Yondaful Days!

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『東京 飛行』を語る(7)〜ジェンダー

東京 飛行

東京 飛行

originalovebeerさんと、現時点でもいろいろ内容が被りつつあるので、忘れぬうちに書いておく。
『東京 飛行』が、他のアルバムと比べて異質であることは、「ジェンダー」という曲に特徴的に表れていると思う。
というのは、「ジェンダー」が、今回のアルバム『東京 飛行』の一曲目であるからだ。

オリジナル・ラヴの「一曲目」の意味

オリジナル・ラヴのアルバムでは、聴く側を驚かせる、強烈な印象を持った曲や、異常に完成度の高い曲が、一曲目に選ばれることが通例になっている。(と思う)
特に顕著だと思うのは以下。

  • 『Desire』の「Hum a tune」
  • 『L』の「Wedding of The Housefly」〜「水の音楽」(2曲セットで)
  • ビッグクランチ』の「女を捜せ」
  • 『街男』の「築地オーライ」

また、ファンクラブ内企画として、「ライヴ一曲目予想」が催されていることから考えても、田島貴男にとって、一曲目というのは特別であり、ファンの予想を凌駕するような曲を聴かせてやろう、という一貫した思想が伺える。
そういう観点から見た場合、「ジェンダー」は、これまでのアルバム冒頭曲と比較して弱いと感じられるのだ。
あくまで、自分の予想だが、当初想定されていたアルバム冒頭曲は「13号室からの眺め」であったと思っている。
先行シングル「明日の神話」が「愛」についての壮大なバラードだったことから、そのベクトルを逆に行くような「乱暴」な楽曲として、「13号室からの眺め」が用意されていたことは、自分の中では確信に近い。
また、楽曲的なインパクトも「ジェンダー」よりは「13号室からの眺め」の方が強い。
アルバム発売時に試聴機を通して得た「一曲目が弱い」という感想は、今考えてもやはり、間違いなかったと思うのだ。(個人的な印象の話ばかりで恐縮です。)
したがって、意地悪な見方をすれば、特徴的なリフは、「弱点補強」という言い方もできるかもしれない。。
繰り返すが、これまで、田島貴男がベストアルバムに「変身」と命名していることからもわかるように、常に「脱皮」を繰り返すオリジナルラヴのポリシーであったと思う。(以下、鹿野淳との対談)

「自分でもよくわからないんだけど、ただ推測するに、クラッシュやスペシャルズのジェリー・ダマーズ、そして何と言ってもジョン・ライドンが大好きだったんですけど、彼らってどんどん変わって行ったでしょ? アルバム 1 枚出すごとに『凄え! 全然違うじゃん!』っていう驚きがあった。それが少年時代に刷り込まれてるんじゃないのかなって、自分で思うんだよね。ジェリー・ダマーズもジョン・ライドンも、クリエイティヴだなぁっていうムードがプンプンしてきたわけですよ。ジョン・ライドンなんて PiL 始めた時に自分で『ピストルズなんてクソだ!』って言ってたし。だから自分も、ああいうふうに変わり続けるのがカッコいいって思ってたんじゃないのかなぁと、今考えると思うんです。 GANG OF FOUR だって、ファーストとセカンドまったく違うでしょ? セカンドになってどれだけ変わったか! 俺はセカンドに本当にガッカリしたんだけどさ」

しかし、今回のアルバムの一曲目の印象だけで考えると、そのオリジナル・ラヴのポリシーを変えているように思える。
それが僕自身にとっては「驚き」だった。

なぜ「ジェンダー」なのか

それでは、なぜ冒頭曲が「ジェンダー」になったのか?
結論からいえば、最終的に歌詞を優先させたということに尽きる。

『街男街女』において「歌詞」の面での何らかの開眼をし、『キングスロード』での名曲群を教師としたゼロからの作詞勉強を経て、当然といえば当然の方向だが、今回のアルバムは、楽曲よりもアルバム全体のメッセージ性を重視したのだ。

「だから、たぶん最近は『本当のこと』を言いたかった時期なのかなぁと(この作品を作って)思いました。サウンドよりも詞を書きたかった時期だったのかもしれないですね。『“本当のこと”を言ってしまうと世界が凍る』っていう言葉もあるように、人が引いちゃうところもあるかもしれないけど、でも僕なりの正直なことを言いたい時期だったのかもしれないですね」

