Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

谷村智康『CM化するニッポン』

その独特の切り口と、ユーモア溢れる文章が楽しい「木走日記」は、更新を楽しみにしているサイトのひとつ。
今回、電通ネタ(マスメディアのタブー)について取り上げられており、最近の自分の関心ごとと一致したので、興味深く読ませていただいた。
具体的な話が出てきており、業界の仕組みがよくわかっていつもどおり面白かったのだが、期待に比べると新たな発見の部分は少なかった。(産経新聞社説を取り上げたひとつ前の記事のほうがよかった)
というのは、少し前に読んだ『CM化するニッポン』が今回のエントリと重なりながらも、これより深く掘り下げた内容になっていたからである。

CM化するニッポン―なぜテレビが面白くなくなったのか

CM化するニッポン―なぜテレビが面白くなくなったのか

図書館で借りた本なので、手許に現物がないのが不安だが、その内容について少し記憶をたどりながら書いてみる。

見えない広告

この本の中で執拗に取り上げられていたのは、テレビにおける、通常のCM以外の「見えない広告」の話である。
ドラマやバラエティ番組の中で特定商品が取り上げられたりする*1のはわかりやすい例としても、報道番組などでも「買わせる」ための情報が含まれていることがほとんどだ、という話だった。
こういった広告は、実際には公正さが問われる報道番組では放送できないのだが、報道「風」番組ではいくらでも可能だという。『やじうま』や『めざまし』は報道番組ではないので、いくらでも「見えない広告」を入れた番組づくりが可能になる。(こういった番組では、メインキャスター達とは別の場所から「ニュースをお伝えします」と始まる数分のシーンだけが「ニュース」(報道)扱いになるということだった。ここでは広告が入れられない。)

情報の真実性

こういった報道「風」番組で、もうひとつ問題なのは、「真実性」の話である。
テレビ番組では、ドラマの場合、最後にテロップが出ることから分かるとおり、明確にフィクションである。しかし、ニュース(報道)とドラマ以外は本当なのか作り事なのかを明確にしない。そして、情報の真実性の責任をテレビ局や番組制作者は負わない、と本書は指摘する。
これは「あるある」騒動という実例を通じて、多くの人が共感できることだと思う。

広告会社とPR会社

さて、『CM化するニッポン』の肝の部分は「PR」の重要性について書かれたところだと思う。
ただし、こここそが自分自身が消化不良の部分でもある。(だから、この本の感想を書けずに放っておいたのだ)
作者は、広告会社とPR会社とは別の存在だとし、日本人全体に「PR」の技術が欠けていることを説く。
特に、「試しにPR会社を使って国際世論を買ってみましょう」として、自衛隊による国際協力の有効性を認めさせるのにいくらかかるかをシミュレートしている部分が圧巻。
PRによる世論誘導などは、日本では陰に隠れて見えづらいが、米国などでは専門企業が大手を振って行っているように書かれていたように思う。(かなりあやふやだが、会社の規模を挙げて両国の違いが説明されていた。)

そのほか

他に「おっ」と思ったのは以下の部分。いずれも、少しかじったことのある人には常識的な内容なのかもしれないが・・・。

  • テレビに限らず、広告は「東京だけおさえておけば」十分に効果があるため、ローカルのテレビ局には、CMスポンサーがつきにくい。結果として、地方テレビのCMは、パチンコ屋、消費者ローン、宗教法人ばかりになってしまう。
  • なぜ地上波デジタルなのか?(地上波デジタルでは放送塔の建て替えや中継局など、コスト膨大。CSの方が、それほど品質を落とさず圧倒的に低コスト)
  • ⇒キー局とローカル局による全国放送という今までのシステムを手放したくない
  • ⇒CSでは、既存のテレビ局以外の力が強くなる。
  • ローカル局がなくなると、地方取材を受け持つチームがなくなる・天下り先をつぶす
  • ⇒つまり、地上波デジタル放送は既得権を守ろうとする斜陽産業の妥協の産物
  • ※米国は、ケーブルテレビの跋扈で、力が分散し、キー局の「権力」は、ほとんどない。米国の二の舞になるのを避ける手段として、地上波デジタルが出てきた。
  • 花王という会社は、非常に詳細な広告用のデータを持っており、広告代理店もPR会社も、花王には全く頭が上がらない。

まとめ(?)

先日の「たかじんのここまで言って委員会」で辛坊治郎さんも言っていたが、テレビについては、民法各局の間に競争が生まれず、合併や倒産なしに(一社だけ倒産)何十年も続いている状況が異常であり、それこそが、こういった問題を生む背景としてあるのは間違いない。ここら辺の話は、番組でも取り上げられていた『電波利権』あたりを読んで勉強したい。

電波利権 (新潮新書)

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*1:キムタクがレーサーに扮するドラマ『HERO』とトヨタの関係が例として挙げられていた