Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

俺か、俺以外か。~済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』

千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話作者:済東鉄腸左右社*Amazon 刺激的な本だった。 読後に、済東鉄腸さんは、一体どんな人なんだ、と検索して以下の記事を見つけた。 タイトルにもあ…

2人の邂逅と1891年の日英露~松岡圭祐『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』

シャーロック・ホームズ対伊藤博文 (講談社文庫)作者:松岡圭祐講談社Amazonホームズがクトゥルーに立ち向かう『シャーロック・ホームズとシャドウウェルの影』を読み、さあ、聖典(コナン・ドイルによるホームズ本編)を読むぞ!と息巻いていたのが7月。 そ…

アイドルが描く、アイドルの気持ち・ファンの気持ち~モモコグミカンパニー『御伽の国のみくる』

御伽の国のみくる作者:モモコグミカンパニー河出書房新社Amazon 2作目の小説『悪魔のコーラス』が話題になっていたことから作者に興味が湧き、1作目『御伽の国のみくる』を読んだ。 作者のモモコグミカンパニーさんは元BiSHのメンバー。 BiSHは色んなところ…

「正しさ」を求めず「迷い、問い続ける」フェミニズム~ひらりさ『それでも女をやっていく』

それでも女をやっていく作者:ひらりさワニブックスAmazonひらりささんは、オタク女子ユニット「劇団雌猫」を組んで、いくつか本を出しており、代表作『浪費図鑑』は昨年楽しく読んだ。 そんな彼女が30歳で一念発起し仕事をやめてイギリス大学院に留学し、フ…

全然わかりませんでした…~グレタ・ガーウィグ監督『バービー』

もともと、映画『バービー』は、予告編を何度も観たが興味が湧かず、スルーするつもりでいた。 それが、いわゆる「バーベンハイマー」*1での炎上騒ぎで悪い意味で注目される一方で絶賛評も多いことから、少しずつ気になっていったが、決め手は、もう一つの炎…

怖いムロツヨシを求めて~吉田恵輔監督『神は見返りを求める』

今年のNHK[大河ドラマは『どうする家康』では、8/13放送回で小牧・長久手の戦いの前半部を放映。 ついに対決する徳川家康と豊臣秀吉。 その豊臣秀吉を演じているのがムロツヨシだ。これまでも怪演を見せていたムロツヨシの豊臣秀吉にさらに焦点が当たってい…

不安ばかりの「多文化共生」~安田峰俊『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』

「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本 (角川書店単行本)作者:安田 峰俊KADOKAWAAmazon 安田峰俊さんは、Twitter上での、いわば「反」左翼的なスタンス(それは時に「右」的に映ることもある)に惹かれ、ずっと気になっていたが、最近のTwitter上でのお気に…

ノルウェーの団地×少年少女×超能力~エスキル・フォクト監督『イノセンツ』

公開初日に観に行った! 大大大満足! 事前に予告編等は見ていなかったが、『わたしは最悪。』の脚本を手掛けたエスキル・フォクト監督の作品であることに加え、団地×超能力×少年少女というキーワードで既にノックアウト。さらには、「ある日本漫画」にイン…

2023年上半期の振り返り(映画)

あっという間に7月も下旬に入ってしまったので、2023年上半期に見た映画のベストを。 なお、去年は上半期、下半期とも振り返りを行っていましたので、今後も半年ごとに継続したい。 pocari.hatenablog.com pocari.hatenablog.com 上半期に見た映画は以下の通…

君たちはどう生きるか~竹田ダニエル『世界と私のA to Z』

世界と私のAtоZ作者:竹田ダニエル講談社Amazon『世界と私のA to Z』。 話題になっていた本で、タイトルがキャッチー。Amazon評価も高い。 読み始めてみると、確かに今の若者、特に言葉としてよく聞く「Z世代」について触れるのにはちょうど良さそうな本だ…

ホームズ、クトゥルーをまとめて履修(開始)できる~ジェイムズ・ラヴグローヴ『シャーロック・ホームズとシャドウウェルの影』

シャーロック・ホームズとシャドウェルの影 クトゥルー・ケースブック (ハヤカワ文庫FT)作者:ジェイムズ ラヴグローヴ早川書房Amazon先日、DCユニバースに疎い自分でも映画『フラッシュ』を楽しめたという話を書いたが、マーベルにしろ、スター・ウォーズに…

傑作アニメVS実写の魅力~『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』VS『フラッシュ』

6/16(金)公開の2つの映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』、『フラッシュ』は両方ともアメコミ原作ということで、公開前から何となく比較してしまっていたが、実際に見るとテーマの共通点・相違点がはっきりしており、両方見て良かった…

高千穂先生、やり過ぎです~高千穂遙『ペダリング・ハイ』

ペダリング・ハイ (小学館文庫)作者:高千穂遙小学館Amazon高千穂遙の自転車関連本は、ちょうど一年前の2022年7月に『ヒルクライマー』を読んだのが初めて。その後、新書で自身のロードバイク生活を語った『ヒルクライマー宣言』を読み、『自転車の教科書』を…

「サービス終了」に町長が立ち向かう~夏海公司『はじまりの町がはじまらない』

はじまりの町がはじまらない (ハヤカワ文庫JA)作者:夏海 公司早川書房Amazon娯楽小説に限っても読まなくちゃいけない本がたくさんある。*1 それにもかかわらず、何故読むことになったのか辿れない本が時々ある。これもそんな本だ。 (あらすじ) 世界(サービ…

2023年上半期の振り返り(音楽)

