Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

鬼頭莫宏『ぼくらの』(1)〜(4)

ぼくらの 1 (IKKI COMIX) ぼくらの 2 (IKKI COMIX) ぼくらの 3 (IKKI COMIX) ぼくらの 4 (IKKI COMIX)
そもそも、この作品を知ったきっかけは、6月頃の、アニメ版監督のブログでの、原作に対する批判的発言が話題になったこと*1だった。騒動自体への興味もさることながら、一見エヴァ風の設定(選ばれた子どもしか操縦できないロボット)がどのように展開するのか見てやろうじゃないか、と当時は、やや歪んだ形で興味を持っていたが、実際に読むことはなかった。それが最近になって、図書館で借りて追っかけているSFマガジン連載の評論『ゼロ年代の想像力』との絡みで、(おそらく)ゼロ年代の漫画として、今が「読み時」なのではないか?という感じがして、ついに手を出した。
ということで、あくまで理屈から入った漫画だからか、1巻の印象はあまりよくなかった。「契約」した子どもたちが数百メートルの高さのある巨大ロボットを操縦し、正体不明の敵を倒す。設定としては、それなりに惹かれても、少なくともアニメのエヴァンゲリオン1回目のような期待感は無かった。
むしろ、全然別のことを思っていた。
絵が怖い。
鬼頭莫宏の漫画は初めて読んだのだが、鉛筆の線のように、細い線を重ねて書いた、弱々しい線、もろそうな顎、細い首は、自分にとって、御茶漬海苔(『惨劇館』などで知られる漫画家)を思い出させるのだ。
ということで、ストーリーよりも絵の怖さに引きつけられながら、1、2巻を読み進めた。
(以下ネタばれあり)
現在4巻まで読んでいるが、3巻から急に面白くなる。
というのは、漫画世界の内側から「ルール」への言及が多くなるからだと思う。
映画化も決まった『イキガミ』の新シリーズを読むたび思うのは、登場人物が物語の設定*2を素直になぞりすぎだということ。ひとつひとつはいい話なのだが、ややワンパターン化してきているし、そもそも、イキガミの設定自体に、自分はあまりリアリティを感じない。むしろ国民クイズ*3の方が現実世界に起こりそうな話だ。
ルールの話だが、例えば、『デスノート』なんかは、物語内で序盤に設定された綿密なルールが上手く機能しながらも、登場人物の、それに対する挑戦みたいな部分の話が面白かった。ルールから逸脱しようとする流れが物語に勢いを与えるのだ。
『ぼくらの』に戻るが、3巻では、これまでの話の筋から大きく二つの逸脱が生じる。

  • 子どもだけの世界への、大人(国防省)の介入
  • 世界を守る選ばれた子どもたちであるはずの仲間内での殺人

契約者である子供たち一人一人にまつわるサブストーリーも面白いものがあるが、そこは「おかず」にしておいて、あくまで、ルールの部分を中心におく話のつくりは非常に自分好みだ。(『イキガミ』とは逆)
さらに4巻で、「11人いる!」*4的な話が出てくるのは非常に上手い。1巻ののんびり感はどこに行ったんだ?というくらいテンポもよい。その直後に、「大人」である関、田中の二人が(契約することの意味をわかった上で)契約してしまう部分には違和感がある*5が、ここまでの展開からすると、上手く落としてくれるのだろうと思う。
ということで、ストーリー展開については、かなり信頼感をもてるようになった。また、話が進むにつれ、作者が軍事オタクというか、戦記物趣味だからなのだろうか、メカメカしいものの迫力が感じられるようになり、自分にとって「怖い」だけだった絵柄に味が出てきた。
〜〜〜
勿論、子供同士での殺しのシーンや、本田千鶴が騙されて乱暴されるシーンなど、子どもが読むには刺激的な部分が多いかもしれないが、今のところ、「やり過ぎ」という感じもせず、当初の印象とは異なり、素直に「次」を期待している漫画になってきた。
月刊誌の連載ということもあり、あまり早く最新刊まで到達しないようにスピードを調整しながら次巻以降も読んでいきたい。

*1:「原作が嫌いです」「原作ファンは見ないでください」 「ぼくらの」の監督、森田宏幸が発狂。:http://www.heiwaboke.com/2007/06/post_959.html

*2:以下、Wikipediaの「イキガミ」より抜粋:「国家繁栄維持法」。この法律は国民に「生命の価値」を再認識させることで国を豊かにすることを目的とし、その手段として若者たちを対象にしたある通知を出している。その通知とは「逝紙(いきがみ)」と呼ばれる死亡予告証である。 およそ1000分の1の確率で選ばれた者は、紙を貰ってから24時間後には死んでしまう。

*3:Wikipedia国民クイズ」より以下抜粋:近未来、日本は民主主義を捨て、クイズによって権利を勝ち取る異形の全体主義国家となっていた。

*4:竹宮恵子の古典漫画。Wikipediaの説明を借りれば「宇宙大学の入試の実技試験で、宇宙船・白号の中に入ってみると10人だけのはずがなぜか11人いた。11人目は誰なんだ」という話。

*5:あと、第20話は、挿入される場所として適切なのかよくわからない。勿論、この話がなくても、すんなり読める。