今回のアルバムの一曲目が「ジェンダー」である意味は、「男と女」のことを通して伝えたかった田島貴男のメッセージが、この曲に満ち満ちているからだろう。歌詞カードを見ると、とてもいい内容。
そう、歌詞カードを見ると・・・。
こちらで、originalovebeerさんとLindaさんが、歌詞カードを、聴きはじめから見るかどうか、という話をしていたが、自分は、はじめは聴くに任せて、あとになってから空耳ぶりを確認するタイプなのでoriginalovebeerさん派。
そういう聴き方の違いによる影響はあるのかもしれないが、「ジェンダー」については、やはり歌詞を詰め込みすぎという感じはする。もっといえば、あまり「フィジカル(肉体的)」ではない。
以前、この曲のことを、リフ3兄弟?の中で優秀な末っ子と述べたが、どうしても「頭でっかち」な歌という印象は残る。乱暴な兄貴の方が成長するのでは・・・?
はっきり言ってしまえば、フィジカルでない曲は、間違いなくライヴ映えしない。そういう意味では、「ジェンダー」の評価は、ライヴまでわからないのかもしれない。

タイトルの問題

いろいろ書いたが、アルバム全体の魅力が強かったのに救われて、この曲は、苦手曲にはならなかった。リフに身を委ねていれば、ちゃんと乗れる曲だ。
それよりも自分としては、引っかかるのは、やはりタイトルだ。普段使わないような言葉であっても構わないが、用法をめぐって論争が起こるような言葉を選ぶのは、正直言って失敗だと思う。
たとえば、昨年発売された単行本『バックラッシュ!〜なぜジェンダーフリーは叩かれたのか〜』のキャンペーンブログでは、最初に「ジェンダー」の定義を以下のように行っている。

【セックス/ジェンダー

生殖学的性別すなわち「セックス」に対置される社会的・文化的・心理的な性別のあり方を指す言葉として1950年代に「ジェンダー」という用語が採用されて以来、この語は社会科学やフェミニズムにおいてさまざまな論者によってさまざまな定義を与えられ使用されてきた。この欄でその変遷を詳しく解説することはできないが、現在使用されている用法は大きくわけて二つあると理解しておくとジェンダーに関する議論が理解しやすくなるだろう。

 用法の一つ目は、単純に「セックス」の対置物としての「ジェンダー」だ。

引用はここでとめておく。
自分の理解は、一つ目(単純に「セックス」の対置物としての「ジェンダー」)はわかるが、二つ目(「ジェンダーがセックスを規定する」という主従関係のある「ジェンダー」)に話が進むと、もう頭がショートしてしまう。
しかも、関心が無い話題ではないが、概念的な部分に議論が偏りすぎているため、他に比べて、非常に優先度が低い(一生懸命頭をひねってまで理解しようと思わない)ため、結局理解が進まない。
そこへきて、引用先のエントリでは、コメント欄で既に論争が始まっており、自分は、結局、この話題については、入り口にも到達できずないまま苦手意識だけが募る。ただただ「難しそうな内容の話だ」という印象しか残らない。
その「難しそうな概念」を曲名にするというのは大胆といえば大胆だが、自分にとっては近づきにくいタイトルだ。
そもそも、上記の理解で言えば、歌詞の内容から考えると「社会的・文化的・心理的な性別のあり方」を指し示す言葉として、「ジェンダー」を使ったわけではないようだし、だからといって「セックス」としても違和感がある。結局、この歌は「ジェンダー」+「セックス」の内容を示すものといえるが、かといって、上記の「ジェンダー」の定義の二つ目に該当するわけではなさそうだ。
ということは、そもそも、タイトルに「ジェンダー」を持ってくる必然性はないわけだ。勿論、代替案は思いつかない。インパクトとしては面白いタイトルだとも思う。
田島貴男が「男と女」について、大局的な視点から捉えた言葉を使いたいこともはわかるが、上のようなことを考えると、自分にとっては、とても「歯がゆい」タイトルなのだ。