Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

作品の意図を理解するということ~『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』VS『アス』

9月に入って2本の映画を観た。

クエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』


映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告 8月30日(金)公開


いつもはストーリーには出来るだけ触れないでおくのがセオリーなんだけど、今回は、映画を観る前に、宇多丸タランティーノへのインタビュー(ラジオ番組の特集)を聞いていた。それが大当たり。

宇多丸)で、先ほどから言ってるそのシャロン・テートが本当にキュートに描かれている。マーゴット・ロビーさん演じるシャロンが本当にキュートで愛らしく描かれている一方で、マンソンのファミリーの若者たちっていうのはこの作品だとただただ、本当に時代の産物っていうか。浅薄な、浅はかな正義感を振り回すがゆえの愚かな存在として描かれている。
僕はここにその、要は「シャロン・テート」って検索した時に出てくるのはやっぱりこの事件のことばっかりで。彼女がどう生きたのか、どんな人だったのかっていうことではなく、「マンソンファミリーの被害者」としてしか出てこないというこの残酷さというか、この現実に対して、タランティーノさんなりに怒りを持って。「記憶するべきは加害者の方じゃないだろう?」っていう風にメッセージしてるように感じて。そこがすごく僕は胸を打たれんですけども。

クエンティン・タランティーノ監督に宇多丸がインタビュー!(吹き替え:立木文彦)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』2019.08.29


インタビューを聞いても聞かなくても、シャロン・テート事件*1のことは予習必須とされるこの映画。その予習だけだったら彼女を「被害者」と決めつけて鑑賞していたかもしれない。
しかし、宇多丸評があったからこそ「シャロン・テート」のキュートさにフォーカスを当てて観ることになり、だからこそ、ラストの展開に救われ、涙した。そうでなければ、あの、とても馬鹿馬鹿しく残酷な展開に、驚きこそすれ、幸せな気持ちでの泣き笑いは出来なかったかもしれない。


ブラピとディカプリオの共演に、自分にとって「映画を観る」というのはまさにこんな感じ、と感じたのも高評価の理由だ。
今年前半で最も面白かった『スパイダーマン:スパイダーバース』は、映像表現の新しさが魅力で、『ワンスアポンアタイムインアメリカ』のような古臭さはない。そもそもアニメだ。それ以外にも、面白かった映画として、『主戦場』は、インタビューで構成されるドキュメンタリー、『来る』はジャパニーズホラー、と、メジャー映画のど真ん中を外した映画を自分は好む。
それでも、自分が大学生のときに観た映画は、やはりブラピやディカプリオなど、ハンサムなハリウッドスターが活躍する映画で、その「ど真ん中」さには特別な気持ちを持つ。
今回の映画で言えば、ブラピが女の子を助手席に乗せて運転したり、喧嘩を(ブルースリーと笑)したり、ディカプリオが銃を撃ったり、そういうシーンがあるだけでドキドキする。なんか「映画を観ている」という感じがする。そういえば、映画を観る、といえば、ドライブインシアターの場面があったが、自分はドライブインシアターがどんな場所なのかを映像で見たのは初めてかもしれない。


また、初共演の二人はそれぞれベクトルの異なるカッコよさを持っていた。
ブラッド・ピット(クリフ)は、屋根の上でテレビアンテナを直す時に見せるムキムキの上半身。そしてブルース・リーにも勝てる喧嘩の強さ、かつての妻との悪い噂から感じられるミステリアスな感じ、ヒッピーの可愛い少女に見せる愛嬌。宇多丸評でも「ブラピ史上最高級のカッコ良さ」と言っていたがそれも頷ける。
ディカプリオ(リック・ダルトン)はブラピとは違って将来に悲観的で、何と言っても台詞が覚えられなくて癇癪を起こすシーンが最高過ぎる。そして、イタリアで儲けて「太って帰国」という場面で本当に体格が一回り大きくなっているという、さすがの俳優魂にも驚いた。


最初に戻るが、過剰で無意味でありながら、幸せな空気に包まれて終わるこの映画。その核となる作品意図を、映画を観る前に知っていたのは本当に良かったと思う。映画を観て、解釈に悩んだりするのも楽しいが、その意図をあらかじめ知っていることで、安心して鑑賞することが出来たし、清々しい気持ちで見終えることができた。

ジョーダン・ピール監督『アス』


『アス』予告編90秒

対する『アス』。こちらは、情報を基本的には入れずに観に行ったが、本当に面白い映画だった。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』よりも印象に残るシーンは多いし、主人公のアデレード(レッド)は特にだが、俳優陣は特徴的で、ホラー映画としても、最後まで気の抜けない怖さがあった。


