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好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

読みやすいワンシチュエーションミステリー短編集~青崎有吾『早朝始発の殺風景』

早朝始発の殺風景

早朝始発の殺風景

青春は気まずさでできた密室だ——。
今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。
始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧車のゴンドラの中で。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて、少しずつ変わってゆく——。
ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイム進行でまっすぐあなたにお届けする、五つの“青春密室劇”。書き下ろしエピローグ付き。


最近ミステリづいている。
青崎有吾にどのような流れで辿り着いたのか忘れてしまったが、決め手は、講談社タイガで書いている作家だということかもしれない。
とにかく自分は「読みやすいミステリ」を求めていた。

そうだった。
思い出した。
昨年流行った映画『カメラを止めるな!』の関連で、ワンシチュエーションものの映画や小説の特集がラジオか何かであって、その際に紹介された本だったはず。
短編集ということもあり、自分が読みたかった「読みやすいミステリ」そのままの作品だ。


ワンシチュエーションというと、聞きなれないが、要は「その時その場」で事件が解決する。
この短編集で言えば、基本的には「会話劇」の形式を取り、2~3人で話をしている間にふと湧いた疑問が、その会話が終わるまでに解決するような、ベリーショートの「日常の謎」作品集になっている。
舞台となるのは、早朝列車、ファミレス、観覧車、自然公園のレエストハウス、友人宅…。つまりすべては「密室劇」でもある。

「早朝始発の殺風景」
早朝始発の列車でなぜか出会った同級生(あまり仲はよくない)の思惑はどこにある——?
男女の高校生がガラガラの車内で探り合いの会話を交わす。

「メロンソーダ・ファクトリー」
女子高生三人はいつものファミレスにいた。いつもの放課後、いつものメロンソーダ
ただひとつだけいつも通りでないのは、詩子が珍しく真田の意見に反対したこと。

「夢の国には観覧車がない」
高校生活の集大成、引退記念でやってきた幕張ソレイユランド。気になる後輩もいっしょだ。なのに、なぜ、男二人で観覧車に乗っているんだろう——。

捨て猫と兄妹喧嘩」
半年ぶりに会ったというのに、兄貴の挨拶は軽かった。いかにも社交辞令って感じのやりとり。でも、違う。相談したいのは、こんなことじゃないんだ。

「三月四日、午後二時半の密室」
煤木戸さんは、よりによって今日という日に学校を欠席した。
そうでもなければ、いくらクラス委員だとしても家にまでお邪魔しなかっただろう。
密室の中のなれない会話は思わぬ方にころがっていき——。

「エピローグ」
登場人物総出演。読んでのお楽しみ。
早朝始発の殺風景|青崎有吾|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー


この中でも一番面白かったのは、恋愛ものの「夢の国には観覧車がない」。
ディズニーランドが見える観覧車ということで、ソレイユランドは葛西臨海公園をモチーフにしているのだけど、なぜ高校のフォークランド部の追い出し企画でディズニーランドではなく、その隣を選んだのか、についての恋愛絡みのエピソードが高校生っぽくて良い。
なお、男二人で観覧車ということで、BL的な盛り上がりを期待する人もいるかもしれないが、それはお楽しみ。


正直に言えば、この本で一番驚いたのは、(冒頭3ページ目で明かされる)表題作「早朝始発の殺風景」の「殺風景」がヒロインの名字だったこと(!)。
そして、そんな殺風景が心の中では、登場人物たちの中で最も昏い炎を燃やしていること。
とはいえ、全体を通して青春青春していて良かった。


先日読んだ『ジェリーフィッシュは凍らない』は、鮎川哲也賞受賞作だったが、青崎有吾も『体育館の殺人』で鮎川賞を受賞してデビューということで、本格ミステリーも書ける人、芸達者な人なのだろう。*1
本格っぽいのとライトノベルっぽいのと本格ミステリと両方読んでみたい。

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

*1:ちなみに、ジェリーフィッシュの市川憂人は東大の文芸サークル「新月お茶の会」出身。青崎有吾は明大ミステリ研出身。やはりミステリはミステリ研強し…という印象