Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

スガシカオの方程式(4)〜二面性〜

スガシカオの歌詞の魅力のひとつは、最近、減ったものの、恨みや妬みなどが前面に出た曲が多いということがいえる。特にファーストアルバムでその印象は強く、最新作『PARADE』では「RUSH」などがそれにあたる。*1

気に食わない奴っているじゃない?
あんな奴いなきゃいいのに・・・って思ってない?
そんな状況にすごくいい感じの
不幸の手紙があるんだって

このように針が振り切れている内容の歌詞は、最近は少数だが、同じ曲の中で、わざと「駄目な自分、姑息な自分」を入れ込む、という方法は、かなりの曲にあてはまるパターンとなっている。
一番典型的なのが「ひとりごと」(2nd『FAMILY』収録)のサビ。

僕はいつでもそばにいるよ、おざなりなことを言ってる・・・
明日から僕はちゃんとするよ、なにひとつできやしないのに・・・

「いいこと言う自分」に「すかさず突っ込みいれる自分」が隣り合わせになっている、という、まさに聞かれたくない「ひとりごと」の世界。
これは、実は、相当したたかな戦略で、歯が浮くような「良いこと」を言ってしまったあとでは、バランサーとして、「姑息な自分」を入れるようにすることで、聞く人に共感を得やすいようにしてあるようである。『PARADE』収録の曲でいえば「Progress」なんかは、サビが綺麗すぎるので、歌いだしを工夫してある。

ぼくらは位置について 横一列でスタートをきった
つまづいている あいつのことを見て
本当はシメシメと思っていた

つまり、綺麗なことだけ歌うと、聞き手が「え?世界に一つだけの花?何言ってやがる!」と思いっきり引いてしまうし、歌う側も歌詞の世界にはまりこみにくい。説得力のある、地に足のついた内容にするには、どうしても一工夫必要になってくるのだ。*2

さらに、今回のアルバムでもかなり好みの『38分15秒』。
ここでは、シカオ特有のエロエロな内容で、電話のやり取りが進む。

ほら それは君が脱いでるんじゃなく ぼくの手が脱がせているんだ
長い髪で 顔隠さない方がいいから かき上げて見せて
体中にいま ぼくがしてるキス 指で追いかけてきて
君のことを隠す 小さな布は 自分の指ではずしてごらんよ

38分15秒の間、電話ごしに盛り上がる二人。
他人に見せられない恥ずかしい内容が展開されるのだが、この歌詞のラストがいい。

電話を切った携帯の画面 冷たい文字が表示した
38分15秒の通話記録
38分15秒 なんてくだらない機能・・・

これは、つまり、行為に熱中する間の過剰な盛り上がりと、終わってしまったあとの冷め切った自分との落差を表しているのだと思う。具体的には説明しないが、まさに、森岡正博『感じない男』*3のテーマになっている「感覚」に共通する。
また、「くだらない機能」は、音としては「くだらない昨日」に聞こえるため、終わってしまった感が強調される点も上手いと思う。
いずれにしても、「熱中している自分」と「冷めた自分」の両方を歌うことで、真実味が増している。
『SWITCH』のスガシカオ羽海野チカ対談で、スガシカオは「『これさえ言えたらあとはいらない』みたいな二行があって、そのための前後があるんです」と言っているが、この曲については、ラストの部分がこれに当てはまると確信する。
〜〜〜〜
ところで、上に書いた内容が、ちょうど最近読んだ本にもあった。

お客さんが映画やテレビを見るということは、一つは自分に無いものを求める。例えば腕力が強くて気に入らない奴をやっつける。(略)ちょっとやってみたいですね。ところが現実はそうはいきません。(略)それを実際にドラマの中で、自分に代わってやってもらうと溜飲が下がるというものです。だから、「ああいう人になりたいな」というアコガレる人物を好みます。これをアコガレ性といいます。
しかし、これだけでは一面性ですから、もう一面つけなければなりません。それは「共通性」です。「なーんだ、俺と同じじゃないか」という親近感を持たせることです。これによって、その主人公が非常に近くなり、感情移入がとても楽になります。
新井一『目からウロコのシナリオ虎の巻』P240)

いわく、二面性を持たせることで立体感が出る、深みが出る、ということで、多くのシナリオや歌詞で取り入れられている技術的な部分なのかもしれないが、スガシカオは特にこの点を意識して歌詞をつくっていると思うのだ。
(まだ続くかも)

*1:ただ、この曲は自身のパロディのようで、あまり好きではない。(バクダンジュース+サービスクーポン+秘密結社)/4みたいな感じで、無理やりひねり出したような内容だ。

*2:実際には、音楽なので、説得力のあるメロディにすれば、一部解決するといえる。

*3:感想はコチラ⇒http://d.hatena.ne.jp/rararapocari/20050425/kanji