Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

今年、読書感想文を書くならこの本!~ナディ『ふるさとって呼んでもいいですか:6歳で「移民」になった私の物語』

ふるさとって呼んでもいいですか: 6歳で「移民」になった私の物語

ふるさとって呼んでもいいですか: 6歳で「移民」になった私の物語

6歳で来日し、言葉や習慣、制度の壁など数々の逆境の下でも、
周囲の援助と家族の絆に支えられ生きてきたイラン人少女の奮闘と成長。
移民社会化する日本で、異文化ルーツの子どもたちが直面するリアルを
等身大で語った貴重な手記。


星野智幸さん(作家)絶賛!!

30年間、この本の登場を待っていました!
「デカセギ」で海外から日本にやってきた人たちの子どもが、自分の言葉で
その人生を語る日を、ずっと待ち望んできました。
その言葉の、なんと新鮮で血が通っていて胸に響くこと!
語ってよいのだ、自分の言葉で自分を語ることは自分がここにいることの
証明そのものなのだ、という思いにあふれていて、誇りを感じます。
私たちの社会は今、こんな豊かさを手にしているのです!


苦手な人でも読書感想文に書きやすい本として、今年、小学高学年~中学生に、自分がオススメするとすれば、この本です。
読書というと「物語」を思い浮かべる人が多いようですが、物語文は、特に普段本を読まない人にとってはハードルが高いと言えます。
登場人物に感情移入をしたり、その人の立場になって考えてみる、ということは、読書に慣れていない人にはとても難しいことのように思えるからです。
その点、学校を題材にしたものやカルチャーギャップを題材にしたものは、感情移入しなくても「新しい発見」や、書かれていることとは異なる「自分の意見」が書きやすいのでオススメです。
また、最後にも書きますが、この本は、全編にわたって、全ての感じにふりがなが振られているため、漢字が苦手な人にも読みやすいです。

イランから見た日本

この本の場合、以下の目次のうち、3章までは、イランから来たナディの苦労話がメインです。
小学3〜4年生が読んでも、自分たちの生活が他の国からどう見えるのか、という新たな視点を得て、色んな感想を書き進めることができると思います。

  • はじめに
  • 1章 外国に行くってどういうこと?
  • 2章 想定外!な日本の暮らし
  • 3章 うれしい、楽しい、でも困った学校生活
  • 4章 日本で胸をはって暮らしたい!
  • 5章 私はイラン人? 日本人?
  • 6章 私はここにいます
  • あとがき
  • 解説 山口元一

ペルシャで見た日本の番組(おしん水戸黄門)では、皆がペルシャ語で喋っていたので、日本に行っても大丈夫と思っていたという話、乾燥地帯のイランから見ると緑の山々がジャングルに見えるという話、ちびまる子ちゃんを見て、男女が同じクラスで勉強していることに驚く話、どれもこれも、イランから来たナディさんの目を通してしか知り得なかった話でしょう。


こういった文化的なギャップの話は、(漫画になってしまいますが)『アフリカ少年が日本で育った結果』を読んでも同様に楽しんで読むことが出来ますが、この本の場合、それに加えて、4章から6章にかけて、もう少しシリアスな内容に踏み込みます。あとがきを読むと、ナディさんは、高校三年生のときに本の執筆を依頼されたあと、本にするまでに15年かかっているというので、その間に考えたことが4章から6章には詰まっていると思います。
この本を勧めた小6の娘も、「面白くて途中までは読んだ」と言っていたので、6章あたりは小学生だと読むのが難しいかもしれません。その場合は、読まなくてもいいと思います。全部読み終えないと、読書感想文を書いてはいけない、ということは全くなく、途中までで終えても、全部読んだ気になって「一番印象に残った部分は~の部分です」と書けばいいのです。

在留特別許可の話

さて、4章では高校入試の話、5章では大学生活の話も書かれますが、後半でメインに描かれるのは、在留特別許可など日本における法制度の話と、アイデンティティの話です。
もともとナディさんの一家は「ビザのない外国人」として来日し、いつ強制送還されるかという不安とともに学校生活を過ごしていたのです。そんな中、ナディさんが中学生の時に、入国管理局に名乗り出て審査を受けることで「在留特別許可」を認めてもらい「不法滞在」状態から抜け出すという方法があることを知り、それにチャレンジすることになったのです。これは一種の賭けであり、名乗り出ることで「ビザのない」状態がばれてしまうので、審査に通らなければ即刻強制送還となります。
ともに出頭したにもかかわらず強制送還になる家族も多数出る中、結果が出るまでに1年半以上も待たされた(勿論許可がおりました)という苦労話は、この物語の中だからこそ実感を持って知ることができました。現在は、審査期間中は「仮放免中」という扱いで仕事につくことができないというルールがありますが、申請を諦めさせるために、審査期間を長くしているのではないかと言う話が出ていて、考えさせられました。
また、3章まででも書かれていますが、「不法滞在」の期間は、健康保険証がないため、医療費負担が大きく、病院に行くことを避けていたそうです。
脚の痛みを放置して靭帯を損傷した経験から、在留特別許可を得ることで「長いこと夢見た健康保険」にはじめて加入できたことに大喜びしたという話も、物語を通じてでないと、実感を持って知ることが出来なかったことだと思います。

アイデンティティの話

ナディさんの一家は、在留特別許可を得たのをきっかけに、11年ぶりにイランへの里帰りを果たすことになります。 これまでは、日本を出たが最後、再入国できる保証がないために、出来なかったのです。
ここで、イランが「ふるさと」ではないと知り、落ち込むナディさんの話も印象的です。11年も日本にいたナディさんのふるまいは、既に「日本人」化していたのです。