また、『ワンス・アポン~』もタランティーノ映画らしく、音楽が効果的に使われていたが、『アス』も、スマートスピーカーへの「Call the Police!(警察を呼んで)」という呼びかけに、N.W.A.の「Fuck Tha Police」が流れるシーンが印象的だった。同じく、怖いシーンに流れる「グッドヴァイヴレーション」は、その後もしばらく耳に残った。
「彼ら」の赤い服と植木ばさみのコスチュームも印象的だし、やはり、全く同じ顔が二人いるというのは絵的にも怖い。海辺の遊園地も、砂浜から入るミラーハウスも、日本にはあまりないからこそ印象に残った。


しかし、作品に込められた意図がわかりにくい。いや、わかるのだけれど、直感的に伝わってこない。監督のインタビューなどを読んで、改めて考えると…

AIスピーカーが象徴するような便利でリッチな都市生活は、誰かの不幸を犠牲にして成り立っている。
自分と同じ背格好、同じ顔をした人間が地球の裏側で、別の国の幸福な生活のために貧困を強いられているかもしれない。

この映画の中で登場するドッペルゲンガーたちが示しているのはそういうことだろうと思う。
しかし、ドッペルゲンガー側の殺戮が怖すぎるのと、彼らがこだわる(1986年に実際に行われた)Hands Across Americaというアクション*2の象徴するものが(特に米国以外の)視聴者にはわかりにくいことから、意図は伝わらない。言い換えると、映画を観ているときの感情の動きと、作品解釈がリンクしない。
前作『ゲットアウト』は、そこがリンクしていた。映画を観て感じた恐怖は、そのまま社会的な問題意識に直結していた。
映画ではないが、同じく差別の問題を扱った『デトロイトビカムヒューマン』というゲームも、ゲームをプレイしながら、人間→アンドロイドへの差別に対するやるせなさを直接感じるゲームになっていた。
またまた話は飛ぶが、高校演劇全国大会2019でグランプリを取った逗子開成高校『ケチャップオブザデッド』は、マイノリティーなどの弱者のメタファーとしてゾンビを扱ったことになっているが、自分はNHKで放送された演劇を大変面白く鑑賞したが、その「作品意図」についてはほとんど考えることは無かった。『ケチャップオブザデッド』は、そういう「弱者としてのゾンビ」というところが作品として評価されたという話を聞くと、もしかしたら、自分は、思いやりを感じる良心回路的な部分が発達していないのかもしれない、という気持ちにもなる。

ただ、監督インタビューを読み直すと、「集団としてのドッペルゲンガー」というのは確かに面白い問題提起で、掘り甲斐がある作品であることは確かだ。

集団としてのドッペルゲンガーを考えるのは、社会を内側から省みることだと思う。それは今、必要なことだ。ドッペルゲンガーは通常、人間のダークサイドや、暗い秘密について探求したものだと思う。それを集団に当てはめた時、『どんな集団だろう?』『どんなダークサイドだろう?』と考え始める。私たちは互いを必要とするどんな罪をともに犯したのだろうか?と。興味深い問いだ」
アフリカ系監督が『アス』で炸裂させた、「私たち」のダークサイドの怖さ:朝日新聞GLOBE+

下半期映画ランキング

さて、今年は映画をたくさん観ているので、観る度に脳内ランキングを更新している。ここまで『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と『アス』の感想を書いてきたが、作品意図が伝わる伝わらないかと、映画の評価は別物であるようにも思える。ただ、やはり『アス』は、自分にとって思い入れの強い『ゲットアウト』を期待して映画館に行ったことを考えると若干評価を下げてしまう。ということで、今年下半期(7月以降)に観た映画のランキングはこの通り。あと5本くらい観られたら幸せだなあ。

  1. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
  2. 工作 黒金星と呼ばれた男
  3. アス
  4. 天気の子
  5. 新聞記者


上半期はこちら。『スパイダーバース』が圧倒的に面白かった。

  1. スパイダーマン:スパイダーバース
  2. 主戦場
  3. 来る
  4. コードギアス 復活のルルーシュ
  5. ギルティ
  6. ゴジラ KOM(寝てた、ゴメン)
  7. 名探偵ピカチュウ
  8. 劇場版コナン紺青の拳
  9. バースデーワンダーランド


そういえば、今回観た2作はサントラが聞きたくなる映画でしたね。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド オリジナル・サウンドトラック

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド オリジナル・サウンドトラック

アス 【帯&解説付輸入盤国内仕様】

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*1:ちなみに、自分は、シャロン・テートの名前は、ビーチボーイズ関連で知っていたが、事件の詳細については今回映画前に調べるまで明確に認識していなかった。

*2:1986年8月25日に開催されたチャリティーイベント。人々が15分間にわたって手をつなぎ、アメリカ全土を横断する“人間の鎖”を作った。参加者の寄付金などがアフリカに寄付された。