Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

読書

文章からも挿絵からもカヨへの愛が溢れる~内澤旬子『カヨと私』

カヨと私作者:内澤旬子本の雑誌社Amazonこの本には下心(邪念)があって読み始めた。内澤旬子さんの著作で読んだことがあるのは『飼い喰い』という、三匹の豚と半年間一緒に暮らしたあとで食べてしまう実話。その人がヤギと暮らす、その距離感に興味があった…

陸自ヘリ墜落と陰謀論~青山透子『日航123便 墜落の新事実』

日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る (河出文庫)作者:青山透子河出書房新社Amazon宮古島沖での陸自ヘリの墜落事故が起きたのは4月6日で、まだ一か月も経っていないが、新しい事実が出ないからか報道はすでに下火のように感じる。 事故の原因に…

「所有」しない=縛られない生き方~伊藤雄馬『ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』

ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと作者:伊藤 雄馬集英社インターナショナルAmazon 就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブ…

「空気」をめぐる希望と絶望~朝比奈あすか『君たちは今が世界』

君たちは今が世界 (角川文庫)作者:朝比奈 あすかKADOKAWAAmazon 2020年、難関中学の入試で出題多数!教室で渦巻く、悪意と希望の物語。「文ちん、やれるよな?」人気者とつるむようになってから、文也は自分がクラスの中心にいるような気分がする。担任の幾田…

この種の連作短編集では近年ベスト~松井玲奈『累々』

累々作者:松井 玲奈集英社Amazon 本当の私は誰。結婚、セフレ、パパ活、トラウマ……。不穏さで繋がる全5編。大きな話題となったデビュー作『カモフラージュ』の衝撃を超える、著者の新境地といえる意欲作。人間の多面性を切り取る、たくらみに満ちた自身初の…

軽く読むべきだった芥川賞候補作~安堂ホセ『ジャクソンひとり』

ジャクソンひとり作者:安堂ホセ河出書房新社Amazon井戸川射子『この世の喜びよ』、佐藤厚志『荒地の家族』が受賞した第168回芥川賞の候補作が発表になったとき一番気になった作品はこの本のタイトル。 実際に本を見てみると装丁も良く、字も小さい。 これは…

文庫解説に2度救われる~白井智之『お前の彼女は二階で茹で死に』×小野一光『冷酷 座間9人殺害事件』

2冊の文庫本を平行して読んだ。 端的に言うと、救いがなく、途方に暮れるような終わり方をする2冊だったが、どちらも解説に救われてやっと戻ってこられたという感じ。 しかも、読み終えてみれば、2冊をまとめて読むべきではない「混ぜるな危険」案件だった…

ポジティブさに引き込まれる~井戸川射子『この世の喜びよ』

この世の喜びよ作者:井戸川射子講談社Amazon 娘たちが幼い頃、よく一緒に過ごした近所のショッピングセンター。その喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼びさましていく芥川賞受賞作「この世の喜びよ…

淡々と体験談~奥野修司『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』

死者の告白 30人に憑依された女性の記録作者:奥野修司講談社Amazon よく聞く「震災の怪談」に興味があった。 それは、残された者がどう心を癒すのか、死者を弔うとはどういうことなのか、という心の問題として、災害とどう向き合うのかについて知りたかっ…

「可哀想」に流されたくない~山本おさむ『遥かなる甲子園』

遥かなる甲子園 : 1 (アクションコミックス)作者:山本おさむ,戸部良也双葉社Amazon 前回読んだのは大学生くらいのときだと思う。 調布の図書館は漫画が充実していることもあり、借りて途中巻までは読んでいたが、何かのタイミングで最後まで読み終えること…

心に貯まる風景・言葉~映画『エンドロールのつづき』×井戸川射子『ここはとても速い川』

『エンドロールのつづき』 インドのチャイ売りの少年が映画監督の夢へ向かって走り出す姿を、同国出身のパン・ナリン監督自身の実話をもとに描いたヒューマンドラマ。 平日に映画を観に行く場合は、作品以上に上映開始・終了時間が重要で、3つくらいの候補の…

