Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

読書

「しかたがない」と犠牲を強いてきたのは誰か~平井美帆『ソ連兵へ差し出された娘たち』

ソ連兵へ差し出された娘たち (単行本)作者:平井 美帆集英社Amazon戦争の話というと、1945年8月15日を機に終わり、その後は混乱期のどん底から立ち上がっていく。そのイメージが強かった。*1 しかし、ラジオでフィリピンや中国の残留孤児について扱った映画『…

カモン!(少し)高いところ!~『東京もっこり散歩』×『東京 街なか山さんぽ』

東京もっこり散歩──街中のふくらみを愉しむ作者:いからし ひろき自由国民社Amazon東京 街なか山さんぽ 地形と歴史を楽しむ超低山ガイド作者:江戸楽編集部メイツ出版Amazon 丘を越え、行こうよ。古墳、築山、富士塚…もっこりでほっこり。 日本の国土は山地が…

井上荒野は君に語りかける~井上荒野『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』

生皮 あるセクシャルハラスメントの光景作者:井上 荒野朝日新聞出版Amazon 小説講座の人気講師がセクハラで告発された。なぜセクハラは起きたのか? 家族たちは事件をいかに受け止めるのか? 被害者の傷は癒えるのか? 被害者と加害者、その家族、受講者たち…

ラスト1ページの衝撃~今村夏子『星の子』

今村夏子の作品には前々から興味があった。 特に、豊崎由美×大森望の「文学賞メッタ斬り」の芥川賞予想の企画(ラジオ)で、候補作に入るたび、豊崎由美の「読む楽しさ」がこぼれ落ちるような評が尋常でなかったことが大きい。 さらに、枡野浩一×古泉智浩のp…

楽しい仕掛けに満ちたびっくり箱のような本~横道誠『唯が行く! ー当事者研究とオープンダイアローグ奮闘記』

唯が行く! ー当事者研究とオープンダイアローグ奮闘記作者:横道 誠金剛出版Amazon 双極性障害の家族を持ち自身も発症の疑いを持つ大学生、唯(ゆい)は大学のサークル活動を起点として自助グループの運営にかかわるようになり、当事者研究とオープンダイアロー…

自転車の夢、遠のく(笑)~栗村修『今日から始めるスポーツ自転車生活』×高千穂遙『ヒルクライマー宣言』

(前回までのあらすじ) 高千穂遙『ヒルクライマー』は、小説ながらも、素人が自転車にのめり込む様子が描かれており、舞台が生活圏に近いことや、普段ランニングをしていて目につく自転車乗りの人たちの生態がよくわかる内容だった。 高千穂さんがロードバ…

対話を通じた子どもたちの変化に涙~豪田トモ監督『こどもかいぎ』

映画は「これが観に行きたい!」と決まっている時もあるが稀で、今回も 8/1の午後にiPhoneのバッテリー交換に行く、iPhonを預けている時間に見られる映画があれば… 場所はAppleストアのある有楽町か新宿 映画コムで気になる映画を探して、上映時間を確認して…

「坂馬鹿」たちに鼓舞される小説~高千穂遙『ヒルクライマー』

ヒルクライマー (小学館文庫)作者:高千穂遙小学館Amazon近藤史恵さんの一連の自転車ロードレース小説の関連でAmazonのオススメにこの本が出てきたときは、「同姓同名の人がいるんだな、しかも作家で…」と思ってしまった。 しかし、確認すると「クラッシャー…

ツール・ド・フランス2022後半×近藤史恵『スティグマータ』

news.jsports.co.jp さて、終わってみると、1週目のポガチャルの優勢は、2週目以降、ユンボ・ヴィスマの総合力によって抑えられ、マイヨ・ジョーヌと山岳賞はヴィンゲゴー、マイヨ・ヴェールはファンアールトが取り、つまり4賞*1のうち3賞をユンボ・ヴィスマ…

行きたい!が増える~岡部敬史、山出高士『見つける東京』

見つける東京作者:岡部 敬史東京書籍Amazon岡部敬史・文、山出高士・写真による「目でみることば」シリーズは、手に取りやすいサイズ、写真中心で次々とページをめくりたくなる本だが、この本は、その魅力をさらに倍化した。 構成は、同一キーワードに関する…

