Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

全く他人事に思えない韓国映画~『国家が破産する日』


『国家が破産する日』予告編


観終えたあとは、溜息が出てしまいました。1997年の韓国の通貨危機を描いた映画ですが、終着点が12/3のIMFとの覚書締結で、ちょうど映画を観たのと同じ日付(11/20)の場面も登場するので、季節的にはまさに地続きです。それだけでなく、政府がひたすらに資料の開示を拒み、経済指標をいじってまで経済の好調をアピールし続ける現代日本*1では、とても他人事として見られない怖さがありました。映画が終わっても映画の世界から抜け出せない感じです。
「選挙を控えたこの時期に、国民に破産の可能性なんて言えない」等、作中の官僚側の人物の台詞は、霞ヶ関で何度も交わされているように思えました。


その後、改めて公式HPを観直してみると、ストーリーのあれこれよりも「キャラ立ち」が強い映画でした。HPから引用します。

韓国銀行の通貨政策チーム長ハン・シヒョンは、政府が楽観的な見通しを語る中、国家破産の危機を予測し、対策を考える人物だ。保守的な官僚社会で女性への偏見と闘いながら、強い信念と専門知識で危機に対応する彼女は、国民に現状を知らせるべきだと主張する。中小企業や庶民の側に立つ彼女の姿は、危機のとき本当に必要な人は誰なのかを考えさせる。
かたや、危機に乗じて経済構造改革を主張する財政局次官のパク・デヨンは、エリート主義的思考でハン・シヒョンと事ごとに対立。またIMF専務理事は、韓国政府に過酷な支援条件を提示して一切の譲歩を拒否し、圧倒的な緊張感をもたらす。
金融コンサルタントのユン・ジョンハクは、世間の危機を自分のチャンスと見る。勤務先に辞表を出し、顧客を集めてギャンブルのような投資に乗り出した彼は上昇気流に乗るが、自分の予想を一寸も外れない政府を苦々しくも思う。
そして政府の発表を素直に信じたばかりに苦境に陥るガプスは、当時の平凡な庶民を代表している。
映画『国家が破産する日』オフィシャルサイト

中でも財政局次官のパク・デヨン。
出た直後から「感じ悪い」オーラが漂う人物で、物言いも考え方も官僚的、説明に「保守的な官僚社会で女性への偏見と闘いながら」とあるように、彼からの主人公へのセクハラ含む言動には本当に苛々します。
映画のラストでは、20年後、つまり2017年の韓国が描かれますが、普通の映画なら落ちぶれているはずの悪役にあたる彼は銀行のCEOとになっており(彼の腰巾着と一緒に)成功者として描かれます。このあたりもリアルで本当に嫌な感じです。竹中平蔵的なポジションでしょうか。


また、どこまでがフィクションなのか分かりませんが、IMFとの覚書締結ギリギリになって、主人公のハン・シヒョンが、IMFの背後にアメリカが手を引いていることに気がつき、これを機会にアメリカが韓国市場に手を広げようとしていることを追及するシーンが印象的です。
ハンの前に立ちふさがる大ボス=IMF理事のヴァン・サン・カッセルが、また別の「嫌な感じ」を出していました。


物語は韓国政府とIMFとの協議の舞台裏以外に2つ、合計3つのストーリーラインで作られます。
まず、ピンチをチャンスに変えようと積極的に行動する金融コンサルタントのユン・ジョンハクの話。もう少し深みのある話に繋がることも期待しましたが、危機に乗じて儲ける人もいた、というエピソードにとどまっていた感じです。でもユン・ジョンハクを演じるユ・アインの笑顔が素敵だったので良しとします。
そして、町工場のガプスの話は、本当に辛かったです。結局「国に騙される」かたちになった彼は家族を置いて飛び降り自殺を考えるシーンもあり、本当にドキドキしました。しかし、20年後、彼が生き残って工場を続けていたのには救われたし、映画全体の前向きな印象を強めました。

そう、悪が裁かれずにのさばる結末という、勧善懲悪とはかけ離れた内容にもかかわらず、20年後の3人が、1997年と変わらない考え方で生きているのを見ることで、観て言いる側も「やってやろう」という気持ちになれる映画になっていたと思います。


事実を踏まえた全体のまとめについては、ニューズウィーク大場正明さんの映画評論が、非常にまとまっていてタメになりましたが、この記事の中では最後にハンとユンの言葉が引用されています。

ユン「政府はIMFを選ぶ。連中は市場原理主義者です。危機を脱する際も、大企業や財閥が何とか生き残れる方法を選ぶでしょう。金融支援を要請して、それを口実に大々的に構造調整を進める。危機を機会として利用し、富める者を生かす改革を試みるはずです」
ハン「貧しい者はさらに貧しく富める者はさらに富む。解雇が容易になり非正規雇用が増え、失業者が増える。それがIMFのつくる世の中です」
韓国通貨危機の裏側を赤裸々に暴く 『国家が破産する日』 | 大場正明 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

つまり、政府は大企業を守ろうとし、IMFも貧富の差を拡大する政策を取ろうとする中で、国民は、これらのプレーヤーの基本的な姿勢を念頭に置いて慎重に選択していくべきということでしょう。20年前の出来事とはいえ、韓国政府だけでなく、IMFも米国も敵に回す内容となっており、やっぱり韓国映画は凄いなと思わざるを得ませんでした。

ちょうど、国会では「桜を見る会」のゴタゴタの中で、日米貿易協定が衆議院を通過していますが、自動車関税についての交渉内容は不明で、韓国政府がIMFとの覚書締結について、ギリギリまで伏せていたのと重なります。韓国の歴史について学ぼうという気持ちで映画を観に行きましたが、改めて日本の問題点を意識せざるを得ない映画でした。日本映画も『新聞記者』の「その先」のレベルに行っているものが観たいです。



なお、関連作品する韓国映画として、今年観た『工作』と合わせてセットで語られることの多い以下の映画も早く観たいです。



また、これを含めた韓国の歴史については『知りたくなる韓国』が読みやすかったので復習しておきたいですが、併せて、大場正明さんの記事でも紹介されていたIMFのノンフィクションも読んでみたいですね。

知りたくなる韓国

知りたくなる韓国

IMF 上

IMF 上

IMF〈下〉―世界経済最高司令部20ヵ月の苦闘

IMF〈下〉―世界経済最高司令部20ヵ月の苦闘

下半期の映画ランキング

今年下半期(7月以降)に観たのは8本となりました。
ランキングを付けるとしたら以下の通り。(上3本は順位が付けがたい感じです)
あと2本くらい観られたら幸せだなあ。

  1. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
  2. 工作 黒金星と呼ばれた男
  3. ボーダー二つの世界
  4. 国家が破産する日
  5. アス
  6. ジョーカー
  7. 天気の子
  8. 新聞記者

*1:明石順平さんの『国家の統計破壊』を少し前に読んだので怖いです