Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

大量廃棄、大量消費を支える「私たち」~仲村和代、藤田さつき『大量廃棄社会』

大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実 (光文社新書)

大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実 (光文社新書)


この本では、主に日本の問題として、アパレル業界とコンビニ・食品業界における大量廃棄について、いくつもの事例を挙げながら説明される。例えば、日本で供給されている服の4枚に1枚(1年間に10億枚)は、新品のままで捨てられているという。また、日本で1年間に発生する食品ロスは約646万トン、一人あたりお茶碗一杯分のご飯を毎日捨てている計算になるという。そんな中で、この本は、消費者が普段、身に着けたり、食べているものが、どのように誰によって作られているのか、廃棄されているかに迫り、その向こうに広がる遠い世界を、身近に感じてもらおうとしている。(解説、国谷裕子さんの言葉の引用)

国谷さんが解説に書かれている通り、「17の目標の達成によってSDGsが目指す未来に大量廃棄社会は存在しえない」。そして、大量廃棄社会の問題は「私たち」の生活に密接した「消費」のあり方で、その方向性を変えることが出来る、という意味で常に意識し続ける必要がある問題なのだろう。


本の中で、強く印象に残った部分が2か所ある。
ちょうど、映画を観る直前にこの本を読んでいたこともあり、『Us』が意図していると思われる「日々の生活は、知らない誰かの犠牲のもとで成立している」ということを強く感じた部分だ。

ひとつは、「はじめに」でも描かれる2013年4月にバングラデシュで起きた、8階建てのビル「ラナプラザ」の崩壊事故。
「世界の縫製工場」といわれるバングラデシュの縫製業の労働環境は劣悪で、ラナプラザは、違法に建て増しされた危険な建造物だった。起こるべくして起こった事故では、その工場の中で働く人が千人以上犠牲になったという。
利用したことがある、という程度ではなく、むしろ頻繁に利用するユニクロなどの商品の価格の安さは、こうした国の工場なしには成り立たないことを考えると、自分の生活に直接関係する出来事だ。


もうひとつは、驚いたことに日本国内、しかもこちらも頻繁に訪れる岐阜の話で、1993年に始まった、悪名高き「技能実習制度」に関する話。
もともとこの制度は、まさに岐阜のアパレル縫製業者のための救済措置で作られた制度だといわれている(p88)というのだ。つまり、アパレルが生産拠点を海外に移していく中、家族経営のような国内の零細業者が存続できるように「研修」という名目で、安く外国人の労働力を確保できる制度として、始まった。そして、2017年に入国管理局が「不正行為」(賃金不払い等)を認定した183の業者のうち、繊維産業が94を占め、そのほとんどが縫製業者だったという。

こういった事実を知ったからといって、直ちに自分が脱ユニクロを宣言できるか、といえば、それは難しい。ただ、こういった問題を解決しようと、色々な人が色々な取り組みをしていていることを知り、少しずつでも、自分の「消費」を見直していくことで、「自分ごと」として大量廃棄社会を終わりにしていく必要がある。


例えば、紹介されている「10YC」では、服の製造工程や原価を「透明」にしていくような取り組みを行っているという。
HPを見てみると、着古した服の「カラーリフォーム」(染め替え)などのサービスもあり、考え方としては合理的だ。ちょうど、これを書いている9/23も現地イベントがあったようだが、こういったところに行って実際に商品を見てみたい。
10yc.jp


また、2015年にドイツで実施された「Tシャツの自動販売機」のワークショップの話も興味を惹かれた。

Fashion Revolutionは、Tシャツを購入したい人々に自分の持っている洋服がどのような労働条件で作られていたかについて考えてもらうきっかけを作ろうと、購入前にまず劣悪な環境を説明した動画を再生してから「購入」するか「寄付」するかの2択を迫る自動販売機を設置した。その結果、ほとんどの人はTシャツを購入せずに劣悪な労働環境を改善するための寄付をした。
【ドイツ】2ドルでTシャツを買える自動販売機。誰も買わない理由とは? | Sustainable Japan

その様子を映した動画がこちらで、泣きだす人がいるのも分かる。


The 2 Euro T-Shirt - A Social Experiment



突如、映画の話に戻るが、『アス』では、同じ米国(US)人であっても、そういった劣悪な労働環境を強いられている人がいる、ということを暗に示していたが、彼らを、「私たち」と同じ顔をした「ドッペルゲンガー」として登場させているところが上手い。彼らは、他人ではなく、「私たち」であったかもしれないのだ。Tシャツ1枚を買う、という、小さな額の消費であっても、製造過程にいる「私たち」に目を向けなければいけない。
普段だったら、本を読んで知識を蓄えただけで終わっていたかもしれませんが、映画『アス』を観たことで、より身近に、差し迫った問題として考えさせられた読書となりました。
SDGsに関する本は、定期的にしつこく読んで自分を律していきたいと思います。

pocari.hatenablog.com