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逆「家族を想うとき」~映画『葛城事件』

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(この文章はアニメ『バビロン』、映画『葛城事件』、小説『きみはいい子』をセットで語るシリーズ第2回です)
嫌な気持ちになる映画なんだろうと思って先延ばしにしていたが、好奇心が勝り、ついに『葛城事件』を観た。
父親を中心とした家族4人と、そのマイホーム(葛城家)を追いかけた物語だが、家族4人が辛い状況でもお互いが助け合う『家族を想うとき』の対極にあるような映画だった。
ラストで「え!ここで終わる!?」と感じたことも両作品は同じ。まさに、『葛城事件』は『逆・家族を想うとき』と言えるかもしれない。


家族が崩壊してしまう原因の大半は、理不尽な父親・三浦友和にあると言えるのだが、彼は反省しない。事件を起こしてしまう次男・稔も反省しない。*1
しかし、彼のような存在を、これまで生きてきて何回も見たことがあったし、自分の心の中の片隅に、葛城・父はいる。また、事なかれ主義が過ぎて、夫に好き放題させてしまった妻役の南果歩、彼女もいる。そして勿論、長男でサラリーマンの保は、立場だけでなく、大切なことを先延ばししてしまう悪い癖も含めて自分に似ているかもしれない。

一方、無差別殺人を起こした次男・稔は、葛城・父以上に、「絶対に関わりたくないタイプ」の人間で、さらに、死刑廃止の立場から稔と結婚した田中麗奈は、メインキャラクターの中では「話ができそうなタイプ」でありながら、やはり共感できそうにない。

誰が画面に映っても、緊張感が持続する、この『葛城事件』は、確かに後味が悪いが、「見て損した」という感想を持つような映画ではない。
これは、「考えさせる映画」になっていたからではないかと思う。これは、アニメ『バビロン』と大きく違うところだと感じた。


アニメ『バビロン』が「自殺法」をテーマとしたように、『葛城事件』はメインテーマではないものの「死刑」を題材として取り上げている。
しかし、『バビロン』は「考えさせない」作品で、『葛城事件』は「考えさせる」作品になっていたと思う。
観る側に「考えさせる」ためには、『バビロン』の大統領のように、信頼を置けそうな人物が登場してはならない。視聴者は、大統領の言葉に耳を傾けることに必死で、自分の頭で考えなくなる。もちろん、言葉で結論めいたことを言ってはならない。「言葉」は思考を停止させる。


『葛城事件』の良かった点は、共感できない人間、しかしどこにでもいそうなタイプの人間が、死刑という大きな問題について語ることで、視聴者の「思考」が自然と促されるところだろう。
少なくとも「死刑囚」という言葉を聞いて、葛城稔の顔と言葉を思い出す。(同様に、『イノセント・デイズ』も思い出すが…。)
無関係と思っていても、裁判員に選ばれれば死刑について考える必要に迫られるかもしれない。「死刑」や「死刑囚」という概念だけでなく、ニュースや物語を通じてたくさんのケースを知っていることは、そういったときも思考の僅かな助けになるのではないだろうか。
『きみはいい子』の感想に続く)

*1:この映画の三浦友和は、嫌いになれる要素200%