Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

映画のメッセージに、そして、撫子ちゃんの告白11連発にやられました~『殺さない彼と死なない彼女』

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(↑これは良い予告編!長回しの楽しさもあり、変なネタバレもなし)


これは大好きな作品となりました。
元々、『国家が破産する日』を見るタイミングで、映画comでの高評価に釣られ、『ひとよ』と合わせて候補に挙がったのがこの作品。
その際に、桜井日奈子間宮祥太朗が主演+漫画原作だが泣ける、という情報を仕入れ、それ以上の情報は入れないようにして劇場に観に行きました。

長回し

色々な部分で撮影が特殊で、無意味に引き伸ばす長回しや、逆行気味の太陽の映し方、焦点の移動など、何となく素人っぽくもあるのですが、映画の内容にはとても合っていたように思います。
特に、会話シーンの長回しは効果的で、八千代君と撫子ちゃん、きゃぴ子と地味子、そして、鹿野と小坂、2人の会話(とモノローグ)は、長回しであることで、とても緊張感を保ちながら伝わってくるものとなりました。
長回しで好きなのは、鹿野が校門に向かって走り去り(オタク走り)、画面上では小さくなってから校門を跨いで越えていくまでが映される場面。鹿野の可愛さが詰まっています。

口調

特に撫子ちゃんに顕著ですが、「〜だわ」等の非現実的な「女言葉」の多用、また、小坂や鹿野が連発する「死ね」「殺す」は、いかにも漫画っぽくて、作品によっては白けてしまうようなセリフ回しですが、この作品には合っていたように思います。(同じように、身振りやせりふ回しが漫画過ぎるのにわざとらしさが気にならない麻雀映画『咲-Saki-』を思い出しました。)
特に「殺すぞ」の連発は、パンフレットの解説で、斉藤孝(なぜこの人選?)が語っている通りです。

でも決して語彙が少ないわけでも、愛情が枯渇しているわけでもない。むしろ彼は語彙が豊富だし(略)。照れくささもあり、うまく距離感がつかめず、むしろ距離の近さの親愛の情としての「殺すぞ」。クラスの女子に「消えろ」と言う際のそれとはまったく意味が異なることからも、言葉は関係性の中で初めて意味を持つものだ、ということがわかります。

斉藤先生の言うとおりで、後半になればなるほど、鹿野と小坂の「殺すぞ」「死ね」「死にたい」は愛情表現であることが観ている側にも伝わってきて、むしろその台詞を聞いて2人が愛おしくなるほどです。

3組のふたりの話とその繋ぎ

八千代君と撫子ちゃん、きゃぴ子と地味子、そして、鹿野と小坂、 3組のふたりの話は、ほぼ別個のものとして話は進み、最後に予想外の形で繋がる、というのが、この映画のひとつの仕掛けになっています。しかし、その3話が並行して進む構造自体は、最後までほとんど意識せずに見進めることができたのも良かったです。
話のバランスも良かったし、同じ学校での出来事ということで、連続性があるのでしょう。
デートの帰り道、田んぼのあぜ道で、撫子ちゃんが上から目線で八千代君を説得するシーンは、かなり突然だったので違和感がありましたが、そこからの「未来の話」には、長回しの雰囲気もあり、泣いてしまいました。
そして、この「未来の話」こそが映画全体のメッセージであることが、終盤にわかってきます。
「未来の話」をする小坂→鹿野、そして、鹿野→撫子の場面、これらは、いわば「ネタ晴らし」の機能を果たすのですが、そのこと以上に、そのメッセージに感動しました。
そのことこそが、この映画の一番すごいところだと思います。(その後、原作漫画も読みましたが、基本的には原作通りの映画でありながら、付け足し部分に非常に大きな意味を持たせていることがわかりました。)


この映画のメッセージは、自分が誰かを救おうとした言葉が、結果的に他の誰かを、もっと多くの人を救うことになるかもしれない、ということなのだと思います。
死んでしまった人であっても、その残した「思い」は、色々な人の励みになる。だからこそ「死んでおしまい」とするのではなく、死ぬギリギリまで人と関わり合うことが大切なのでしょう、
このあたりは、オリジナル・ラブの「bless You!」という曲で歌われていることとも繋がって来ます。

俳優陣

映画を観に行った当初の目的のかなりの部分が桜井日奈子(鹿野)だったのですが、そこも期待通りでした。 
そう、この映画のすごいところは、桜井日奈子は、本当に最後の最後まで、「ブス」なところ全開で、仏頂面で変な喋り方をするオタクに徹しているところです。そこにわざとらしさ(あざとさ)を感じずに観ることができたのは、彼女の演技が上手いのか、映画としての演出の巧さなのかは分かりません。
むしろ、ラストシーンで登場する大学生になった鹿野は、CMに出ている桜井日奈子過ぎて、可愛さの代わりに、鹿野としての魅力を失っていると思いました。


いや、それ以上にその他の3人の女優が素晴らしかったです。ルックはあまり似ていませんが、同じ高校生活を追った作品として『桐島、部活やめるってよ』を思い出しました。
橋本愛みたいな地味子(恒松祐里
山本美月みたいなきゃぴ子(堀田真由)
松岡茉優みたいな撫子(箭内夢菜
特に、撫子ちゃんは、告白11連発を観てしまったので、好きにならずにいられない存在です。1月からの『ゆるキャン』のドラマでは犬山あおい役で出演するようなので、楽しみに待つことにします。


間宮祥太朗は、初めて見たのですが、この人も存在感がすごいです。
直後に『帝一の國』を観たのですが、こちらも金髪ロン毛の漫画過ぎるキャラクター、氷室ローランド役を、実在感を持って演じていました。
ジョジョの奇妙な冒険』の映画次作がもしあれば、出てほしい存在です。(あと、『帝一の國』は、ふんどし太鼓シーンがすごかった笑)


ゆうたろうは、普通の男子高校生役として、そして撫子ちゃんが恋する相手として、はまっていました。
ゆうたろうと聞くと、これまで石原裕次郎のモノマネの人を思い出してしまいますが、自分の記憶のメモリーを更新しました。

パンフレット

最後にですが、パンフレットがとても良かったです。
糸電話、桜、蜂をデザインした表紙の印象が最高であるのに加えて、伏線回収を図に整理してあったりして、映画を思い返すにも役に立ちます。
そして、撫子ちゃんをはじめとする出演者インタビューもあり、ページをめくるのが楽しいです。


12月はこれが最後かな。あと一本くらい観たいですが…。

殺さない彼と死なない彼女 (KITORA)

殺さない彼と死なない彼女 (KITORA)

  • 作者:世紀末
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/03/23
  • メディア: 単行本