Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

2019-01-01から1年間の記事一覧

2019年一番面白かった小説~砥上裕將『線は、僕を描く』

そろそろ2019年も終わりが近づいてきましたが、今年一番面白かった小説に出会えました。 直前に見た映画『家族を想うとき』から真逆に触れる内容のため、やや過大評価な気もしますが、自分は、結局こういう前向き青春小説が大好きなことを自覚しました。線は…

辛いけどそれが現実…なのか~山田詠美『つみびと』×ケン・ローチ『家族を想うとき』『わたしは、ダニエル・ブレイク』

『キングオブコメディ』を観て一度収束したはずの『ジョーカー』評の補足を、また改めて書いてしまいました。 今年観た映画では、『アス』も『ボーダー』も社会の分断を描いてはいるけれど、あくまで比喩としてなので、そこまで違和感はありませんでした。『…

映画のメッセージに、そして、撫子ちゃんの告白11連発にやられました~『殺さない彼と死なない彼女』

www.youtube.com (↑これは良い予告編!長回しの楽しさもあり、変なネタバレもなし) これは大好きな作品となりました。 元々、『国家が破産する日』を見るタイミングで、映画comでの高評価に釣られ、『ひとよ』と合わせて候補に挙がったのがこの作品。 その…

この本でしか得られない視点がある~山崎ナオコーラ『ブスの自信の持ち方』

ブスの自信の持ち方作者: 山崎ナオコーラ出版社/メーカー: 誠文堂新光社発売日: 2019/07/10メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 山崎ナオコーラさんの小説は、これまで何冊か読んでいます。 心の奥底に深く刺さるような作品を書くわけではなく、社会…

全く他人事に思えない韓国映画~『国家が破産する日』

『国家が破産する日』予告編 観終えたあとは、溜息が出てしまいました。1997年の韓国の通貨危機を描いた映画ですが、終着点が12/3のIMFとの覚書締結で、ちょうど映画を観たのと同じ日付(11/20)の場面も登場するので、季節的にはまさに地続きです。それだけ…

『ジョーカー』の見方が変わりました~マーティン・スコセッシ『キングオブコメディ』

『キング・オブ・コメディ』予告編 キング・オブ・コメディ 特別編集版 (字幕版)発売日: 2014/06/01メディア: Prime Videoこの商品を含むブログを見る 『キングオブコメディ』は、強烈な映画でした。 あまりにも『ジョーカー』と似ているので、この映画のあ…

乗り切れない!~映画『ジョーカー』

映画『ジョーカー』本予告【HD】2019年10月4日(金)公開 大ヒット上映中の『ジョーカー』を遅ればせながら観てきました。 仕事帰りに、つくば方面から新宿の東宝シネマズ18:30放映開始の回に向かったのですが、色々と見通しが甘く、劇場に入ったのは18:50。…

圧倒的!今年一番の映画体験でした~『ボーダー二つの世界』

映画『ボーダー 二つの世界』予告編|10/11(金)公開 この映画を観ようと思ったきっかけが思い出せません。 9月頃に、何かの煽り文句を読んで、「これは観に行かなくてはいけない映画だ!」と確信し、『ジョーカー』か『ボーダー』か…という気持ちで公開を待…

読みやすいワンシチュエーションミステリー短編集~青崎有吾『早朝始発の殺風景』

早朝始発の殺風景作者: 青崎有吾出版社/メーカー: 集英社発売日: 2019/01/04メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 青春は気まずさでできた密室だ——。 今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。 始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧…

久しぶりに宮部みゆき読んだと思ったら2年前に同じ本を…~宮部みゆき『本所深川ふしぎ草紙』

本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)作者: 宮部みゆき出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1995/08/30メディア: 文庫 クリック: 37回この商品を含むブログ (78件) を見る つい先日、クリストファー・ノーラン監督『メメント』という、主人公の記憶が10分間しか持たな…

21世紀の「そして誰もいなくなった」~市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』

ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)作者: 市川憂人出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/06/28メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者であるファイ…

大量廃棄、大量消費を支える「私たち」~仲村和代、藤田さつき『大量廃棄社会』

大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実 (光文社新書)作者: 仲村和代,藤田さつき出版社/メーカー: 光文社発売日: 2019/04/16メディア: 新書この商品を含むブログを見る この本では、主に日本の問題として、アパレル業界とコンビニ・食品業界における…

吉岡里帆主演映画のノベライズ~豊田美加『見えない目撃者』

見えない目撃者 (小学館文庫)作者: 豊田美加出版社/メーカー: 小学館発売日: 2019/09/06メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 視力を失った、そして事件を”目撃”した。 警察学校の卒業式の夜、事故で視力と最愛の弟を失った浜中なつめ。人生に絶望する…

作品の意図を理解するということ~『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』VS『アス』

9月に入って2本の映画を観た。 クエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告 8月30日(金)公開 いつもはストーリーには出来るだけ触れないでおくのがセオ…

重い内容の漢字二文字タイトル対決!〜伊岡瞬『代償』VS葉真中顕『絶叫』

期せずして漢字二字タイトルのミステリーを2冊続けて読んだ。どちらもAmazonでのレビュー数が80以上の人気作。 共通点はタイトルとレビュー数だけでなく、2冊とも、主人公の子供時代から物語が始まり、その半生を追うことで、特殊な人間関係や、事件が起きて…

