Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

映画と旅と~『37セカンズ』『百万円と苦虫女』

『37セカンズ』


『37セカンズ』本予告

生まれた時にたった37秒間呼吸が止まっていたことが原因で、手足が自由に動かない身体になった主人公・貴田ユマ(佳山明)。親友の漫画家のゴーストライターとして働いて自分の作品として出せないことへの寂しさや⻭がゆさ、そしてシングルマザーでユマに対して過保護になってしまう母・恭子(神野三鈴)との生活に息苦しさも感じていた。自分にハンディ・キャップがあることをつきつけられる日々だか、それでも23歳の女性として望んでいいことだってあるはず。そんな思いの狭間で揺れる日々。そんな時、ある出来事をきっかけに、ユマの人生は大きく変わり、自らの力で『新しい世界』を切り開いていくことになる・・・。

3月の終わりころだったか、たまたま、タイ公共放送とNHKの合作ドラマ『盲亀浮木〜人生に起こる小さな奇跡〜』(原作:志賀直哉)を見た。*1
若い頃の奥田瑛二みたいな顔のタイ人作家が、海辺の家で過ごすだけの環境映画的な作品にもかかわらず、とても心に残った。
これを観て、ちょうど直前に見た映画『37セカンズ』を思い出した。脳性麻痺の主人公の成長を描くこの作品では、後半、舞台を東京からタイの自然豊かな場所に移す展開がある。密度の詰まった前半に比べて冗長と評価する人もいるようだが、自分にとってはむしろ後半のゆっくりした流れが心地よかった。
これは、過去にタイに旅行で行ったことがあるからだと思う。*2実際の撮影現場でなくても、そこに似た場所に行ったことがあるという体験は、作品鑑賞にプラスに働くと思う。


たまたま連続して「そういう映画」を見ているというだけなのかもしれないが、松本清張砂の器』(1974年、出演:丹波哲郎森田健作加藤剛)も、通常話題に上る後半の音楽演出(と作品テーマ)よりも、前半の、秋田→島根→三重→大阪を電車で行き来する「バーチャル旅行」的な展開が印象に残った。
先日、追悼の意味も含めて初鑑賞となった大林宣彦時をかける少女』(1983)を見ても、当然、尾道に行きたくなる。
特に、日本国内であれば、移動手段も含めて、旅行体験ライブラリから、似た風景を導き出しやすいので、それだけ鑑賞映画を豊かに味わえる。つまり、旅行体験が多ければ多いほど、これらの映画を見るだけで旅行した気分に浸ることができる。


さらに、舞台が東京近辺の場合は、個別のロケ地が気になるようになった。
以前も少しは気になっていたが、『3月のライオン』の聖地巡礼(これは漫画のロケ地だが)がきっかけなのかもしれない。映画やドラマはもちろん、アニメ作品でも、作品舞台を身近に感じるようになった。
先日観た『パパはわるものチャンピオン』(2018)は『3月のライオン』と同じく、家の近くの小さい橋+職場の近くの大きい橋という2つの橋が何度も登場する作品で、そのうちの前者、仲里依紗(編集者) が寺田心くんに「パパ」のサインを頼み込んだ門前仲町八幡橋(調べて知りましたが)は是非とも行ってみたいロケ地ポイントだ。

百万円と苦虫女


百万円と苦虫女


そんな中で見た『百万円と苦虫女』は、ひょんなことから「前科者」となった蒼井優演じる鈴子が「働いて百万円貯ったらその土地を離れて次の土地へ」を繰り返す話。メインのストーリーは、森山未來との恋愛模様にスポットが当たる後半にあるのだが、物語の舞台が、海の家(日立市)→山の中の桃農家(福島県飯坂町)→地方都市(上尾市らしい)に移る、その流れ、場所が移り変わっていくこと、そのものが楽しい。
森山未來に、土地を転々とする生き方を問われて答えるシーンが印象的だ。

