Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

「百田尚樹現象」に刺激を受けて読んだ2冊~百田尚樹『モンスター』『幸福な生活』

ノンフィクションライター石戸諭によるニューズウィークの特集「百田尚樹現象」が面白かったので、まずは一冊読んでみようということになり、長編と短編集の2冊を読んでみた。*1

『モンスター』

モンスター (幻冬舎文庫)

モンスター (幻冬舎文庫)

田舎町で瀟洒なレストランを経営する絶世の美女・未帆。彼女の顔はかつて畸形的なまでに醜かった。周囲からバケモノ扱いされる悲惨な日々。思い悩んだ末にある事件を起こし、町を追われた 未帆は、整形手術に目覚め、莫大な金額をかけ完璧な美人に変身を遂げる。そのとき亡霊のように甦ってきたのは、ひとりの男への、狂おしいまでの情念だった——。

かなり読みやすく、最後まであっという間だった。
主人公が整形を繰り返して美女になるまでの描写は、成り上がりものとして面白いのと合わせて、どの程度の期間、どの程度の費用で手術するのか、「美形」にするには、何に工夫すれば良いのか、というあたりの、整形豆知識が、非常に勉強になる。
特に、究極を求める和子(未帆)が、一旦、平均的でシンメトリーな美女に到達したあと、最終的に、左右のバランスを調整し、笑顔の演技も練習して「美」を手に入れるくだりは、執念を感じる。
しかし、整形手術という、賛否が分かれることもあるテーマを題材にしながらも、百田尚樹自身のメッセージがよく分からなかった。
例えば、ひとつ前に感想を書いた『誰かが見ている』について言えば、作者の家族観
子育てについての考えは、柚希という登場人物が語っている内容に表れていると思う。
テーマを持った物語を書く以上、どうしても作者が顔を出してしまう。その部分を探りながら読むのが自分は好きなのだと、改めてわかった。
この、「作者の顔が見えない」というのは、百田尚樹という作家の強みである、ということは、もう一冊の『幸福な生活』を読んで判明した。

『幸福な生活』

幸福な生活 (祥伝社文庫)

幸福な生活 (祥伝社文庫)

永遠の0』『海賊とよばれた男
国民的ベストセラー作家が魅せる超技巧!
衝撃のラスト1行!
そのページをめくる勇気はありますか?

宮藤官九郎さん「嫉妬する面白さ――」

単行本未掲載「賭けられた女」を新たに収録

「ご主人の欠点は浮気性」帰宅すると不倫相手が妻と談笑していた。こんな夜遅くに、なぜ彼女が俺の家に? 二人の関係はバレたのか? 動揺する俺に彼女の行動はエスカレートする。妻の目を盗みキスを迫る。そしてボディタッチ。彼女の目的は何か? 平穏な結婚生活を脅かす危機。俺は切り抜ける手だてを必死に考えるが……(「夜の訪問者」より)。愛する人の“秘密"を描く傑作集!

『モンスター』とは打って変わって、19編が収録された短編集(ショートショート)。
この短編集の特徴は、ぺーじをめくったあとの最後の1行の台詞で落とす形式が統一されていること。
驚いたのは、通常、この種の短編集は、玉石混交で、面白いものとつまらないものが混在するのが普通だが、どれも、まさに「粒ぞろい」で、凸凹がない。
それも、想定の範囲内と、範囲外、のギリギリのラインで落とす。勿論、めくる前にネタがわかるものが多いが、それでも、最後にストーンと落ちるのは読んでいて気持ちが良い。
一編が短いこともあり、軽い気持ちで読み始めてすぐに読み終えられる、お手軽な一冊だ。
ただし、文庫本で初収録された 「賭けられた女」はいただけない。
ほとんどの読者が騙される理由は、叙述トリックが巧みだから、ではなく、叙述が下手だから、である。優秀な叙述トリックの本を読んだことのある人ほど、この短編には納得がいかないと思う。


この『幸福な生活』の文庫巻末解説は宮藤官九郎
ここで、百田尚樹の強みを次のように説明する。

改めて百田尚樹さんは「作風」を持たない作家さんだなと思いました。著者名を隠して幾つか読み比べたら、同じ作家が書いたと気がつくだろうか。それくらいエピソードによって作風が変わります。(略)
誰が書いたか分からない。そういう場で経験を積んだ作家は強い。個性で勝負できないぶん、純粋に面白いもの、娯楽性の高い作品を書くしかない。読者を(視聴者を)楽しませることを第一に考えたら、文体なんか気にしてられない。個性はむしろ邪魔になる。だから作風を持たない。

宮藤官九郎が書くように、これは、バラエティ番組*2構成作家という匿名性の高い仕事を長年続けていたことに起因するのだろう。
このあたりは、最近、何冊かの小説を続けて読みながら、エンタメ小説って何だろう?と考えているあたりとも通じるが、自分は、やっぱり作者の「作風」や「メッセージ」を読み解いていくことが小説の面白さの大きな部分を担っていると思うので、『モンスター』や『幸福な生活』のように、読者を安全地帯に囲って、ひたすら楽しませるという小説は、若干、苦手な部分がある。
ということで、もう少し、百田尚樹の顔が出ている本を読んだ方がいいかなあ…。

カエルの楽園 (新潮文庫)

カエルの楽園 (新潮文庫)

日本国紀

日本国紀

*1:本当は『永遠の0』を読もうと思ったのですが、ベストセラー過ぎて避けてしまいました…。でも読んだ2冊は、どちらも百万部売れているようです。凄すぎる…。

*2:百田尚樹は『探偵ナイトスクープ』の構成作家