Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

浮遊感のある物語とイメージ~三崎亜紀・白石ちえこ『海に沈んだ町』

海に沈んだ町 (朝日文庫)

海に沈んだ町 (朝日文庫)

  • 作者:三崎亜記
  • 発売日: 2014/02/07
  • メディア: 文庫


昨年見に行って以来、楽しみにしていた第23回岡本太郎現代芸術賞を見に、川崎市岡本太郎美術館に行ってきた。その中でも興味を引いた澤井昌平さんの作品として、夢の内容をイラストと文章で表した『夢日記』というのが売店に並んでいたので買ってきた。(買ったのは3巻)

これが良かった。何より夢ならではの「脈絡のなさ」と「浮遊感」。芸能人が頻繁に出てくるのも、読み手のイメージを喚起して面白い。


たまたま同時期に読んだ三崎亜紀『海に沈んだ町』も「夢日記」と似た不思議な読後感を残す。『海に沈んだ町』は、連作短編で、各短編内で、次の短編のタイトルについて言及があるという変わった仕掛けがある。それぞれの短編は、脈絡のないワンアイデアで出来ており、その設定に必然性はなく、単なる思いつきで、まさに眠っている間に見る夢のよう。
たとえば、遊園地跡地の住民が回転木馬の夢を見る「遊園地の幽霊」、自らの影がほかの誰かの影と入れ替わってしまう「彼の影」、日常的に利用していた橋が、突如粗末な木橋に改築されてしまう「橋」…。


澤井昌平さんの夢日記のイラストと同様、これらの物語にビジュアルイメージを与えてくれるのは、表紙にもなっている白石ちえこさんの写真だ。
『海に沈んだ町』のクレジットは三崎亜紀・白石ちえこの共著となっているが、それも納得で、写真の点数も多く、物語の中で果たす役割も大きい。
というのは、白石ちえこさんの写真は、ありえない風景を写しているからだ。例えば、かつて日本の人口増加策として造られた団地船(「団地船」)や、海に沈むことをわかって高架で作られた私鉄線路(「海に沈んだ町」)、高い木の上に突如発生した巣箱(「巣箱」)。これは写真のようだが、写真ではないのか?もしくはCGでいじっているのか?もちろん、普通に見える写真もあるのだが、どの写真も、不思議な、というより不穏な空気が満ちている。少し調べてみると、白石ちえこさんの写真は、油絵具で修正を加える「ぞうきんがけ」という手法を利用して作られた作品のようだ。

 

ということで、物語もイメージも大満足だった『海に沈んだ町』だが、惜しむらくは、せっかくの文庫版なのに、解説がないこと。(朝日文庫は解説がないのか?)白石ちえこさんの写真をもとに三崎亜紀さんが文章を書いたのか、その逆なのか、制作過程がわかるともっと良かった。
なお、第23回岡本太郎現代芸術賞で特別賞を受賞された澤井昌平さんの作品は、こちらで少し見ることができる。が、澤井さんの作品も含めて、サイズの大きな作品が多いので、興味を持った方は是非美術館に足を運んでいただければ。

参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com