Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

01山里亮太『天才になりたい』

天才になりたい (朝日新書)

天才になりたい (朝日新書)

南海キャンディーズの山ちゃんこと山里亮太の本。決して名著ではない。でも好きな本だ。
読みやすいのは確かだ。吉本興行の養成所NSCの生活についての描写も多く、お笑い芸人たちの切磋琢磨の様子を覗き見ることができる。知った名前も数多く登場し、お笑いに興味がある人はすんなり読めるだろう。
しかし、分かりにくい部分も多い。「天才になりたい」というのは、お笑いに生きようとする人は共有できる気持ちなのかもしれないが、普通の人は共感しにくい。自分が天才でない故の「偽りの天才」制作作業の中で積み上げていく「張りぼての自信」、これは本書のキーワードで、文章中に頻発する。全く理解できないわけではないが、山里亮太の思い入れが強すぎて、ついていけない部分がある。芸人なのに、サービス精神に欠けるとさえいえる。

それでもこの本が好きなのは、やはり山ちゃんに魅力があるから。
考え方が内向き過ぎるし、自分が彼のようになりたいわけではないが、いいところがたくさんある。
ひとつは「出会い」を大切にし、人に感謝する気持ちが、文章中に絶えず現れていること。直接自分と関わらないことでも、こういう描写を読むと気持ちが明るくなる。
もうひとつは、とにかくポジティブに生きようという心意気。この人は策略家だ。

(お笑い界で)がんばるモチベーションの大きな一つに小倉さん*1への恩返しもしっかりと入っている。これは美談めいて喋っているのではない、この恩返しという気持ちも自分の武器になる、モチベーションのもとはあればあるだけいいものだ、だからなんでも増やせばすべて自分のものになる、そう考えているから。(P105)

何でも、自分が前に進む材料と考えていく。特に「何かを成し遂げよう」という気持ちは、実は「折れやすい」ことを山ちゃんは知っている。だから、このようにしてモチベーションを上げる材料を意識してストックしているのだ。

そして、文章的には、それほど巧みなレトリックがあるわけでもなく、ひたすら自分のことしか書いていない内容なのに、惹きつけられるのは、彼が足掻いているからだ。
逃げないで乗り越えようとしているからだ。
この本には、それがあった。
人の心を揺り動かすものがあった。

僕は運がいい、この出会いがなかったら心が折れていたかもしれない。そういえる人に何回も出会えているのだから。そんな話をしたときに亀井さんはこう言ってくれた。
「運もあるかもしれない。ただ、自分の道を一生懸命に走っていると人は必ずそこに引き寄せられていくものだ。」(P131)

山里亮太の好きな言葉殿堂入りした名言だという。
自分も、この『天才になりたい』から得たものを自分の武器として、人の心を引き寄せ、揺り動かすような生き方をしていかなければな、と元気になれた一冊だった。

参考

僕が南海キャンディーズを知ったM-1グランプリ2004のネタはこちら。

衝撃的でした。人に勧めたくてしかたくなったのを思い出します。

*1:足軽エンペラー」時代に、「ガチンコ!」でお世話になった作家