新年の抱負代わりに2冊を読む~三浦知良『カズのまま死にたい』×益田ミリ『永遠のおでかけ』

カズのまま死にたい (新潮新書)作者:三浦知良新潮社Amazon永遠のおでかけ(毎日文庫) (毎日文庫 ま 1-1)作者:益田 ミリ毎日新聞出版Amazon2つの本の共通点は何か。 両方の本のタイトルからイメージされる「死」という答えはハズレ。 正解は、どちらも著者の48…

子どもからみる親権~榊原富士子・池田清貴『親権と子ども』

親権と子ども (岩波新書)作者:榊原 富士子,池田 清貴岩波書店Amazonいわゆる「共同親権」の問題に関心があり読んでみた一冊。 元々は将棋の橋本崇載八段(ハッシーと言われて親しまれていた)が、2021年の4月に突然、引退を発表し、その後、原因が「子どもの…

スラムと希望とハミングバード~熊谷はるか『JK、インドで常識ぶっ壊される』

JK、インドで常識ぶっ壊される作者:熊谷はるか河出書房新社Amazon 朝日新聞元旦紙面での川崎レナさん 我が家は新聞を購読していないが、1月1日は、いつもと同じ価格で拡大版が買えてお得なので、朝日新聞を購入した。 11面のオピニオン欄は「『覚悟』の時…

2022年下半期の振り返り(自転車関連、ドラマ、映画、音楽)

2022年上半期はまとめをしたので下半期もまとめをしようと思います。 下半期は大きな傾向がいくつかあります。 自転車関連マイブーム(本) 引き続きフェミニズム関連(本) ドラマを多めに見た 映画をたくさん見た pocari.hatenablog.com 自転車関連ベスト …

「音のない世界」とか言われても困る~好井裕明『「感動ポルノ」と向き合う』

「感動ポルノ」と向き合う: 障害者像にひそむ差別と排除 (岩波ブックレット NO. 1058)作者:好井 裕明岩波書店Amazon 今回読んだ好井裕明さんのブックレットは、タイトルに書かれている『「感動ポルノ」と向き合う』という主旨が独特で、そこに自分はとても共…

中絶のスティグマを減らす方向に舵を取らない日本~塚原久美『日本の中絶』

日本の中絶 (ちくま新書 1677)作者:塚原 久美筑摩書房Amazon小説『僕の狂ったフェミ彼女』で取り上げられていて気になった「中絶」の問題。 もう少ししっかり勉強したいと思って読んでみたのが、今年8月に出た本書。目次は以下の通り。 第1章 なぜ中絶はタ…

再読時の感動が深い歴史ミステリ~深緑野分『ベルリンは晴れているか』

ベルリンは晴れているか (ちくま文庫)作者:深緑野分筑摩書房Amazon 1945年7月、ナチス・ドイツの敗戦で米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が米国製の歯磨き粉に含まれた毒による不審死を遂げる。米国の兵員食…

人口減少と「男性の育児休業取得」~メアリー・C・ブリントン『縛られる日本人』

縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか (中公新書)作者:メアリー・C・ブリントン中央公論新社Amazon 人口減少が進む日本。なぜ出生率も幸福度も低いのか。日本、アメリカ、スウェーデンで子育て世代にインタビュー調査を行いデータとあわ…

山に挑む人たち~NHK『激走!日本アルプス大縦断』×ドニ―・アイカー『死に山』

息を飲むような雄大な眺め、漆黒の闇に浮かぶ仲間の灯、烈風に晒され追いつめられる自分、悲鳴をあげる身体、絶望的な距離感、何度も折れそうになる自分の心、目指すのはあの雲の彼方。日本海/富山湾から太平洋/駿河湾までその距離およそ415Km。北アルプスか…

