、アサヒ芸能の記事で、「反政府」のイメージがつくことを怖れて日本人女優はオファーを断ったということを知り、納得しました。候補として挙がった女優の中に、満島ひかりの名がありましたが、それがベストな配役だった気がします。


ただ、改めて考えてみると、 ネット上でのナショナリズムの台頭は世界共通でも、官僚や為政者が、自らが正しいと思うことを出来ない環境というのは、日本に特化している問題なのかもしれません。そして、最近、日本企業内での左遷的人事がニュースが話題になること*1を考えると、松坂桃李が抱える悩みは民間でも共通するものでしょう。
その問題を追求する主役が、国外の視点を持っている人であるということは、この映画には適役だったとも思えます。


映画の中のテレビ番組で複数回登場する望月記者と前川喜平(元・文部科学官僚)は、ちょっと出過ぎで蛇足ではないかとは思いましたが、2人の主張が読める以下の新書は、参考に読んてみようと思います。また同名の新書も。

同調圧力 (角川新書)

同調圧力 (角川新書)

新聞記者 (角川新書)

新聞記者 (角川新書)

*1:カネカやアシックスにおける「パタハラ」が問題になりました。