今年上半期はCDもいくつか買ったのですが、直近聞いていたプレイリストの印象が強過ぎて全部吹っ飛んでしまいました。 なお、サブスクをしていないので、プレイリストは1曲ずつ購入して繋げています。テープとかMDに録音していた時の感じに近いので好きです…

「共感しかない」漫画の読み解き~野原広子『妻が口をきいてくれません』

妻が口をきいてくれません作者:野原広子集英社Amazon数年前から「○○しかない」という褒め言葉が跋扈している。 それほど違和感なく使える言葉だが、あまりにも多く耳にし過ぎるので、自分からは極力使わないようにしている。 この漫画はタイトルに惹かれて読…

村田作品に触れる意味~村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』

丸の内魔法少女ミラクリーナ (角川文庫)作者:村田 沙耶香KADOKAWAAmazon4編から成る中編集ということになるが、収録順に、「丸の内魔法少女ミラクリーナ」、「秘密の花園」を読み、3話目の「無性教室」の途中まで読んで、「あれ、これは自分の思っている村田…

反省と今後の読書計画~芦花公園『ほねがらみ』

ほねがらみ (幻冬舎文庫)作者:芦花公園幻冬舎AmazonAmazonのおすすめでこの本の存在を知り、何より(京王線沿線の駅名でもある)芦花公園という作家名に惹かれて、夢中になって一気に読み終えたのが2週間くらい前。 実はその時の印象はあまり良くなかった。 …

ラストを除いて大満足~『M3GAN』

最初に予告編を観たときから数か月、映画館で毎回予告編を見て、「これは絶対に行く!」と決めていた 『M3GAN』を公開初日に観てきました! ラストの違和感を除けば、最高に面白い映画でした。 ケイディとミーガン とにかく、ミーガンの相手役のケイディが素…

悲観的、でも現実的な日本の未来~相場英雄『アンダークラス』

アンダークラス (小学館文庫)作者:相場英雄小学館Amazonいわゆる社会派ミステリというジャンルになるのだろう。テーマとなるのは、外国人技能実習生問題で、このテーマに惹かれて読むのを決めた。 文庫巻末解説で藻谷浩介さんが「誰が下層(アンダークラス)…

ほんとうのさいわい~是枝裕和監督・坂元裕二脚本『怪物』

是枝監督作品はそれほど見ていない。 それでも今作のタイトルにはとにかく惹きつけられたし、少年2人が楽しそうな予告編との「怪物だーれだ」という言葉の組合せはインパクトがあった。 残念だったのは、実際に見る前に「文脈」を意識せざるを得ないキーワー…

徹底した取材が陰謀論を退ける~堀越豊裕『日航機123便墜落最後の証言』

新書885日航機123便墜落 最後の証言 (平凡社新書)作者:豊裕, 堀越平凡社Amazon これまで、青山透子『日航123便 墜落の新事実』(以下、青山本)で衝撃を受け、日航機墜落の原因について「ミサイルによる撃墜」という陰謀論に傾きかけ、これを否定する杉江弘…

陰謀論から抜け出したい~杉江弘『JAL123便墜落事故 自衛隊&米軍陰謀説の真相』

青山透子『日航123便 墜落の新事実』(以下、青山本)の感想をまとめてから比較的早い時期に、「冷静になってみれば、やはり結論が”ミサイルによる撃墜”というのはさすがにないだろう」と思い始めた。そもそも、自分は、子宮頸がんワクチン関連本*1を読んで…

文章からも挿絵からもカヨへの愛が溢れる~内澤旬子『カヨと私』

カヨと私作者:内澤旬子本の雑誌社Amazonこの本には下心(邪念)があって読み始めた。内澤旬子さんの著作で読んだことがあるのは『飼い喰い』という、三匹の豚と半年間一緒に暮らしたあとで食べてしまう実話。その人がヤギと暮らす、その距離感に興味があった…

個人的好みから外れた「絶対安全コナン」~『名探偵コナン 黒鉄の魚影』

公開時期から少し遅れて4/29に観てきました! 総評 展開が早く、隙なくまとまって面白かった。登場人物の豪華さとテンポだけで言えば、コナン映画の中でもベストと言えるかもしれない。 灰原がさらわれて本題に入るのも早く、映画恒例の「楽しく華やかな(で…

陸自ヘリ墜落と陰謀論~青山透子『日航123便 墜落の新事実』

日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る (河出文庫)作者:青山透子河出書房新社Amazon宮古島沖での陸自ヘリの墜落事故が起きたのは4月6日で、まだ一か月も経っていないが、新しい事実が出ないからか報道はすでに下火のように感じる。 事故の原因に…

終わらせ方への違和感と「犯人の動機を報じるな」問題~ダニエルズ脚本・監督『EVERYTHING EVRYWHERE ALL AT ONCE』

経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と、いつまでも反抗期が終わらない娘、優しいだけで頼りにならない夫に囲まれ、頭の痛い問題だらけのエヴリン。 いっぱいっぱいの日々を送る彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)…

「所有」しない=縛られない生き方~伊藤雄馬『ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』

ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと作者:伊藤 雄馬集英社インターナショナルAmazon 就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブ…

イランとトー横と境界線~アリ・アッバシ監督『聖地には蜘蛛が巣を張る』

聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危…

何度聴いても飽きないUNION~『SSSS.DYNAZENON』全12話×『SSSS.GRIDMAN』全12話の感想

大好きだったグリッドマンの劇場版。 当初は続編の『ダイナゼノン』を観ていないのでパスするか…と思っていたが、あまりに評判が良いので、『ダイナゼノン』全12話を見て、さらに全部見るつもりのなかった『グリッドマン』全12話を見返し、劇場版に備えた。…