被害者家族の思いと少年Aの「更生」~奥野修司『心にナイフをしのばせて』

心にナイフをしのばせて (文春文庫)作者:奥野 修司文藝春秋Amazonこの表紙とタイトルが ずっと以前から気になっていた本。その印象から小説だと思い込んでおり、改めて手に取って初めて、ルポルタージュだと気がついた。 ましてや題材としている事件が自分の…

小説⇔ドラマの往復感想(ネタバレあり)~相沢沙呼『medium』×ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』

medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)作者:相沢沙呼講談社Amazonもちろん書店で何度も見かけていたし、ミステリとしての評判も聞いていたので、その名は知っていましたが、清原果耶が主演、と聞き、ドラマを見てみよう、それなら小説も読んでおこう!…

脱「思いやり」で社会を変える~神谷悠一『差別は思いやりでは解決しない』

差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える (集英社新書)作者:神谷悠一集英社Amazon 「ジェンダー平等」がSDGsの目標に掲げられる現在、大学では関連の授業に人気が集中し企業では研修が盛んに行われているテーマであるにもかかわ…

このtwitterアイコンは著作権的にあり?なし?~井上拓『SNS別最新著作権入門』

SNS別 最新 著作権入門: 「これって違法!?」の心配が消える ITリテラシーを高める基礎知識作者:井上 拓誠文堂新光社Amazon著作権の話は定期的に最新情報を確認しておきたいと思っている。「違反しているけど黙認されている場合」というグレーゾーンが非常に…

19世紀のスイス、ドイツに思いを馳せる~『図説 アルプスの少女ハイジ 増補改訂版』

図説 アルプスの少女ハイジ 増補改訂版: ハイジでよみとく19世紀スイス (ふくろうの本)作者:ちば かおり,川島 隆河出書房新社Amazon読みたくなる本(小説以外)の条件として、自分は以前から「読みやすい・読み通せそう」という点を重視していた。 さらに最…

紀元前から現代までを18の漫画でつなぐ~茂木誠・大久保ヤマト 『バトルマンガで歴史が超わかる本』

バトルマンガで歴史が超わかる本作者:茂木誠,大久保ヤマト飛鳥新社Amazon歴史と漫画の相性が良いことはよく知っている。駿台予備校世界史講師による本ということもあり、これはかなり期待できるのではないか? と思っていたが、店頭で本を実際に見ての印象は…

「叱られる小説」と思って読んだら「呆れられる小説」~ミン・ジヒョン『僕の狂ったフェミ彼女』

僕の狂ったフェミ彼女作者:ミン・ジヒョンイースト・プレスAmazon 以前「狂ったフェミ彼女」の本を読んだことがある。 pocari.hatenablog.com この本(『私たちにはことばが必要だ』)の衝撃(というか罵倒され体験)は自分にとって過去最大級に大きく、その…

あみ子は可哀想?~今村夏子『こちらあみ子』

こちらあみ子 (ちくま文庫)作者:今村夏子筑摩書房Amazon今村夏子『星の子』のラストは、自分にとって衝撃だった。物語のセオリー通りに進まない話だったからだ。 pocari.hatenablog.com しかし、その後、映画を観て改めて考え、読者の押し付けた幸福の物語に…

タイル楽しい~加藤郁美『にっぽんのかわいいタイル 昭和レトロ・モザイクタイル篇』

増補新版 にっぽんのかわいいタイル 昭和レトロ・モザイクタイル篇作者:加藤郁美国書刊行会Amazon 今年の夏休みは、岐阜への帰省にかこつけて、あいちトリエンナーレ(今年から名称が変わり、「トリエンナーレ」が取れて「あいち2022」となった)に行ってき…

それぞれのリトルホンダを育てるということ~長沢栄治監修『13歳からのイスラーム』

13歳からのイスラーム作者:長沢 栄治かもがわ出版Amazonイスラームについての本を読むのは久しぶりだ。 過去のブログを振り返ると、5年前くらいに少し固めて読み、それ以降は、本としてはあまり読んでいなかった。 ということもあり、今回、リハビリがてら易…