「自分探し、みたいなことですか?」
「いや、むしろ探したくないんです。どうやったって、自分の行動で自分は生きていかなくちゃいけないですから。探さなくたって、嫌でもここにいますから」

この映画の特徴は、それぞれの土地での人との交流が描かれながらも、仲間が増えないこと。
「人は別れるために出会う」のではなく「出会うために別れる」と鈴子が悟る通りに、最後まで別れてばかり。いつ犯罪行為が飛び出るのかびくびくしたが、結局純朴な青年に終わった桃農家のピエール瀧が良い例だが、鈴子は今後、この人たちと会うことはないだろう。それは恋人だった森山未來も同じで、清々しいほどに別れっぱなしだ。


それなのに、鈴子は逃げていない。離れ離れになった弟のことを心配する様子を見ていると、鈴子が、手紙の中で弟に向けて書くようにして、自身にも問いかけて続けていることが分かる。


重要なのは、そうした問いかけが、頭の中で完結するものではないということだ。新たな人と出会い、ともに仕事をする中で、時にトラブルに見舞われる中で、鈴子は自身を固めていく。成長というよりは、自分に合ったスタイルを身につけていくというイメージだろうか。自分で生計を立てていくには、「探さなくたって、嫌でもここにいる」自分と向き合うことになるのだから。


この点は、『37セカンズ』とも似ている感じがした。例えば『ラプンツェル』は、無理やり親元から抜け出して「外の世界」を知っていくという意味で『37セカンズ』と似た構造を持っているが、旅そのものが「冒険(エンターテインメント)」になっている点が大きく異なる。*3百万円と苦虫女』や『37セカンズ』は、「外の世界」よりも新たな場所で生活していく中で「自分に向き合う」ことに重きが置かれる。そこでは、王子様や彼氏が、「本当の自分」を見つけてくれるのではなく、自分が自分と折り合いをつけていく。


百万円と苦虫女』の紹介記事を見ている中で、「ロードムービー」という言葉を見て、そういえば、そんな言葉があったと気づかされた。
昔、『トゥルーロマンス』を見たときには、「これがロードムービーなんだ、へー」くらいの感想しか持てなかった。だだっ広い荒野みたいな場所を車で移動するということに全く実感が持てなかったからだ。
しかし、見知った場所が登場する邦画をいくつか観る中で、自分の関心がスクリーンの向こう側にまで届くようになった。
映し出される土地の生活や風景に興味を持ち、過去・未来にかかわらず、自分がそこを訪れたときのことまで思いを巡らせるのは最高に楽しい。そうすると、今度は逆に、街歩きでリアルな生活風景を見て、そこに住んでいる人たちの物語を想像していくことに繋がり、さらに映画を観るのが倍々で楽しくなっていく。
そもそもロードムービーという括りに入るかわからないが、思考が内側に向かう『百万円と苦虫女』『37セカンズ』は、異色なロードムービーと言えるかもしれない。しかし、ストーリーというよりは、生活風景や主人公の思考によりスポットがあたる、こういった作品は自分に合っているような気がする。
これからも、こんな映画を楽しみたいが、そのためには、いろんな場所を実際に訪れる体験を少しでも貯めておく必要がある。世の中(東京都)は「ステイホーム週間」ということになっており、昨日5月4日には、緊急事態宣言の5月末までの延長が決まったばかりだが、とにかく早く旅行に行きたいなあ。

百万円と苦虫女

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砂の器 デジタルリマスター版

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時をかける少女

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*1:2020年4月4日 - 日本×タイ ドラマ「盲亀浮木〜人生に起こる小さな奇跡〜」 - NHK

*2:学生時代にサムイ島&バンコクに、社会人になってからプーケットに行きました。また行きたいなあ。

*3:ディズニー作品だから当然なのだが、ミュージカルの音楽も含めて、『ラプンツェル』の冒険は、まさにディズニーランドに行った気持ちになれる作品だ