栗村修さんの名解説とともに~近藤史恵『サヴァイヴ』

ツール・ド・フランス(ジロ・デ・イタリア)については、Amazonプライム経由で見られるデイリーハイライトと関連番組を見ているが、その時に出てくる解説でも特に好きなのは、栗村修さん。 元選手とは思えない軽々しいトークとダジャレが素晴らしい。 どう…

ツール・ド・フランス2022前半×近藤史恵『エデン』

エデン (新潮文庫)作者:近藤 史恵新潮社AmazonAmazonプライムのJSPORTS(お試し期間無料)にも登録し、ジロ・デ・イタリアの振り返りとツール・ド・フランスの追っかけを始めた。 ジロ・デ・イタリアも約3週間かかるレースなので、休息日にまとめて7~9レー…

ツール・ド・フランスを迎撃~近藤史恵『サクリファイス』×映画『パンターニ/海賊と呼ばれたサイクリスト』

今年は、色んなタイミングが重なり、ツール・ド・フランスを見てみようということになった。 ロードレースの小説の傑作と言われる『サクリファイス』のシリーズを、これを機会に読み直してみよう、そういう流れになるのは当然のことだ。 ということで、ツー…

2022年上半期の振り返り(鎌倉関連、SF、映画、そのほかのベスト)

5月以降は特に定期的に更新が出来たこともあり、上半期振り返りをしようと思い立ちました。 上半期は大きな傾向が3点あり、この3点に沿ってそれぞれのベストを挙げます。 『鎌倉殿の13人』関連の、源平合戦~鎌倉時代の本が多い なぜか珍しくSFが多い 映画…

悪人が裁かれない嫌な事件~『そして陰謀が教授を潰した ~青山学院春木教授事件 四十五年目の真実~』

そして陰謀が教授を潰した ~青山学院春木教授事件 四十五年目の真実~ (小学館文庫)作者:早瀬圭一小学館Amazon 教授による教え子強姦事件は有罪か、無実か。本作は、1973年に青山学院で起きた「教授による女子学生強姦事件」の真相を、 元新聞記者である著…

アニメ『平家物語』×映画『犬王』×小説『平家物語 犬王の巻』

アニメ『平家物語』 【Amazon.co.jp限定】平家物語 Blu-ray box(「監督・山田尚子、音楽・牛尾憲輔スペシャルインタビュー」視聴コード付)ポニーキャニオンAmazon『平家物語』を見終わったのは、まさに『犬王』を観る一週間前くらいのことだった。 見始めた…

軽い気持ちで読んだら歴史的名作でした~高木彬光『成吉思汗の秘密』

成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)作者:高木 彬光光文社Amazon またもや『鎌倉殿』関連の読書。『成吉思汗の秘密』というタイトルからは、昔流行した『人麻呂の暗号』を思い出すが、この本は名探偵が登場するタイプのミステリであることが大きな特徴だ。 …

芸術とAIと青春~斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』

ゴールデンタイムの消費期限作者:斜線堂有紀祥伝社Amazon斜線堂有紀の本は初めて。そもそもは5月に見た映画『死刑にいたる病』からの連想で著作『恋にいたる病』経由でその名を知り、今回、Amazonでレビュー数の多かった本書を読んでみた。 ミステリ作家の中…

上半期ベストの「読みやすいSF」~アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上作者:アンディ ウィアー早川書房Amazonプロジェクト・ヘイル・メアリー 下作者:アンディ ウィアー早川書房Amazon 上半期読んだ小説では「ベスト」と言える、万人にオススメできる本でした! 地味な序盤 今年は、アトロク由…

まじめか!~潮谷験『エンドロール』

エンドロール作者:潮谷 験講談社Amazon 『時空犯』でリアルサウンド認定2021年度国内ミステリーベスト10第1位に輝いた著者の、待望の長編!202X年。新型コロナウイルスのせいで不利益を被った若者たちの間で自殺が急増する。自殺者の中には死ぬ前に自伝を国…