日本では、心ないことを言われていやな気持になったとき、
(だって私はイラン人なんだもん!しかたないじゃん)
と、イラン人であることを心の支えにしていました。でも、そんな私にとって、このイランでの滞在は、思い描いていた「祖国に帰る」ということとは全然ちがったのでした。
イランに帰れば、街なかで人の視線を感じることなんてないはずと思っていたのに、イランのどこにいても人の視線を感じました。祖国に帰ったはずなのに、外国からの旅行者のような気持になりました。私が思い描いていた「祖国」とは、「イラン人」とは、いったいなんだったのでしょう。
p170

その後、大学入試での「外国人枠」は自身には当てはまらないことガッカリし、大学入学後のアルバイト探しで「外国人お断り」の洗礼を受けたりする中、イラン人でも日本人でもないという、アイデンティティの迷路に嵌り込んだ生活が続きます。
自分が「日本人」なのか「イラン人」なのかという悩みから抜け出すことが出来たのは、「ほかの視点」に出会えたからでした。
日系ブラジル人や日系アルゼンチン人の友人(顔だちは日本人)が、見た目と中身のギャップを気にしていないどころか、「自分」というひとりの人が、いくつもの要素を含んでいることを前向きに認めていることを知り、考えを改めたのです。


この本の一番最後「おわりに」で書かれたメッセージは、とても普遍的な内容なので、大幅に引用します。

何かを必要とする人が近くにいたとき、その人が「なに人であるか」と考えるよりも、「何が必要なのか」を考えるほうが、ずっとたいせつだと私は思います。生まれや育ちにとらわれず、性別、年齢、見た目、国籍など、お互いの環境をいかに多角的に想像しあえるかが、とても重要なことだと思います。困っている人がいれば、助けあえばいいのです。来日したての私たちに、日本のご近所さんたちがしてくれたように。
(略)
法律や社会のありかたは、時間をかけてだんだんと人に寄り添うかたちに変化していくものです。しかし、その変化の過程で取り残されてしまう人がいることを忘れてはいけないと強く思います。
これは、日本で育った日本人にも無関係ではありません。(略)
一度踏み外したらリカバリーのきかない社会が変われば、多くの人が生きやすくなると思います。「多様性を認める」とは、そのような社会をめざすということではないでしょうか。
「日本人らしい日本人」や「外国人らしい外国人」だけの時代はもう終わろうとしています。私たちは、見た目や国籍を超えて、同じ社会でともに生きています。

私のふるさとも、ここ日本です。

ここまでの文章を書けるナディさんですが、お母さんは漢字混じりの読み書きができません。国籍にかかわらず、様々なルーツや背景をもつ子どもたちを想定して、すべての漢字にふりがなを振った、と「はじめに」では説明がありますが、ナディさんの両親など、日本での就学経験のないナディさんの親世代への配慮もあるのでしょう。
そして、このような小さな配慮こそが、同じ社会でともに生きる、さまざまな人のバリアを外してくれる大きな支えになっていると感じます。


読書感想文を書くために、小学生がこの本を読ませたとして、一番最初は、文化のギャップに興味を持つでしょう。しかし、最後には、こういった多様な人が生活しやすい社会、というのはどういうことかに目を向けてほしいと思います。
ただ、途中にも書いたように、読書は途中までで終えても別にいいし、比較的難しい6章は読まずに読書感想文を書いても全然OKだと思います。
読書の良さというのは、(ナディさんが日系ブラジル人の人の考え方を知ることで、自己のアイデンティティの問題をクリアしたように)多様な視点を得ることにあると思います。
そこにフォーカスして読めば、どんな人でも、それぞれに違った読書感想文が書ける、そんな本なのではないでしょうか。

参考

今年の読書感想文の課題図書。小学生高学年は、この4冊だそうです。物語文、絵本、歴史、環境系ドキュメンタリーと多種多様ですね。歴史が苦手な自分は、この中なら屋久島を選ぶかな。絵本は読みやすいですが、感想文を書くのは難しそうです。

ぼくとニケ

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かべのむこうになにがある?

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マザンナの風にのせて (文研じゅべにーる)

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中学生の課題図書は以下の3冊。伊能忠敬を扱った『星の旅人』が読みやすそうで書きやすそう。原爆を題材にした『ある晴れた日に』は、戦争と言えば読書感想の定番だけれど導かれるように「戦争反対」が結論になってしまう自分に嫌気がさすので避けたいです。

星の旅人: 伊能忠敬と伝説の怪魚

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ある晴れた夏の朝

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サイド・トラック: 走るのニガテなぼくのランニング日記

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高校生も課題図書があるのか!どれも面白そうですが、映画化されている『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』が気になります。

この川のむこうに君がいる

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ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

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ファミリー編は、まだ読んでいませんが、『アフリカ少年が日本で育った結果』は、星野ルネさんの関西人気質が前面に出た、楽しい話満載の漫画です。

まんが アフリカ少年が日本で育った結果

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まんが アフリカ少年が日本で育った結果 ファミリー編

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参考(過去日記)

以前も、課題図書の面白さに気がついて、感想を書いていますが、結局、読書感想文の課題図書に選ばれている本というのは、やはり読む価値のある面白い本、ということでしょうか。
このジャンルは、もっと読んだ方がいいですね。
pocari.hatenablog.com