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『東京 飛行』を語る(2)〜ZIGZAG

東京 飛行

東京 飛行

次に取り上げるのは、アルバム8曲目の「ZIGZAG」。
この曲については、シングル購入時から温めていた不満を、今ぶちまけることにする。
楽曲的には好みの部類に入るのだが、問題は歌詞。
シングル購入時の自分としては、「ZIGZAG」の問題点について追及するようなエントリを立ち上げようと思っていた。しかし、当時は、「明日の神話」の扱いなどOL周辺への不満が重なっていたため、かなり後ろ向きな文章になると気づき、思いとどまった。
そして、その余剰エネルギーをスガシカオ賛辞に向けたのが、「スガシカオの方程式シリーズ」だったというのは、また別の話だ。

「ZIGZAG」の問題点

さて、ZIGZAGの歌詞の問題点は大きく二つある。
一つ目は、以下のブリッジの部分が唐突であり、意味が分からないこと。また、全体の中で浮いてしまい「魔物の住み処に宝」などの言葉が子供っぽく感じられることだ。*1

暗闇の底に眠る智慧
魔物の住み処に宝がある

そして、このブリッジの部分は、次に挙げる問題点から考えても、実はもっと重要な役割を果たすべき場所なのだ。

その二つ目の問題点も結構明快である。
この歌は、かなり分かりやすいメッセージを歌っており、メッセージソング好きの自分としては、とても評価できる部分だ。メッセージの主旨は、具体的には以下の「二つ」。

  • (1)まっすぐな道より回り道
  • (2)もう一回チャンスが来たときのために前向きに努力しよう

問題点は、この二つが繋がらないこと。歌詞を読んでも、どちらがメインなのかわからない。
勿論、タイトルからすれば、(1)がメインなのだが、3度繰り返されるサビのフレーズは「もしもチャンスがもう一回来たときのために」なので(2)。
しかも、(1)と(2)が融合しないので、結局、田島貴男の強い思いは伝わらないままに終わるのだ。
そしてここで一つ目に挙げたブリッジの部分の問題点が再登場する。こういうメッセージソングにとって、ブリッジの部分は「説得力を高める」ために使われるべきだろう。ミスチルの多くの歌がそうであり、オリジナル・ラヴにおいても「鍵、イリュージョン」の名曲ぶりは、ブリッジの部分によるところが大きい。
つまり、「ZIGZAG」のブリッジ部においては、(1)(2)の主張を結びつけ、説得力を増す内容を入れるのが本道だ。しかし、驚いたことに、田島は(1)とも(2)とも異なる内容の歌詞を盛り込もうとしているのだ。
「焼きそば」と「焼き飯」をブリッジ部の工夫でうまく繋げれば「そばめし」になるはずのところを、さらに「トースト」を持ってきて収拾が付かなくなっている状態である。
食べたことはないが、「そばトーストめし」はあまり美味しいと思わない。

この歌について、田島貴男はどう語っているか?インタビューから引用する。

__ラブソングが多いなか、「ZIGZAG」は人生について歌った曲。これはどんな想いから作られたものですか?

自分が危険にさらされる体験、失敗や恋愛は自我が危険にさらされますが、そこで自分で考えて行動した経験は智慧になり、人生の奥行きを知ることになるんです。人の心は時とともにその人が普通だ、スタンダードだ、と思っている道から逸脱していってしまう。回り道をすることこそ人生だと。そしていつチャンスが来ても良いように、常に準備をしておくのが、人間にできる努力だと思うんです。

おそらく、聞き手がかなり編集した文章なのだとは思うが、「そして」を境に、やはり(1)(2)が水と油のようにきれいに分離している。さらに、ブリッジ部の意味が語られているのだが、「暗闇の底に眠る智慧/魔物の住み処に宝がある」という歌詞は「自分で考えて行動した経験は智慧になり、人生の奥行きを知ることになるんです。」と解釈するのが正解のようである。
そこまで読み取れたらエスパーだ。
はっきり言って詰め込みすぎとしか言いようがない。

それでは、どうすればいいのか

ここを書くと、それこそ「何様だお前は」ということになるから、迷ったのだが、折角考えたので書く。
上で散々書いたように、メッセージが多いのが問題で、特にブリッジ部分は唐突すぎるので、ブリッジ部分を削除して、別のものに置き換える方向で考える。*2
自分の好きなスガシカオミスチルと比較すると、田島貴男は「歌の説得力」にかなり無頓着だといえる。その「説得力を上げる方法」について分析したのが、「スガシカオの方程式」シリーズなので、こちらから一つ、「スガシカオの方程式(5)〜現在・過去・未来〜」を取り上げる。
ここでは自分は、以下のような書き方をした。

前にも書いたが、「現在」を歌うよりも「過去」を歌う方が共感を得やすい。一方で、「過去」を歌う場合は、新鮮味のあるメッセージは伝えにくい。(スガシカオの指摘する、いわゆる「呪い」のかかった状態になりやすい)

しかし、「現在」のみを歌うのは共感を得にくい。単なる押し付けになってしまったり、聞く側が当事者感覚を持ちにくい。(「俺はいいから一人で頑張って」という状態)勿論、ツボにはまれば、聴いている方も熱心にメッセージを受け取るだろうが、効果は未知数、いわばパルプンテ的である。

したがって、「伝わらないリスク」を考えれば、聞き手を一度「過去」の世界に振り返らせてから、「現在」を語るのが最適だ。

とことん「現在」に視点を集中させる「ZIGZAG」については、この方法が非常にマッチする。
つまり、こんな風に、リスナーに語りかえるような内容をブリッジ部に入れればいいのだ。

  • 今まで来た道を振り返ってごらん
  • 回り道でも懸命に生きた方が、自分の血となり肉となってきたじゃないか
  • だから、今を愚直に頑張っていこうぜ

(歌詞にはなっていないが)どうだろうか?
「魔物の住み処」より断然分かりやすいメッセージソングになるのではないかと思う。
(多分、規模を大幅に縮小して次回に続く)

*1:ちなみに、「ジ、ジ、ジ、ジグザグの旅が続く」の部分は、中村一義もカバーしたポンキッキの名曲「まるさんかくしかく」を思い出してしまうのですが、自分だけでしょうか?

*2:それ以外には「チャンスがもう一度」の意味が強すぎるにもかかわらず、メッセージとしては重要ではないので、これを外す、なども考えられる。