いつか私が。いつか誰かが。~佐々涼子『エンド・オブ・ライフ』

エンド・オブ・ライフ (集英社インターナショナル)作者:佐々涼子集英社Amazon ベストセラー『エンジェルフライト』『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』の著者、佐々涼子が、こだわり続けてきた「理想の死の迎え方」に真っ正面から向き合った。京都の診療…

「知らない人」と話すこと~津久見圭『障がい者よ、街へ出よう』

障がい者よ、街へ出よう―「網膜色素変性症」で視覚をなくしても、現役プロデュプラチナボックスAmazon図書館の地域図書のコーナーで出会った本。 作者の津久見圭さんは、1970年の大阪万博のパビリオンディレクターとして、携帯電話を初めて世界に紹介した人…

安全保障への理解が深まった~グレンコ・アンドリー『NATOの教訓』

NATOの教訓 世界最強の軍事同盟と日本が手を結んだら (PHP新書)作者:グレンコ・アンドリーPHP研究所Amazon 陰謀論より現実の敵、中国とロシアを直視せよ! NATO(北大西洋条約機構)には、世界で他に例のない実績がある。加盟国の本土が70年間、武力攻撃を受…

中盤の「対話」シーンに驚き~潮谷験『時空犯』

時空犯作者:潮谷 験講談社Amazon 私立探偵、姫崎智弘の元に、報酬一千万円という破格の依頼が舞い込んだ。依頼主は情報工学の権威、北神伊織博士。なんと依頼日である今日、2018年6月1日は、すでに千回近くも巻き戻されているという。原因を突き止めるため、…

とりとめないけど惹きつけられる~石井遊佳『百年泥』

百年泥 (新潮文庫)作者:石井 遊佳新潮社Amazon すごいものを読んだ。とにかく「とりとめがない」という一語に尽きる。さすが芥川賞。 冒頭は既に豪雨の場面だが、主人公が日本語教師としてインドのチェンナイに来た経緯をさかのぼるところまでは普通の小説だ…

死とどう向き合うか~井上靖『補陀落渡海記』×金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』

井上靖『補陀落渡海記』 補陀落渡海記 井上靖短篇名作集 (講談社文芸文庫)作者:井上 靖,曾根 博義講談社Amazon4月頭に家族で和歌山旅行に行った。時間の関係から、訪れることが叶わなかったが、旅先の候補として挙がっていた補陀落寺。その予習として読んだ…

忙しい現代人に刺さるロボットSF~チョン・ソンラン『千個の青』

千個の青作者:チョン ソンラン早川書房Amazon表紙イラストから受ける印象の通り、とても爽やか、でも力強い物語。あらすじとしては、Amazon等にある短めのものよりも少し長めの以下の方がストーリーの要点を抑えている。 故障のため安楽死させられる競走馬・…

研究報告風SFの衝撃~柴田勝家『アメリカン・ブッダ』

アメリカン・ブッダ (ハヤカワ文庫JA)作者:柴田 勝家早川書房Amazon もしも荒廃した近未来アメリカに、 仏陀を信仰するインディアンが現れたら――未曾有の災害と暴動により大混乱に陥り、国民の多くが現実世界を見放したアメリカ大陸で、仏教を信じ続けたイン…

F先生作品のような親しみやすいSF短編集~キム・チョヨプ『わたしたちが光の速さで進めないなら』

わたしたちが光の速さで進めないなら作者:キム チョヨプ早川書房Amazon著者あとがき、そして解説が素晴らしすぎると、自分の言葉で考えなくなるから 、 それはそれで問題だ。 特に短編集は、複数の作品に込められた作者の思いを読み解くのが、読後の「振り返…

義時ライジングの流れが理解できた~本郷和人『承久の乱』

承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書)作者:本郷 和人文藝春秋Amazon今年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の放送直前の正月に「鎌倉殿サミット2022」という特番(NHKがあり、番組が立てたいくつかの「謎」に対して複数の歴史学者が持論を戦わせて…