Yondaful Days!

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ORIGINAL LOVE『bless You!』全曲感想(7)ゼロセット

bless You! (完全生産限定盤)

bless You! (完全生産限定盤)

  • アーティスト:ORIGINAL LOVE
  • 発売日: 2019/02/13
  • メディア: CD


東京FMのラジオ番組「KIRIN BEER “Good Luck” LIVE」 での田島貴男のゲストライブを聴いた。
今回、毎年冬から春に行っている弾き語りツアーが新型コロナウイルスの関連で途中から延期になってしまい、さらに、この週末は外出自粛要請の出る中で、ラジオから聴こえてくる演奏、歌声にいつも以上に胸が熱くなった。セットリストは以下。

  1. フィエス
  2. ZIGZAG
  3. 海が見える丘
  4. 神々のチェス
  5. ゼロセット
  6. 接吻
  7. bless You!

特に、『L』 をフェイバリットアルバムとして挙げる自分としては、初めて聴く弾き語りバージョンの「神々のチェス」はまさに神々しい選曲で涙。
同様にレア曲でいうと、前半に「ZIGZAG」が入っていたのが珍しい。自分にとってこの曲は因縁の曲というか、アルバム『東京 飛行』発売時にさんざん腐した曲なので思い出深い。
それだけでなく、自分が最近まで「ゼロセット」を好きになれなかったのも「ZIGZAG」と同じ理由だとはっきりと分かった。
pocari.hatenablog.com


「ゼロセット」が好きになれなかった理由

自分は「メッセージソング」はたとえ内容が青臭くても好きで、アルバム『bless You!』もメッセージ性のある曲が多いことがお気に入りの理由だ。
しかし、このアルバムの中でも最もメッセージが高く、そのメッセージにも感動できる「ゼロセット」がダメなのは、やはり歌詞が破綻しているから。
「ZIGZAG」は、含まれる2つのメッセージがバラバラだと感じたが、「ゼロセット」も同じ。
「ゼロセット」がいわんとしているメッセージは基本的に「人生を終えるその最後まで何度でもチャレンジを続けよう」ということだろう。たとえば「一度きり人生を」や「ゴールテープを切ろう」という歌詞はメッセージの内容を補強する。「ZIGZAG」の歌詞内容とも符合する「何万回十字路を曲がった?」「何度も突き当たって途方に暮れ迷って引き返してやり直した」の部分も、毎回聴いて胸が熱くなる部分だ。


しかし「一度きりチャンスは今」という歌詞は、同じ「一度きり」でもその意味が180度変わってくる。チャンスが一度ということは、何度も挑戦できないことを意味するからだ。
そして、メインメッセージとテイストが異なる「一度きりチャンスは今」の方が、最後のリフレイン部分=曲タイトルと親和性が高い。

チャンスはRight Now!
チャンスはRight Now!
カウンターをセットゼロにリセット

このように見ていくと、曲を聴いて沸き上がる感動とあまり関係ない部分が、初耳の言葉としてタイトルとなっているのが一番の違和感だ。
「ゼロセット」というタイトルは「人生を終える最後まで何度でもチャレンジを続けよう」という曲の肝となるメッセージとほとんど関係がないし、一度聴いても意味がわからない。むしろ歌詞の内容が刺さる自分のような中高年はたくさん「ゼロにリセット」できないものを抱えているから、「今までのことをなかったことにして」とも聞こえる「ゼロセット」というタイトルには、むしろ反発を感じてしまった。


付け加えるなら、「スタンドを熱狂させる きみはきっと明日のスーパースター」も、比喩だとしてもよくわからない。世の中の“普通の人々”は「スタンドの熱狂」なんてことを望まないし、オリジナルラブの過去曲「スーパースター」では、「スーパースター」という言葉は、「裸の王様」という悪い意味で揶揄的に使われている。


ここで考え方を変えて、この曲の歌詞が、デビュー25周年シングル「ゴールデンタイム」と同様に田島貴男自身のことを歌っているのであれば、「一度きりチャンスは今」、「スーパースター」は、語義通りの意味と捉えることができる。
しかし、そうすると、メッセージソングとしての曲の強度は薄れてしまう。

毎年、生まれる自分

そんなときに、予想外の人から歌詞の意味を考えるヒントがもたらされた。
3/7(土)の朝日新聞のインタビュー記事から引用する。

毎年、自分が生まれている感覚があるという。
「毎年違うことがあるし、『滝沢カレン』て名前は同じなんだけど、中身は毎年違う人間。そういう感じがする」

前後を読むと、毎年、新しいことに興味を持って勉強しようとする気持ちを「毎年生まれている」と表現しているようだが、自分もこうありたい*1し、この感覚こそ「ゼロセット」の歌詞で言わんとしていたことだろう。
勿論、もともとの歌詞は、ランナーを比喩に使っているから、タイマーをゼロにリセットしてスタートを切ろう=「毎日」新たな気持ちで挑もう、という意味にも取れるが、歌詞全体の内容と実践のしやすさから考えると、「毎年」くらいのスパンで「ゼロにリセット」しようと考えるのがいいかもしれない。


 「何度も挑もう」とするためには、毎年、違う自分が生まれてきているような感覚を意識して持つ、そういう気の持ち方こそが大切なのではないか。  
そう、年度の境に思いました。


最後に、以前書いた文章から「ゼロセット」に通じる内容を含む桑田真澄インタビューを引用します。
2020年3月末は、かつてないほど先が見えないからこそ響いてくる言葉だと思いました。

みなさん年齢のことを言いますが、ぼくはあまり考えない。自分の人生じゃないですか。他人と比較することもないし、自分のペースで、自分らしく、自分のやりたいことをやるのが、自分の人生。若いからできるかと言ったら、できない人もいっぱいいる。統計をとっても例外はあるわけだから。可能性を信じて頑張るのも人間の素晴らしいところだと思う。
――嫌な経験も含めて楽しみにしていると。
ぼくはいつも言うんですけど、明日何時に誰とどこで会って、ダイヤモンドをプレゼントされるよと分かっていたら、実際にもらっても感動しますか。不安だけど、先のことが分からないから、人と会った時だとか、勝った時だとか、負けて悔しかった時だとか、感動がある。それが一番大切なことだと思う。

*1:最近はあまりテレビを見ないせいか、滝沢カレンさんという人は、あまり知らなかったが一気に関心を持った。