Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

久しぶりに宮部みゆき読んだと思ったら2年前に同じ本を…~宮部みゆき『本所深川ふしぎ草紙』

本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)

本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)


つい先日、クリストファー・ノーラン監督『メメント』という、主人公の記憶が10分間しか持たないという特殊な映画を観た直後に、映画の内容を思い出せない、という悪夢的な出来事があり、改めて自分の記憶力に自信を失っていたのですが、今回もやらかしてしまいました。
未読と思っていた『本所深川ふしぎ草紙』ですが、2年前にバッチリ読んでました。

pocari.hatenablog.com


今回、七不思議に合わせて収録されている7話を読みながら、既視感を覚えることも多く、怪しいと思いながら読了したのですが、まさか感想まで書いているとは…。
ただ、感想を読むと、人情に特化した時代物ミステリという読み慣れないジャンルのため、2年前にも、読んだ直後(2週間後)でも内容を忘れていたようで、そう考えれば2年あれば忘れるだろうと開き直っている次第です。(笑)


ということで、今回は2年前に触れていなかった文庫解説について書くことにします。
この本の出版は平成3年発表のものですが、文庫解説は、平成7年に、池上冬樹によって書かれています。
宮部みゆきは、今では、日本で最も読まれている小説家数人の中に確実に入るであろう著名作家ですが、発表当時はそこまでではなく、文庫解説が書かれる平成7年頃には、ある程度、その地位が確立してきた時期であろうことが、解説を読むとわかります。


自分自身、最近こそ宮部みゆきをほとんど読んでいませんが、解説の書かれた平成7年頃はよく読んでいたことを思い出しました。『魔術はささやく』『パーフェクト・ブルー』『レベル7』『火車』『龍は眠る』など、初期作はほとんど読んでいます。(例によって全く内容を憶えていませんが)


池上冬樹は、宮部みゆきの魅力について、本人の弁も引用して次のように書いています。

作者はキングの長所として、“映画的な描写力”と”ものすごいイメージの喚起力のある文章”をあげているが、これはそのまま宮部みゆきの魅力といえる。イメージの換気力、またはひとつの場面に集約させてしまうシンボライズの巧みさが宮部作品にあるからである。

確かに、映画的な描写力、イメージの喚起力というのは分かる気がします。
時代小説が苦手な自分でも、本所深川の江戸の街をイメージしながら最後まで読み進めることが出来たからです。


また、そのあとのところで、池上は次のようにも述べています。

考えてみれば、宮部みゆきの小説が多くの読者をつかんでいるのは、もちろん物語の面白さもあるだろうが、いちばんの要因は、読者の胸にストレートに届く、この人物たちの思いではないのか。人物たちの真摯な思い。悪いこと、うまくいかないことがあっても、真面目に生きていけばきっと望みが叶うのだという思い。分かりあえないかもしれないが、でもいつかは気持ちの通じ合うことがあるのではないかという熱い思い。そんなさまざまな思いが小説の核心にある。

勿論、常にその思いが、望みが叶うわけではなく、今回の7編の中にも、暗い終わり方をする作品もあります。
しかし、それでも真っ直ぐな心を持っている登場人物たちに、読者が鼓舞されるのでしょう。
ここら辺は、あくまでリアリティを追求したり、社会への問題提起を試みるような作品とは大きく異なり、散りばめる噓も多くなっていくのかもしれません。


なお、解説では、この本の裏話として次のようなことが明かされています。

この小説のモチーフは、作者が贔屓にしている錦糸町駅前の人形焼きの店「山田屋」の包み紙にある。

包み紙に描かれた七不思議の絵に触発されて、七つの短編を書き上げたのだと聞くと、これは錦糸町「山田屋」に行かねば、という気持ちになってきます。

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ところで、第一話「片葉の芦」に出てくるヒロインお美津の父親である藤兵衛の話が、まさに現代日本コンビニエンスストアやファミレスの食品ロスの問題を地で行っていて面白く読みました。つい先日、読んだばかりの『大量廃棄社会』が思い出されます。

「おやじさんも、昔、近江屋が今のように名を売るきっかけになった出来事を覚えていなさるでしょう?そら、大川に、毎晩飯を捨てていたことです。」
(略)近江屋が江戸一の店として名を高めたのは、主の藤兵衛が始めたこの習慣のためなのだった。
近江屋の藤兵衛寿司は、宵越しの飯は使わない。それが証拠に、毎夜店をしまう時刻には、大川に、その日残った酢飯を全部しててしまう。

この習慣をお美津が嫌っていたことから父娘の確執が生まれたという話になるのですが、(実話なのかどうかは分かりませんが)「もったいない」とは遠い日本の文化もあったのでしょう。


印象に残ったのは、最終話にもかかわらず「消えずの行灯」を、優しい物語ではなく、怖い夫婦関係の物語として描いたことで、こういうところは小説として上手いなあと思わされました。時代物ということもあるのかもしれませんが、全体的に、ちょっと馬鹿だけど憎めない登場人物が多く、落語を思い起こさせました。
解説では、宮部みゆきは20歳まで本を読まなかったが、子どもの頃、寝る前に父親に落語を聞かせてもらったという話がありましたが、納得です。


ちなみに、つい先日、ライムスター宇多丸のラジオ番組『マイゲーム・マイライフ』に宮部みゆきが登場して、ゲームを30過ぎから始めてどんどん嵌って行ったという話をされていましたが、こちらも面白かったです。
プレイしないゲームの攻略本を読むのも好きという話の流れで紹介されたベニー松山さんの本は、何かしら読んでみたいと思います。

風よ。龍に届いているか (幻想迷宮ノベル)

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隣り合わせの灰と青春 (幻想迷宮ノベル)

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ということで、『本所深川ふしぎ草紙』の話はあまり書きませんでしたが、次こそは(何度かチャレンジして他の本に押されて読み終えることのできなかった)『ぼんくら』にトライしたいと思います。

ぼんくら(上) (講談社文庫)

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ぼんくら(下) (講談社文庫)

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