Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

藤井太洋『ワンモア・ヌーク』と2020年おすすめ散策ルート

新型コロナウイルス騒動で、様々なイベントの延期や中止の話が騒がれる3月15日に、子ども二人を連れて新国立競技場に行ってきました!

もともとは、2月末 にできたばかりの漫画『3月のライオン』デザインのマンホールが目当てでしたが、その近くには2020年を象徴する施設があると思えば行くしかありません。
そして、この新国立競技場は読み終えたばかりのこの小説のクライマックスの舞台(原爆テロの標的とされた地点)でもあるのです。

ワン・モア・ヌーク (新潮文庫)

ワン・モア・ヌーク (新潮文庫)

「核の穴は、あなた方をもう一度、特別な存在にしてくれる」。原爆テロを予告する一本の動画が日本を大混乱に陥れた。爆発は 3 月11日午前零時。福島第一原発事故への繫がりを示唆するメッセージの、その真意を政府は見抜けない。だが科学者と刑事の執念は、互いを欺きながら“正義の瞬間”に向けて疾走するテロリスト二人の歪んだ理想を捉えていた──。戒厳令の東京、110時間のサスペンス。

藤井太洋さんは、2015年5月に紀伊国屋で行われたトークショーで拝見したことがあります。その時の印象は、端正な顔立ちとあわせて、元エンジニアの肩書通り、語り口からも知性が溢れてくるようで、自分は逆に警戒していたのです。
実際、恥ずかしながら連作短編集『ハロー・ワールド』も、多数使われる通信関連の用語や東南アジア情勢など不得意分野を突かれ、表題作しか読み切れなかったのでした。(読めば面白いのはわかっていても、ストレスを避けて読み終えないというパターン)


ということで、同じ轍を踏みそうなこの本でしたが、期限を決めて読み進めようという原動力となったのは、物語で描かれるのが2020年3月6日から11日午前零時までの5日間という、読書のタイミングと作品内時間軸が重なる特殊な設定で、自分はこれを友人のTwitterで知り、すぐに購入したのでした。
目次もこんな感じで、曜日まであるのもリアルタイム感を増して良かったです。結果として、3月8日に読み始め、(残念なことに3月11日は無理だったのですが)エピローグで描かれた3月14日より前に読み終えることができました。

プロローグ
二〇二〇年 三月六日(金曜日)
二〇二〇年 三月七日(土曜日)
二〇二〇年 三月八日(日曜日)
二〇二〇年 三月九日(月曜日)
二〇二〇年 三月十日(火曜日)
エピローグ

今回、読み始めこそ、イスラム国やシリアなどの中東情勢や、通信関連の専門用語に、ストレスを感じつつも、  あっという間に読み終えられたのは、筋が非常にシンプルであることに加えて、ストーリーの「誠実さ」に惹きつけられたからです。
あらすじに書かれている通り小説には「互いを欺きながら“正義の瞬間”に向けて疾走する」日本人と元イスラム国の二人のテロリストが出てきます。読み進めると、彼らがテロを起こす動機は別々で、それぞれの「正義」も切実なだけでなく、「2020年3月11日」という日付や「新国立競技場」という場所にこそ大きな意味があることがわかってきます。
特に、2人のうち日本人の但馬樹という女性が漫画のようなキャラクターで、中盤以降は、劇場版名探偵コナンを見るような気持ちで話を読み進めることができました。
また、原発事故後の国の対応だけでなく、改正技能実習制度や新国立競技場のデザイン選考過程についても厳しい意見が述べられる等、2020年の日本が抱える問題についての言及も多く、その点でも読み応えがありました。
2020年3月11日は過ぎてしまいましたが、この時期に読むべき本として色々な人にオススメしたい一冊です。

都内散策のすすめ

なお、今日は、マンホール、鳩森神社将棋会館という『3月のライオン』関連スポットを巡り、新国立競技場のあとは、そのまま原宿まで歩き、都内最古といわれる木造駅舎(2020年解体予定)を見て、2020年3月14日にオープンしたばかりの高輪ゲートウェイ駅も見てきました。






新国立競技場の撮影スポットは、オリンピックミュージアムですが、オリンピックミュージアム将棋会館もお休みでした。
早くコロナ騒動が収束して、これらの施設の中にも入れるようになってほしいです。

何かと屋内施設からは足が遠ざかる昨今ですが、『3月のライオン』と『ワンモア・ヌーク』片手に、都内を散策してみるのはどうでしょうか。