知ってたつもりで全く知らなかった〜加藤直樹『九月、東京の路上で』

九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響作者: 加藤直樹出版社/メーカー: ころから発売日: 2014/03/11メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (48件) を見る 話題になっていたので、この本のことは何年も前から知っていた。が…

バカミス欲が満たされました〜柾木政宗『 NO推理、NO探偵?』

ひとつ前の『パワー』は、苦手な翻訳小説で、やや社会的なエッセンスを含む内容。 こういうのを読むと、反動で、「もっと、ベタに日本の小説で、もっとバカなお手軽小説が読みたい!」という欲が湧き上がってくる。 先日、この思いから手に取ったメフィスト…

男女逆転小説で味わうべき恐怖〜ナオミ・オルダーマン『パワー』

パワー作者: ナオミ・オルダーマン,安原和見出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2018/10/23メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る ちょうど一週間前に、『したたかな韓国』を書いたあと、韓国がGSOMIAを破棄するなど、日韓関係がさらに悪化…

日韓関係への希望と失望と~浅羽祐樹『したたかな韓国』

したたかな韓国 朴槿恵(パク・クネ)時代の戦略を探る (NHK出版新書)作者: 浅羽祐樹出版社/メーカー: NHK出版発売日: 2013/08/20メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る 今年は、映画『主戦場』を観たこともあり、日韓関係に関しては、慰安婦問題…

今年、読書感想文を書くならこの本!~ナディ『ふるさとって呼んでもいいですか:6歳で「移民」になった私の物語』

ふるさとって呼んでもいいですか: 6歳で「移民」になった私の物語作者:ナディ大月書店Amazon 6歳で来日し、言葉や習慣、制度の壁など数々の逆境の下でも、 周囲の援助と家族の絆に支えられ生きてきたイラン人少女の奮闘と成長。 移民社会化する日本で、異文…

最高のホラー小説、来た~澤村伊智『ぼぎわんが、来る』

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)作者: 澤村伊智出版社/メーカー: KADOKAWA発売日: 2018/02/24メディア: 文庫この商品を含むブログ (2件) を見る今回、順序的に、中島哲也監督の映画『来る』を今年の正月に観に行ったあと、原作小説として、この本を読んだ…

「百田尚樹現象」に刺激を受けて読んだ2冊~百田尚樹『モンスター』『幸福な生活』

週刊ニューズウィーク日本版 「特集:百田尚樹現象」〈2019年6月4日号〉 [雑誌]出版社/メーカー: CCCメディアハウス発売日: 2019/05/28メディア: Kindle版この商品を含むブログを見るノンフィクションライター石戸諭によるニューズウィークの特集「百田尚樹…

韓国の歴史をもっと知りたくなる映画~『工作 黒金星と呼ばれた男』

ファン・ジョンミン主演、映画「工作 黒金星(ルビ・ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」7月19日(金)に日本公開決定!日本オリジナルポスター解禁歴史的事実といっても、90年代という、つい最近の歴史を扱った映画。 自分は1974年生まれなので、1996年の…

ぽくないメフィスト賞受賞作~宮西真冬『誰かが見ている』

誰かが見ている作者: 宮西真冬出版社/メーカー: 講談社発売日: 2017/04/13メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 第52回メフィスト賞受賞! 4人の女には、それぞれ表の顔と裏の顔がある。ブログで賞賛されたいがために、虚偽の「幸せな育児生活…

いつの間にか自分自身について考えさせられる小説~角田光代『坂の途中の家』

坂の途中の家 (朝日文庫)作者: 角田光代出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2018/12/07メディア: 文庫この商品を含むブログ (2件) を見る あらすじ この小説に興味を持ったのは、裁判員制度に絡めた物語だったからだ。 もともと、裁判員制度自体には、否…

Original Love "bless You! Tour"@中野サンプラザ7/20(Tour最終日)

bless You! (通常盤)アーティスト: ORIGINAL LOVE出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント発売日: 2019/02/13メディア: CDこの商品を含むブログを見る 公演前のすったもんだ ぼくの知らない間に誰かがきて ポストの中のものを全部取ったんだろう スガシ…

映画「主戦場」に右派が「騙された」理由がわかった~『海を渡る「慰安婦」問題』

海を渡る「慰安婦」問題――右派の「歴史戦」を問う作者: 山口智美,能川元一,テッサ・モーリス‐スズキ,小山エミ出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2016/06/24メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (3件) を見る 「歴史戦」と「主戦場」 上半…

『3月のライオン』聖地巡礼の魅力(その3)~橋と人と

ひとつ前に書いた通り作品の舞台は水に囲まれているわけですが、隅田川を渡る橋は、中央大橋以外にもあります。 だけでなく、それぞれが登場人物と強く繋がりを持っています。 今回は、かなりこじつけ部分もありますが、登場人物と橋の結びつきについてまと…

政権批判ではなくちゃんとしたエンタテインメント映画~『新聞記者』

まず、最初に書くと、自分は、 望月衣塑子記者のことはあまりに好きではありません。 望月記者の菅官房長官に対する姿勢は、必要なものだし、排除されるべきではないと考えますが、あまりに反体制に過ぎる、いわゆるサヨク過ぎる、と考えていたのです。 その…

読者の共感を拒む踏み絵的小説~村田沙耶香『地球星人』

地球星人作者: 村田沙耶香出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2018/08/31メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る 私はいつまで生き延びればいいのだろう。いつか、生き延びなくても生きていられるようになるのだろうか。地球では、若い女は恋愛をし…